恋の片道切符
これから綴られる文章は全て事実であり私の二年間の物語である。
※登場人物は偽名
結局恋なんて惚れたほうの負けなんだ。
夏の訪れを感じる5月のある日、私は友人と共通の趣味である高校野球を見に朝早くから球場に来ていた。
開門30分前に一通のLINEが届いた。
女友達の美鈴からだった。
彼女も私と同じく高校野球が好きで時々一緒に見に行くような仲だった。
「今日私の友達も一緒に連れてくから!」
特に私には関係のないことだったので一言「うん」と返しておいた。
まさかこれから二年間に及ぶ私の片思いが始まるとも知らずに...
それから10分程たった頃美鈴が来た。
その隣には美鈴が言っていた友人がいた。
高身長で大人びた服を着ているが、それに反比例するかのような幼い顔をしたかわいらしい子だった。
後になって思うが、私は一目見た瞬間から惹かれていたのかもしれない。
いわゆる一目惚れってやつだ。
ちなみにだが二人とも歳は私の一つ下の子だ。
お互い人見知りだったこともあり何とも言えない距離感のまま時が過ぎていったのを今でも覚えている。
その何とも言えない距離感を感じたのか美鈴が「Rickyも多分Twitterでフォローしてると思うよ」とその子のアカウントを教えてくれた。
私は急いで自分のTwitterのフォロー欄を確認したら美鈴が教えてくれたアカウントがあった。
彼女は「海未」という名だった。
私は緊張のせいか片言でよろしくと言いその後は緊張のせいか記憶がない。
この日は一通り試合を見て家路についた。
次の日も連日行われる高校野球を見に私は球場へと足を運んだ。
その日は昨日と比べ物にならないほど寒く、昨日と同じような格好で来てしまったことに心底後悔していた。
暇だなと思いおもむろにTwitterを開くと一件のDMが来ていた。
昨日会った海未からだった。
「おはようございます!今日私もRickyさんと同じところに行くんですけど、寒いので何か温かいものでも買っていきましょうか?」
昨日会ったばかりの子に気を遣わせるのは気が引けたものの寒さに勝てなかった私は優しさに甘えお願いしてしまった。
多分このちょっとした気遣いができるところも私が惹かれた理由なんだろう。
しばらくして海未がきて暖かいお茶をひとつ私にくれた。
お茶の温かさと同時に海未の心の温かさも私の中に伝わってきた。
この日から海未という存在が私の中でだんだんと大きなものになっていった。
この気持ちが完全に恋心へと変わったのは夏のとある日のことだ。
夏と言えば高校野球が一番盛り上がる季節。
私は相も変わらず試合を見に球場へと足を運んだ。
この日は美鈴と海未も来るということだったので3人で見ようと話しをしていた。
この日は1日で4試合もあり私は3試合目が終わったら帰るつもりでいた。
そんな中、美鈴が用事ができたと言い2試合目が終わると同時に帰っていった。
残された二人で3試合目を見て私が予定通り帰る準備をしていたところ横から「帰んないで」という声が聞こえた。
海未が4試合目も見たいから一緒に残ってくれということだった。
私も特に帰らなきゃいけない理由もなかったので日が沈み始め照明がついた球場に残ることにした。
私は海未のことを密かに気になり始めていたので一緒にいれる喜びと緊張で気が付いたら4試合目が終わっていた。
球場から最寄りの駅まで20分ほど歩くので一緒に駅まで歩いて帰ることにした。
歩いている途中、今日の試合のことを楽しそうに話す海未を見て私の中で海未への気持ちが完全に恋心へと変わっていた。
その後も何度か一緒に試合を見る機会があったが何も進展しないまま年が明けていった。
それから私自身が多忙になり高校野球を見に行く暇がなかなか無く春、夏と時が経っていった。
そして秋を迎え11月になり海未の誕生日月となった。
とにかく自分の気持ちに少しでも気づいてほしいという思いが強くなり、誕生日にプレゼントをあげようと買い物に出かけた。
初めて渡す誕生日プレゼントでネックレスはおかしいか...とか食べ物をあげても自分の気持ちに気付いてくれないよなぁ...など一人店の中をぐるぐるしていた。
結局選んだのは1万円ほどの香水だった。
これなら普段も使えるし名の通ったブランドだしちょうど良いんじゃないかと思い購入した。
正直独り暮らしの身に1万円は痛手だったが恋は盲目と言われる通り、海未が喜んでくれたらいいなという思いしか私の中にはなかった。
もはや自分の生活など二の次だ。
そして海未の誕生日が迫ってきたある日、偶然見たい試合が被り一緒に見ることになった。
二人で会う理由がなかっただけに、この時ばかりは神様に心から感謝をした。
そして当日、少し遅れてやってきた海未に準備しておいた誕生日プレゼントをあげた。
そしたら海未は私の想像以上にプレゼントを喜んでくれてほっと一安心した。
いつか自分の思いをちゃんと伝えなくちゃ。
そう強く思わされる一日となった。
まさかあんなことになるとは思いもせずに...
同月下旬、私と美鈴と海未の三人で飲みに行くことになった。
美鈴がなかなかあと一歩を踏み出せない私を見かねて、海未の気持ちをさりげなく聞いてあげるという裏設定をつけて集まることになったのだ。
順調にお酒が進み三人とも気分がよくなってきたころついに美鈴が海未に質問を投げかけた。
「ねぇ海未って気になる人とかいないの?」
私は酔いの中、耳を何とか傾けた。
すると海未が「今気になってる人がいるんだよね」とどう転ぶかわからない答えが返ってきた。
一呼吸おいて海未が続けた。
「ほらこの人!この前一緒にカラオケ行ったんだ」
え、、、
私の頭も心も空っぽになった。
処理が追い付かず、何とか表情を作り「へぇーそうなんだ」とこれぞ棒読みと言わんばかりの何も感情がこもっていない返事を返した。
この時の様子を後から美鈴に聞いたところ、本当に死んだかのように何もかもが抜けていたと言われた。
それもそうだ、約二年間片思いし続けたのに友達に紹介されてたった3回しか会っていない男にいともたやすく彼女の心を持っていかれたのだから。
確かに二年間もありながら何もできなかった私が悪い。
彼女が面食いだという情報さえなければ今頃は...
こうしてあえなく私の二年間の恋の片道切符は終電を迎えたのだった。
今はどうなのかというと、彼女との交友関係も続いておりつい二カ月ほど前に美鈴との三人で飲んでオールしたばかりだ。
海未には今彼氏はいないらしいが、今では友達という関係が一番しっくり来ており、私も気持ちの整理はとっくについている。
先日、海未のインスタライブを見に行った際あの誕生日プレゼントで上げた香水を今も大事に使ってるよと棚に丁寧に置かれた実物を映しながら言われたときは過去の楽しかった日々がどっとよみがえってきて自然と涙がでていた。
あの頃片道切符で電車に乗り込み走り続けた日々は私の人生の1ページに深く刻み込まれている。
私の人生を色付けてくれてありがとう。
本当に、本当にありがとう。
〜恋の片道切符〜
END
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