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『好きな食べ物は、なんですか?』

看護学生のころ、
呪文のように何度もいわれた言葉。

『患者さんの思いに寄り添いなさい。』


この言葉は自分の中で、
社会人になった今でも意識するようにしている。


寄り添うって、いったい何だろう。


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看護学生3年目の夏、

本格的に看護師実習が始まる。


基礎、成人、老年、小児、母性、精神、在宅、公衆衛生看護学。
いろんな分野における看護を実践的に学んでいく。

実際の医療の現場で、さまざまな状況の中での判断力や、実践力を身につけていく。
教科書での学びを、現場で紐付けていく。

それぞれ患者さん1人〜2人を受け持ち、
看護計画(どのように援助するか)をたて、P(計画)D(実行)C(評価)A(改善)を行い、循環的に繰り返し行なっていく。


《看護計画の大まかな流れ》                                1.看護目標を決める(長期目標)
看護目標とは、看護計画わや実施することで期待される結果(=ゴール)。
つまり、患者さんにどのようになってほしいか、を決める。                                                            2.短期目標を決める
長期目標をクリアするために必要なひとまわり小さな目標。                                                          3.目標を達成するための、行動計画を立てる


毎朝1人ずつ、自分の考えた看護計画を看護師、指導者の前で発表する。
この時間が、もう、ほんとうに、怖い。


学生にとって、恐怖の尋問タイム
根拠は?』『エビデンスは?

ひとり、またひとり、
自分の発表に近づくにつれ、どっどっどっと、自分の脈拍が大丈夫かと心配になるくらいに、緊迫した雰囲気で毎日朝礼の時間を迎える。


この看護ケアを行う、根拠は?
この時間帯で行う、根拠は?
今やる必要が、本当にあるのか、
根拠、エビデンスを言いなさい。

ひいっ。


根拠、エビデンス、根拠、エビデンス…

なぜ、なぜ、なぜ、考える。考えろ。


なぜ、自分はこの患者さんに、
この看護計画を立てる必要があるのか。


考えるためには、情報が必要だ。


そして、根拠の中に含められる
看護で重要な『個別性

過去○○だったから、
現在○○だから、
未来○○だろうから、

過去、現在、未来それぞれの側面から
患者さんの情報をとらえていくことで、
目の前の患者さんに必要な看護が考えられる。


そして、冒頭の呪文の言葉にもどる。


『患者さんの思いに寄り添いなさい。』

寄り添うって、なんじゃいって思ってた私にとって、寄り添うことを強烈に考えさせられたエピソード。


実習がおわり、着替えるために更衣室へ戻ると、更衣室の1番奥に集まる集団。


近づくと、同級生が1人泣いている。
その周りを同じ実習終わりのメンバーや、国家試験勉強終わりに、ロッカーに荷物を置きにきて居合わせたメンバーら、5.6人が彼女を囲み話を聞いているところだった。
泣く彼女をなだめながら、みんなで話を聞いた。


彼女にとって、今日が実習初日。
患者さんに聞いた質問で、大学側の教員にこっぴどく怒られたらしい。

そんな泣くほど怒られるなんて、
いったいどんな質問したんだろう。

聞いて、驚いた。



すきな食べ物は、なんですか?



えっ?
すきな食べ物を聞いただけで
怒られてしまうの!?


すきな食べ物について、ただ、聞いただけ。

初対面の人と出会った時に、
とりあえず、すきな食べ物とか、趣味は何か、話題選びする人は多いのでは?

彼女もおなじ。

『ただ、知りたかった。
信頼関係を築きたかった。』
泣きながら話す彼女。

初日で、はじめましての患者さんのことを知るきっかけとして、コミュニケーションの一つとして聞いた質問だろう。

そして、話していく中で見えてくる患者さん像を自分の中で描き、
彼女なりのきっと、『患者さんの思いに寄り添う看護』をしたかったんじゃないかと、話を聞きながら思った。


寄り添う看護をしようとしたのに、なぜ。

彼女が泣くほどにまで、指導された理由はなんだったんだろう。


彼女が担当した患者さんは
病気の影響で、食べ物を噛んで飲み込むための嚥下(えんげ)機能が筋力の衰えによって低下しており、飲み物や食べ物をうまく摂取できない状況だった。

そのため、鼻の穴から食道や胃にチューブを通し栄養をとる「経鼻経管栄養」という方法で食事をしなくてはいけない方だった。


先生の考えは、『自分の口から食べられない状況の方に、好きな食べ物をきくことは配慮が足りない。患者さんの気持ちを、もっとよく考えなさい。』ということだった。


怖かった。
自分の何気ない一言で、
患者さんの気持ちを傷つけてしまうこと。
相手を知ろうと思って聞いた質問が、
傷つける可能性もあること。


そしてそれが命に関わることだったら…
悪気がなかったです、では済まないこともあるのだ。そのくらい、自分の発言ひとつに重みがあることを実感した。


そして、
自分の中の当たり前は、当たり前じゃないということ。

『思いに寄り添う』には、自分の当たり前を捨てて、患者さんを知ることが大切なんだと知った。

患者さんを知るにはいろいろな方法がある。
あらかじめ患者さんのカルテを調べること。
患者さん本人と話すこと。その時のしぐさ、表情、会話。観察しながら、その人の価値観や人柄を知っていく。

観察力は、関心力だと思う。

知ろうとする気持ち、関心を持つことで観察力が生まれる。
患者さんと話すだけじゃなくて、周りの友人や家族などからの話を聞いたりすること。その人自身を知って、その人を囲む周りの環境についても知る。知った情報をもとに、人物像の輪郭が描いていく。


初対面では難しいこともあるかもしれない。そんな時でも、いろんな角度からその人を知ろうと関心を持つ気持ち、それがあれば見えることがきっとあると思う。

目の前の人に伝える言葉って、ときに重かったり軽かったりする。
普段、自分が発する言葉にどれだけ意識を向けてるだろうか。
発する言葉には、どれだけ想像力が働いているだろうか。


よく「相手の立場になって、想像する」っていう。相手の立場になる、じゃなくて、とことん相手になりきって考えたい。


そうすれば、きっと、
なにもないときよりは、
自分なりにその人を傷つけない配慮ができると思う。


患者さんを相手にする医療職に限らず、
人とのコミュニケーションでも共通するものだと思う。

事前に情報があるなら調べてみる。
その情報から浮かぶ自分なりの相手の人物像ができあがるはずだ。

それが少しずれていたとしても、
そこは関わっていく中で知って修正していけばいい。土台がある方が、その人との時間は充実した時間になると思う。

やっぱり大事なのは、その人を知りたいという姿勢

そして、想像することは、
ただ相手を傷つけない事だけじゃなくて、人を喜ばせることもできると思う。


人には承認欲求がある。
認めてもらえたら嬉しい。認めてもらうためには、人に知ってもらう。
だから、人を知ろうとすることは、目の前の相手を嬉しい気持ちにするだろう。


わたしは、自分のことを知ろうとしてくれたり、知るためにもっと話そうとしてくれる人が大好きだ。それだけ自分のことを想ってくれて、行動してくれるのはとても嬉しい。


だから、私も、相手に興味を持つこと。
興味を持って、想像力を働かせていく。そして、頭の中で終えるんじゃなくて、実際に話してみて、答え合わせを楽しむようにしている。


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寄り添うって、いったい何だろう。

自分の中で、いま、たどり着いた答えは
寄り添うことは、想像力を働かせること

なんじゃないかと、思うけど、
本当にそうなのか、と想像していきたい。

もっともっと、これからもずっと。



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