見出し画像

それとなく、静寂な夜の真ん中で。

雨は夜の闇も一緒に包み込んで降り注ぐ。

来る時は強かった雨も細い針のような雨に変わり闇に雨が白く光っていた。車のヘッドライトに照らされた濡れた路面が、まるで溶鉱炉から流れ出る液体の鉄のように見える。道脇に灯された電灯の明かりが濡れた青葉を滑り落ちて泥濘(ぬかるみ)の中に燐(りん)のような光を漂わせていた。

病院の敷地外まで出て電信棒に隠れるように傘をさして煙草を吹かす。今やどこもかしこも禁煙で愛煙家には厳しい。ため息交じりに煙を吐き出すも、こんな時に吸う煙草はため息の軌道が見えて余計に落ち込む。このため息の理由を語るには8月21日 21:30まで遡る。

前日の大喧嘩が嘘のようにいつも通りのくだらない話をして笑い合っていた。妻がトイレに行きリビングに入ってくるなり、糸の切れた人形のようにグシャッと倒れ込み「痛い、痛い、頭が割れる。シヌ。」のたうち回った。

またふざけているのかとヘラヘラする僕。少し強めの偏頭痛だろうと軽い気持ちで「ロキソニン飲むか?」と薬箱からロキソニンを取り出す。「……。」聞き取れないくらい息絶えたえに何かを訴えかけるかのように か細い声だった。ここでやっと冗談ではないのかもと思い出す。

「病院行こう。夜間緊急外来あるやろう。」車に乗せようと妻の体を支えながら玄関に向かう途中、突然の嘔吐。ここでやっと異常な事に気づく。頭が割れそうに痛い、歩行不可能、嘔吐。頭に悪い予想が過ぎるも今は一刻も早く病院へ連れて行こうとスマホを取りだし119。

焦る気持ちを抑えて今の状況や住所等を伝える。電話口の人は至って冷静と言うより、機械的な口調で淡々と話を進め 救急車の手配をしてくれた。ただ心配だったのが、うちは奥まった所にあり、住所を伝えても初めてくる人は大体迷うような所にある。救急車が迷わず来れるか心配だった。

心配は的中した。10分前後で到着すると言っていたのに全く来ない。胸のざわつきと苛立ちが交ざり、どうにかなってしまいそうなくらい気持ちが昂(たかぶ)っているとスマホが震えた。出ると救急隊員からだった。場所が分からず迷っていると言うので説明しながら僕は家を飛び出し分かりやすい所まで出ていった。

しばらくすると救急車が来たので家の前まで先導して走った。救急車に近づくと運転手と助手席の隊員がカーナビを指さし「こうこればよかったのか。」と反省会をしていた。「そんなこと後からやらんかい!早く妻を、妻を。」静かな住宅街に僕の罵声が響き渡った。

搬送先が決まり、救急車が出発するとき感情的になってしまったことを隊員に謝ると隊員もまた頭を下げた。行先の病院名を聞いたので僕も向かおうと車に乗り込みアクセルを踏み込んだ途端、強い雨が降ってきた。雨が降る気配なんかなかったのに…嫌な雨だ。胸のざわつきが増すような、不吉な事を加速させるような嫌な雨に感じた。

病院に着き、夜間外来の窓口で説明すると妻が運ばれた病棟と階数を教えてくれた。向かう途中、発熱だろうか、大人に子供 数組の家族が長椅子に座り診察を待っていた。痛さなのか熱さなのか、お母さんに抱きつき泣きわめいてる小さな子供もいた。その泣き声が僕の胸のざわつきを加速させる。何とも、情けない男だ。

病棟に着き、ナースステーションで説明すると廊下の長椅子で待つように言われた。来る途中で見た子供だろうか、隣の病棟から聞こえる子供の泣き声が響き渡る廊下の長椅子に座り、胸のざわつきを反らすかのようにスマホを弄るも全く集中出来ずざわつきが増すばかり。

深夜だというのにナースステーションでは慌ただしく動き回る看護師さん達。処置室からひっきりなしに出入りする当直医や看護師、タンカーに寝かされた患者を見るともなく見ながら待っていると神妙な面持ちの看護師さんが惣菜のカップのような透明な小さな容器を持って僕に近ずいてきた。

「(うちの人)さんの旦那さんです?」静かで柔らかい声で話しかけられ、ゆっくりと頷(うな)き返事をするもハラハラする気持ちから思わず声が裏返ってしまった。

「大切な物ですから大事に持っててください。」うちの人の指輪と髪留めが入った容器を僕に手渡すと何の説明もなく一礼して去っていった。

キョロ(・ω・`三´・ω・)キョロ
えっ?しんだの?ねぇ、亡くなったのwwwwwwwwwちょっwwwwwwなに?この重い空気感wwwこれ、ドラマや映画で大切な人が亡くなった時の渡し方やんwwwwwwwwwギムミー説明wwwwww

あたふたしてる時、容器のフタを見ると名前が書いてあったのだが、苗字が違うことに気づき、慌ててナースステーションに行き、他の人の物と間違ってないか尋ねると「あっ!ごめんなさい。苗字間違ってますね。でも、これ奥さんの大切な物ですから大事に持っててください。」と励ますように微笑まれた。

キョロ(・ω・`三´・ω・)キョロ
えっ?えっ!また説明ないの?wwwwwwやっぱり、しんだの?wwwwwwねぇ、ねぇwwwwwwwwwちょっとwwwwwwwww

あたふたしていると当直医の先生が近づいて来て言った。「CTスキャンしたのですが怪しい影があったので脳外科の先生に連絡しています。詳しい事はもう少しお待ちください。」と。脳外科、嫌な予感がまた頭を過ぎる。

そうこうしていると処置室から妻がタンカーに寝かされながら出てきた。「今点滴していますので、点滴室にご主人も一緒に付き添って挙げてください。」と看護師さんに言われついて行った。点滴中は妻は殆ど話せる状態にはなく、僕が一方的に話した。出来るだけ明るく、ヘラヘラと自分を鼓舞しながら。僕まで落ち込んでしまったら妻が心配すると思ったからだ。

「頭痛はどうだ?少し和らいだか?やっぱり、あれかなー、くも膜…いや、先生に任せたら大丈夫だから今はゆっくりしなよ。」言葉を飲み込んだ。くも膜下出血と言ってしまうのが怖かった。言葉にした瞬間、具現化しそうで。小さな小さな望みだったけど単なる酷い頭痛であってほしい、そうあってほしいから言葉を飲み込んでしまった。

その後、脳外科の先生に呼ばれ説明を受けた。くも膜下出血だった。覚悟はしていた。していが、やっぱり震えた。現状の説明、今後の治療方針等を先生は丁寧に話してくれたが呆然としてしまい全く頭に入らなかった。

イメージ図

ICU(集中治療室)に入るとの事で移動し、ICUの入口で少しだけ時間を貰い話す事が出来た。話すと言っても僕が一方的に語りかけるだけだが、そんな中、妻が力を振り絞り声を出した。口元に耳を近づけるとか細い声で言った。

「愛してる」と。この状況で力を振り絞り伝えたかった言葉が「愛してる」。この一言で奮起した。呆然として不安に襲われてる場合じゃない。僕がしっかりしないと。目が覚める想いだった。続けて妻は言う、「しぬのかな?私。」思わず怒ってしまった。そんな訳あるかと声に涙を交ぜながら。

時間はあっという間に過ぎ、妻はICUへと入っていった。見えなくなるまで笑顔で手を振った。まるで、じゃあまたな、また明日ねと別れるようにニコニコ笑って、笑って、笑って、ドアが閉まった途端、笑顔が泣き顔に変わった。

時計を見ると午前四時。車に乗り込む前に一服して気分を落ち着かそうと駐車場とは反対側の正面玄関の方に向かう。来る時は強かった雨も細い針のような雨に変わり闇に雨が白く光っていた。

車のヘッドライトに照らされた濡れた路面が、まるで溶鉱炉から流れ出る液体の鉄のように見える。道脇に灯された電灯の明かりが濡れた青葉を滑り落ちて泥濘(ぬかるみ)の中に燐(りん)のような光を漂わせていた。

病院の敷地外まで出て電信棒に隠れるように傘をさして煙草を吹かす。今やどこもかしこも禁煙で愛煙家には厳しい。ため息交じりに煙を吐き出すも、こんな時に吸う煙草はため息の軌道が見えて余計に落ち込む。

つづく…。


つづき&中略。

(´°Д°`)つづくの意味www
中略して突然ラストってwww

8月4日、連日の曇り空とはうって代わり、嫌味を感じる程の快晴の日曜日。

先生、看護師、PTさん達の手厚い治療、うちの人の頑張りもあり、順調に回復して予定より数日早く退院致しました。皆様にも温かいお言葉、コメントを沢山頂き、本当に支えになりました。ありがとうございました。

退院したとはいえ、ここからがスタート。まだまだ本調子ではないですが、無理ない程度にリハビリして ゆっくり以前のような日常に戻っていこうと思います。
本当にありがとうございました。ദ്ദി˶ー̀֊ー́ )✧

(o'д'o)強引に話終わらせたwwwwwwwww
起承結結やないかwwwこれwww起承転結の転はどこいった、転はwwwwww

転が?TENGAは良い事あった日に使っ…
(っ・д・)≡⊃)3゚)∵やかましわwwwwww




音声配信スタエフでジャンクという名前でひっそりこっそりやってます。よかったら寄ってくださいな。
↓↓↓

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?