見出し画像

連載 | BASE ART CAMP interview vol.5 【蔭山陽太】

《BASE ART CAMPを通して目指したいこと》

BASE ART CAMPはBASEのメインプログラムとして2022年に開講予定のビジネスパーソン向けの実践型ワークショッププログラムです。京都にゆかりのあるアート、演劇、映画、音楽といった多様なジャンルのプロのアーティストが講師となり約半年間のプログラムをおこないます。創造の原点に触れるような実践的なワークショップを中心に、アーティストの思考や制作プロセスから人生を生き抜くための術と知恵を学びます。

BASE ART CAMPを運営する「一般社団法人BASE」は、6つの芸術拠点と京都信用金庫が共同で立ち上げた団体です。6つの芸術拠点のひとつである「THEATRE E9 KYOTO」の支配人・蔭山陽太さんにお話をうかがいました。「THEATRE E9 KYOTO」は南区・東九条にある小劇場。さまざまな劇団や劇場での制作・ディレクションを経て、あえて京都の小劇場から文化発信をおこなう蔭山さんから、演じることから生まれる新しい自分という可能性について教えてもらいました。


人はみな表現者だからこそ、あえて「私」を演じるということに着目した演劇づくりをする

ー:THEATRE E9 KYOTOでは、BASE ART CAMPでどんな講座をおこなうのでしょうか?

登頂編の演劇ルートを担当させていただきます。THEATRE E9 KYOTOは、演劇やダンス、現代アートの展示など、アウトプットの方法を表現者がさまざまな形で実現することができるブラックボックス型の小劇場です。THEATRE E9 KYOTOのそうした特徴を活かしたワークショップをBASE ART CAMPでもできればいいなと思っています。

「THEATRE E9 KYOTO」の支配人・蔭山陽太さん

具体的には、実際に舞台で演劇をしてもらうことになります。自ら演劇サークルをつくってもらって、脚本を書いて、出演するところまで登りつめて欲しいですね。

ー:役を演じるってすごく難しそうです……!

そう思う人は多いです。でも、ある意味人間って、生まれた時から表現者なんです。たとえば「社内での自分」「社外での自分」「友人相手の自分」……と、無意識にでもそれぞれの舞台ごとの役柄を大なり小なり演じています。じつは、表現していない人間というのはこの世にいないんですよ。赤ちゃんの時に「オギャー」と泣いたり、あるいは泣かずに黙っていても、それは何か感情を外に表しているということです。

演劇っていうのは、表現する、ということをより自覚的に捉えて、さまざまな手法を使ってメッセージを伝えるという行為です。複雑な舞台装置を使ったり、史実にもとづいたストーリーをつくったりといろいろありますが、今回の演劇ルートでは、最もシンプルな形をとって、「私」をテーマに受講者が自身を表現する……ということを、舞台上で演じてほしいと思っています。

参加者自身が、自分自身とは何かを客観的に見つめて、それを自分自身がどう表現するかってという課題です。実際にお客さんが入った状態で公演するところまでいきたいので、THEATRE E9 KYOTOの演出家やスタッフが、道中ではしっかりサポートをしていきます。

ー:「私」を演じることで、自己の内面に向き合うというか、自分でも知らなかった自分の一面を発見できそうですね。

THEATRE E9 KYOTOの2階はコワーキングスペースになっているんですが、そこの利用者の方々と、以前から演劇づくりのワークショップをしてきたんです。「演劇もビジネスも自己表現」っていうことを手がかりに、劇をつくってきました。別に感動的なストーリーをつくるとか、カッコよくしゃべるとか、そういった制約は一切ありません。舞台芸術作品を自分たちでつくるという行為のなかで、何かを感じてもらうことが大事で。これがですね、僕たちもビックリするぐらい、すごくうまくいってるんですよ。

THEATRE E9 KYOTO

実際に参加された皆さん、その後にめちゃくちゃ仕事がうまくいっていることが多いんですね。何かの型にはまって伝えたり、自身を飾ったりせず、自分自身を解放した形で相手にメッセージを伝えるという経験が、ビジネスに大きく影響を与えているんだと思います。BASE ART CAMPでも「私」を演じることで自分を解放して、そして新しい自分を見つける……そんな体験ができるんではないかと思います。

アート思考は実践経験があってより身につくもの


ー:「演劇もビジネスも自己表現」というのは、確かにそうだと思います。必要にかられて無意識に演じることも多いビジネスパーソンにとっても、自分自身を演じるという行為は大切な気がします。

今時のビジネスパーソンはアート思考を持たなきゃいけないとか、アートへの造詣がなきゃいけないとか、近年よく聞くようになりましたよね。結構プレッシャーになっている人も多いんじゃないかなと思います。どうしたらいいのかわからず、慌てて本を読んだり、展示を見に行ったりするわけですよね。もちろんそういうことはあっていいと思うんですけど、やはりセンスというか、本質的なアート思考というのは、自分自身が手や身体を動かした体験によって培われるし、実践的な経験によって自分のものにしていくことが重要なんじゃないかな。

板前から劇場支配人へなったからこそ感じる、料理と演劇の「記憶に残る糧」としての文化


ー:蔭山さんは、THEATRE E9 KYOTO以前は、ロームシアターの支配人兼エグゼクティブディレクターをされていましたよね。

そうですね。でも私、もともと演劇には全然興味がなかったんです。大学時代の先輩がやってる劇を見に行ったとか、親に連れられて南座や宝塚歌劇に行ったとか、経験としてはそれくらい。なんなら大学卒業後のキャリアは日本料理の板前でしたしね。

ー:板前!?

はい、板前(笑)。3年ほど、北海道の礼文島と札幌で日本料理の板前をしてたんですよ。北海道はおいしいものが多いし、腕さえあれば食いっぱぐれないだろうと。ただ、黙々と料理をつくり続けるなかで人恋しさというか、人に関わる仕事がしたくなってしまって……。いわゆる中居さんがいるような料理屋さんだったので、お客さんと接するということがなくて。それで、東京で歌手として活動する高校の時の同級生を頼って、六本木にある「俳優座劇場」の裏方に転職しました。募集はかけていなかったんですけど、北海道からわざわざ来たというので入れてもらえた。

ー:そんな経緯があるんですね。

大学時代には、文化祭の実行委員をするなどしていたので、人とコミュニケーションを取りながら企画を練り上げていく……みたいなことが得意だったということもあるかもしれません。ただ、抱えてる板前が急に「東京の劇場で働きます!」なんて言うもんだから、板長は口聞いてくれなかったですね(笑)。後釜もいなかったので。最終的には「演劇だかなんだかわからんけど、頑張れ」って送り出してくれました。

ー:偶然性が強い演劇界でのキャリアスタートでしたが、違和感はなかったんですか?

この業界に入ってみてわかったんですが、料理と舞台芸術ってめちゃくちゃ似てるんですよ。料理っていろんな素材を料理して、それをお皿に並べて出す行為に順番があって、それがいわゆるコース料理ですよね。舞台芸術もそうなんですよ。いろんな俳優がいて、俳優に演出を施して舞台のうえに立ってもらって、台本という順番に沿って展開していく。しかも、両方とも終わった後には記憶にしか残らない。私自身は違和感がなかったですね。

「俳優座劇場」から「文学座」、長野の「まつもと市民芸術館」、神奈川の「KAAT 神奈川芸術劇場」。そして生まれ故郷の京都に戻り2013年から「ロームシアター京都」。そしていまの「THEATRE E9 KYOTO」……。板前時代は、いずれは札幌で独立してお店を持つんだとばかり思っていたのに、気づけば30年以上も演劇の場に身を置くことになりました。

京都は昔から新しい感性の演劇が生まれる土地だった


ー:劇場を運営する、演劇をやってみるということにおいて、京都という土地は何か特徴があるんでしょうか?

東京時代、在籍していた「文学座」は、松田優作さんとか、内野聖陽さんとか、長谷川博己さんとか、名俳優を輩出してきた100年以上の歴史がある劇団です。僕はそこで制作をしていたんですが、毎月京都の小劇場を巡ってはスカウトをしていたんです。

京都の小劇場っていうのは、いつも東京とは違った新しさがあって、東京では生まれないジャンルを超えた面白い作品が生まれるところだったんです。いまでは世界に名を馳せているダムタイプも昔は小さな劇場で公演をしていた。京都の演劇シーンには、いつでも刺激を受けてきていました。

しかし、建物の老朽化やオーナーの高齢化で京都の小劇場がなくなっていく問題がありました。それをなんとかしたくて、THEATRE E9 KYOTOは生まれたんです。京都の小劇場には恩があるので何とかしなきゃというのもありましたし、京都の芸術拠点を無くしたくなかった。

常に新しくて独自のカルチャーが湧き出してくる、京都というのはすごく素敵な街なんです。

劇場から生まれる自由な挑戦が社会の豊かさにも繋がる


ー:お話を聞いていると、THEATRE E9 KYOTOで演劇ができるというのは大きな変化のきっかけになりそうですね。ワクワクします。

以前は、大きな公立文化ホールの立ち上げとその場の運営をしてきました。THEATRE E9 KYOTOは、僕が支配人として関わってきたなかで最も小さな劇場なんです。しかし、最も自由で、大きな広がりを見せている劇場だと思っています。

東京に出てきて「俳優座劇場」に入る際、支配人が話してくれたことが印象に残っています。「劇場っていうのは、そこにいろんな劇団とかアーティストが入ってはじめて劇場に色がつく。公演をしていない時には、ある意味で色がない。劇場で働く人の好き嫌いではなくて、いろんな感性を受け入れる懐の広さみたいなものが必要だ」っておっしゃってました。

ー:いい話です……!

THEATRE E9 KYOTOがブラックボックス型の劇場なのも、いろんな可能性を広げていきたいからなんですよね。立ち上げ時は「京都の小劇場をなんとかしなきゃ!」っていうので必死だったんですが、いまは想像以上にいろんなことをやれていますし、社会との関わりができている。そこからまた、新しい可能性が生まれています。

芸術に触れることが全ての人のなかで日常的になれば、もっと豊かな社会になる。そんな社会をつくるために、我々の側からそういう世の中になるように仕掛けていかなければいけない。BASE ART CAMPはまさに私たちの挑戦の延長線上にあります。ワクワクして仕方がないのは僕もなんですよ。

表現者としてのDNAをここから呼び起こして欲しい


ー:最後に、受講者にメッセージをお願いします。

この講座を受講していただくと、全ての人々のなかにある「表現者としてのDNA」と言うか、そういうものが呼び起こされると思っています。必ずそうなると思います。BASE ART CAMPの学びによって自己を解放し、これからの生活や仕事……もっと言えば人生そのものや社会との関係性がすごく豊かになっていく可能性に満ちています。

他にもたくさんアート系の講座っていうのはあると思うんですけど、教科書的に学ぶのではなく、体験するなかで本質を見つけるというところが、BASE ART CAMPのポイントではないかな。自分を変えてみたい人は、ぜひ、受講していただきたいですね。

▼インタビュー動画


▼プロフィール

蔭山 陽太
劇場運営、舞台芸術企画制作、
THEATRE E9 KYOTO 支配人、(一社)アーツシード京都 理事


1964年、京都市生まれ。大阪市立大学経済学部(中退)。札幌で日本料理の板前修行の後、東京「俳優座劇場」、「文学座」企画事業部部長、「まつもと市民芸術館」プロデューサー/支配人、「KAAT 神奈川芸術劇場」支配人、「ロームシアター京都」支配人/エグゼクティブディレクターを経て、2019年より「THEATRE E9 KYOTO」支配人。京都芸術大学准教授、京都精華大学非常勤講師、京都国際舞台芸術祭(KYOTO EXPERIMENT)実行委員会委員、寺田倉庫京都エリア担当プロデューサー/コーディネーター、公益財団法人高槻市文化振興事業団顧問。98年度、文化庁在外研修員(ロンドン)。

《 一般社団法人BASEとは?》

京都の現代芸術の創造発信拠点として活動する5つの民間団体と京都信用金庫の協働で立ち上げた団体です。コロナ禍を機としてアーティストの制作活動のみならず、京都の文化を担ってきた民間の小劇場、ミニシアター、ライブハウス、ギャラリーなど芸術拠点の経済的脆弱性が顕在化し、今なお危機的状況にあるといえます。そのような状況を打破するために、THEATRE E9 KYOTO、出町座、CLUB METRO、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、kumagusukuの民間の5拠点がこれまでにない社会全体で芸術活動をサポートしていくための仕組みづくりのために立ち上がりました。

◆BASE ART CAMP について詳しく知りたい方はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?