守備の影響を切り離して投手を評価する

野球には勝敗という指標があります。10勝5敗ならチームに5の勝ち越しを与えた、5勝10敗ならチームに5の負け越しをもたらした。といった形で投手が勝敗にどれだけ貢献したかを測ろうとよく試みられます。しかし勝敗は投手個人の貢献を評価するうえで適切ではありません。勝敗は投手自身の要因以外に大きく左右されるからです。例を挙げれば

・打線の援護
どれだけ好投しても野手が点を取らなければ勝利はつかない。逆に点を多く取られても打線がそれ以上に点を取ってくれれば勝利がつく。
・救援投手の出来
リードを保って降板しても後を投げる投手が打たれて追いつかれると勝利はつかない。

選手個人の貢献を測るうえで他者の影響に大きく左右される指標は好ましくありません。
投手が勝利に貢献するためにできることは自身の投球によって失点を防ぐことだけです。
そうなると投手個人の貢献を測るのに適切な指標は防御率ということになりそうですが
防御率もまた他者の要因に左右される指標であり適切ではありません。フィールド上に飛んだ打球を処理してアウトにするのは野手の仕事であり投手はそこに関わることができないからです。防御率の計算に使われる自責点は失策など野手の一部のミスプレイについてのみ守備の影響は除外されますがそれ以外の守備に関しては除外されていません。NPB12球団で守備力の最も高いチームと低いチームでは守備で防いだ失点に100点近い差がつくことがあります。また優秀な投手は狙ってアウトを打たせて取ることができると長年考えられてきましたが投手は打たれた打球をアウトにできるかどうかということについてはほとんど関わることができないということが2000年代前半に判明しました。
BABIPという指標があります。フィールドに飛んだ打球がどれだけヒットになったかを表す指標です。

BABIP=(安打-本塁打)÷(打席-四死球-三振-本塁打)

分子の(安打-本塁打)は本塁打以外の安打(つまりフィールドに飛んだヒットの数)、
分母の(打席-四死球-三振-本塁打)はフィールドに飛んだアウトもヒットも全て含めた打球の数を表しています。BABIPの名の通りBall In Play(フィールドに飛んだ打球)のBatting Average(打率)を表すものです。
もし仮に投手に打たせて取る能力があるのならばBABIPの値が低い(フィールドに飛んだ打球がアウトになりやすい)選手は翌年も同様に低い値になるはずでBABIPが高い(フィールドに飛んだ打球がヒットになりやすい)選手は翌年も同様に高い値になるはずです。

BABIP 年度間相関

上記の散布図は1990-2019年のNPBで対戦打者数300以上の投手の前年のBABIPに対して翌年のBABIPの変動をプロットしたものです。横軸が前年の、縦軸が翌年のBABIPを表しています。仮に打たせて取ることが投手の能力であるのならば翌年の値は前年の値に比例して左下から右上まで点がプロットされていき1本の線になるはずです。(勝率と得失点の図のように)しかしこの図を見てみると値はバラついていて比例しておらずランダムな配置となっています。前年のBABIPが低くても(高くても)翌年のBABIPにはほとんど影響してないことを表しています。相関関係の強さを表す相関係数は0.14、ほとんど相関がないということになります。(一般的に相関係数は0.00~0.20の場合、ほとんど相関がないと言われています。)
この結果から投手が自身の投球でフィールドに飛んだ打球をアウトにするようコントロールすることはほぼできないということになります。(少なくともシーズンという単位では)
投手がフィールドに飛んだ打球にほぼ関与できないということになると何をもって投球を評価すればいいかというとそれは野手の守備が関与しない投球でのみ評価すればいいということになります。それは奪三振、与四死球、被本塁打です。この3つの要素のみで投手の投球を評価すれば守備から独立した投球結果で投手を評価することが可能になります。
そのための指標としてFIP(Filed Independent Pitching:守備から独立した投球)があります。

FIP=(13×被本塁打+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振)÷投球回+定数

※定数=リーグ全体の{防御率-(13×被本塁打+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振)÷投球回}

FIPは奪三振、与四死球、被本塁打といった3つの要素の得点価値をもとにスケールを防御率に合わせることで防御率と同じような感覚で見ることができる指標です。
投手が自身の投球のみでどれほど失点を防ぐことができたかの質を見ることができます。


ただしFIPでは質の評価はできますが実際に失点をどれほど防いだかという量の貢献を見ることができません。質と量の両方の貢献を見る場合にはリーグ平均のFIPと選手のFIPを比較したうえで投球回数をどれだけ投げたか(優れたFIPであれば投球回数が多ければ多いほど失点を防ぐことに影響を与えていることになります)をもとにリーグの平均的な投手が同じ投球回数を投げた時よりどれだけ失点を防いだかという形で得点化する必要があります。
そのために失点率スケールのFIPを用いたRSAA(Runs Saved Above Average)で評価をします。

RSAA(FIP) = ( リーグ平均FIP-FIP )÷9×投球回

リーグ平均の場合は0、+10ならリーグの平均的な投手が同じ投球回数を投げた場合より10点の失点を防いだことになります。-10ならリーグの平均的な投手が同じ投球回数を投げた場合より失点を10増やしたことになります。(平均との比較ですのでマイナス評価になることもあります)

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