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2020.8.8 J1第9節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌 マッチレビュー

札幌は久々のアウェイゲーム、清水のホームに乗り込む。神戸に敗戦後、水曜日にルヴァン杯を挟む連戦。この日スタメンの高嶺くん、深井くん、菅ちゃん、シンドー、ルーカスはずっと出場が続いている状態。北海道とは違う高温多湿の気象条件のゲームに臨む。

清水はルヴァン杯で完全ターンオーバーを敷き、リーグ戦メンバーはフレッシュな状態。開幕当初は苦しんだもののチームとして結果を掴み始めており、リーグ戦は3試合メンバーが変わっておらず精神面も万全でしょう。

札幌もルヴァン杯はもっとメンバーを休ませるかと思ったんですけどね…暑いし1on1守備は負担が大きいし、解説の戸田さんは札幌のエネルギーの使い方がゲームの行方を左右するかもですねと言うし、大丈夫かなあと思いながらゲーム開始。

札幌のボール保持

札幌は、怪我明けの武蔵が1トップに入る3-4-2-1。ボールを保持すると深井くんが宮澤キャプテンの左に降りる、「いつもの」4−1−5変形を試みる。
清水は、4−2-1-3のまま対抗するが、初期ポジションからの変化を厭わず、札幌のビルドアップを高い位置から阻害しに行く。

前線のカルリーニョス・ジュニオ、西澤、金子に後藤を加えた4人が、ボールサイドで札幌のビルドアップ隊である荒野以下5人に圧力をかける。自陣ゴール前では武蔵を立田とヴァウドのCB2人が監視する人数配分。清水は反対サイドの札幌のプレイヤーだけを放置しつつ、ボールサイドで圧力をかけた。

札幌の前線5人は機を見てビルドアップの出口になるために降りていくが、竹内が駒井マン、ヘナト・アウグストがチャナティップを深い位置まで追いかけて離さない。ルーカスと菅ちゃんのWBも、ファン・ソッコとエウシーニョがCBとの距離を気にせずに前進して捕まえる。

札幌は基本的に5トップ化してから、清水の4バックの両脇を使いたかったはずだけど、清水のビルドアップ阻害によって出口を見つけることができず、前方へボールを運ぶことができない。前半12分の、ルーカスへのロングフィードをファンソッコがバキッと跳ね返す場面が象徴的。出口がない状況で、止むを得ず最終的な配球先であるはずのルーカスを使おうとしても、清水のディフェンダーが立ち塞がる。札幌は手詰まりに。

清水のボール保持

清水は4−2−1−3でサイドバックが高い位置を取りながらボールを保持する。札幌は、ここ数試合その傾向を強めている1on1守備をこのゲームでも見せた。ピッチ上の全域で清水のプレイヤーを捕まえにかかる。
この時、札幌の初期位置から列移動を強いられるのは駒井マンと荒野。駒井マンは竹内を監視するために下がり、荒野はヘナト・アウグストの位置まで上がって行く。

WBの菅ちゃんとルーカスが前進して清水のSBに対応する形は、数試合前までは言及する対象だったが、すっかり標準装備に。1on1もこなれてきている。

しかし、この荒野と駒井の列移動は守備の面では機能していたかもしれないが、攻撃のポジショニングに対しては清水に動かされてしまうというネガティブな面がある。これが札幌のポゼッションがうまくいかなかった状況に影響していたかも知れない。

前半の展開

札幌はビルドアップに苦慮しながらも、駒井マン、荒野、武蔵、チャナティップなどがマークをずらしながらボールを受けると、ルーカスへの配球を狙った。DAZN解説の戸田さん指摘のように、ほぼ右サイドばかり。

このとき2つ問題があった。
左サイドで清水を押し込んでから右へ、という展開ではなく、中盤に降りたプレイヤーがボールをかろうじてキープしている状態。そこからルーカスに渡してファン・ソッコに仕掛ける形が唯一の選択肢になると、清水は逆サイドを意識することなく左サイドの防御に集中することができる。
特に駒井が作ってルーカスに預ける形が多かったが、ルーカスはそのあと孤立してしまう。ルーカスは対面のファン・ソッコをブチ抜くつもりでプレーするものの、立田、竹内、西澤にも囲まれることになり、ファン・ソッコの後ろにはスペースがない。これは流石のルーカスも抜けていく先のスペースがない。

2つめの問題は、ルーカスがそんな状況からクロスを上げられたとしても、中の準備が足りないということ。清水の4バックにとってエウシーニョのサイドに脅威がない状況では、ルーカスのサイドから入ってくるボールに集中しておけば、それを処理することは容易だった。札幌のクロスのシーンでは、フィニッシャーが複数の清水のディフェンダーと競り合う場面が多く、ジェイのように空中で抜け出せるならともかく、この守備を上回って得点するのは非常に難しい。

神戸戦は、荒野の独演による巨大ワンツーがあり、組み立てたプレイヤーが駆け上がってもう一度フィニッシャーとしてからむ、という状況があった。しかしこれは荒野の特殊能力で、駒井マンに普通に要求できるような芸当ではない。ポゼッションに問題を抱える中では、武蔵は中央の持ち場を離れるわけにいかず、進藤がルーカスを追い越していくこともできなかった。

前半を通してこの右サイド偏重かつルーカス孤立の状態が解消せず、札幌は大きなチャンスを作ることができない。例外的に16分の武蔵がドリブルからシュートに至った場面は、駒井マンが2CBの間にポジションをとり、武蔵がチャナティップの左サイド側からドリブルを仕掛けた形で、右サイド偏重の状況の中では意外性があった。しかしポゼッションが安定しなければ、攻撃サイドを選択する余裕がそもそもなく、意外性も偶発的なものになってしまう。

一方の清水は、立田やヴァウドが札幌の監視を逃れながら前方へのパスを狙う。特に右サイドで、ヴァウドが持ち上がってからエウシーニョがキープする。この時間をかけたキープで、清水は引っ張り出した菅ちゃんの背後を使うことができていた。

エウシーニョが引きつけた後は、幅をとる金子、流れてきた後藤が絡んでチャンスに。高嶺くんが広大なスペースで金子の仕掛けを受ける形になる。清水はここで優位に立つと中央へラストパスを狙う余力が持てる。清水のほうが確実なチャンスメイクができていた印象。

逆サイドでは立田から西澤に縦パスをつけ、そこからファン・ソッコが入れ替わるなどして前に出るスピードのある攻撃を見せていた。清水は両サイドから攻撃を見せ続ける。

前半終了間際、西澤のサイドのスローインからファンソッコが抜け出し、札幌の3人を置き去りにしてゴール前へパス。金子がシュートすると菅ちゃんの手に接触。PKを得た清水が先制する。

後半の変化1

ミシャは後半から、横浜FM戦と神戸戦で採用した2トップに変更してくる。武蔵とドドくんの2人を前線に置き、荒野とチャナティップがその後ろで横並びに。田中マンがアンカーに入る。これで中盤3人と、清水のCBと札幌のFWの数が噛み合うようになった。

この変更によって、攻撃面ではルーカスと菅ちゃんに対するサポート関係が明確になる。荒野がルーカスと武蔵を、チャナティップがドドくんと菅ちゃんを背後から支援できるようになる。
前半、駒井マンはルーカスへの配球のために下がってしまうことでフィニッシュに絡めなくなっていたが、この変更で配球役でよし、という整理になったのだろう。
荒野と武蔵が近くでプレーすることによって、ルーカスにボールが入った後手詰まりになることが少なくなり、問題がひとつ解消。前半静かだった左サイドでも菅ちゃん、ドドくん、チャナティップがボールキープして押し込む場面が増え、清水の4バックを揺さぶることで前線の人数不足も解消した。

清水としては、中央で武蔵を2枚で挟み込んで対応していれば良かったところ、最終ライン全域で同数を突きつけられる状態になってしまった。札幌が同数関係から誰がディフェンスラインの背後を狙うランニングをしてくるかわからない、油断ならない状態に。
前半はファン・ソッコのサイドで迎え撃てば良かったが、札幌がボールを戻して攻撃をやり直す余裕を持ち始め、ひとり多い状況でありながらポゼッションを許す展開になった。

52分、DAZNでは経緯がリプレイに重なって見えなかったが、札幌のゴールキック後、立田が武蔵を倒す。これで得たフリーキックを武蔵が強烈なシュート性のキックで叩き込んで同点。流れを含め、札幌が逆転に向けて態勢を整えたかに見えた。

後半の変化2 (田中の退場)

同点に追いつき、札幌が攻勢を強める中、田中マンがイエローカード2枚を受け退場。ミシャも膝をついてガックリ。

1枚目のカードはボール回しの途中でパスが引っ掛かり、カウンターになりかかったところを潰しに行ってカード。これはビルドアップのパスミスの犠牲になった形でまあ仕方ない。
2枚目はカルリーニョス・ジュニオが顔を出して起点になろうとしたところで後手にまわり、これをファールで止めてしまった。ファールの性質ではなく、清水のチャンスを潰したシチュエーションを重く見た判定だろう。荒野とチャナティップが攻撃にエネルギーを割くと、田中マンがその背後でひとりになる。この構造の代償を、田中マンが払うことになってしまった。

アンカーがいなくなった札幌は、荒野とチャナティップがそのまま低い位置まで下がり、3−4−2のような形でやり過ごしながらコーチ陣の指示を待つ。

ただ、札幌は一人減ったあともボールを保持して攻勢を続けていた。ルーカスのすごい股抜きからの武蔵のシュートなど。こういうのは決まれば状況と関係なくゲームの展開変わるのかも知れないけど。決まらず。

後半の変化3 (選手交代で4-4-1に)

数分後、深井くんとルーカスに代わって白井くんとミンテが入る交代で、ピッチにコーチ陣の方針が伝えられる。宮澤キャプテンとミンテがCBコンビを組む4-4-1に変更。武蔵とチャナティップをSHとし、駒井マンはさらにポジションを移して荒野とCHを組む。ドドくんが1トップ。
これで札幌は1on1守備をやめて、自陣中央のスペースを守る方針に変化する。

ただ、守備時は「撤退」しても、攻撃時には3-1-5のように変形し、白井くんと菅ちゃんはSBながら前線へ移動。ドドくん、チャナティップ、武蔵、白井くん、菅ちゃんで5トップ化することで、積極的に攻める。

特に武蔵とチャナティップの立ち位置は、中村とヘナト・アウグストを清水ゴール側に引きつけた。そうすると、ドドくんのところに清水のCBが1枚余ることになり、清水の数の上での優位性が、ピッチのほとんどの場所で消えてしまう。これによって札幌のビルドアップ4人に対して清水の守備者を4人の同数にすることができ、10人の劣勢を感じさせないボール保持を復活させる。

札幌の攻勢を受けた清水は、札幌が撤退してゴール前を固める前に、札幌陣地の広いスペースを活用しようとカルリーニョス・ジュニオや金子にボールを預けてカウンターを狙う。札幌もカウンターで応戦し、ゲームはオープンに。決まってもおかしくないチャンスが両チームに訪れる。

80分頃、カウンターの応酬で疲れたチャナティップに代えて金子くん。武蔵が左側にまわる。ターンオーバーで余裕のある清水は、金子に代えてティーラシンを入れ、カルリーニョス・ジュニオを右WGに変更するのみ。

この変更後、ボールを収めるポイントと前線の運動量を増やした清水が、4バックになった札幌の左右の空いているサイドへ揺さぶりをかけながら、攻撃の圧力を強める。特に右サイドでカルリーニョス・ジュニオが受けて起点になることで、10人の札幌を苦しめるようになった。

札幌は体力が失われてきたこともあり、4バック撤退から前に出て行くことができなくなる。カウンターをするためのスペースが前方にあるが、清水の圧力を受けてドドくんや武蔵の走力を生かすパスが出せない。

同点のまま札幌が何とか耐えていた85分、後藤が札幌の右サイドの深いところまで侵入し、そこから西澤を経由してサイドチェンジをすると、札幌のスライドと押し上げが十分にできない。若干の時間を得たヘナト・アウグストが強烈なシュートを決める。清水が4−4−1で攻勢に出た札幌を押し返し、勝ち越しに成功。

後半の変化4 (ミンテ大作戦)

後がない札幌はミンテを前線に上げ、ドドくん、武蔵との3トップに変更。後ろにはもう宮澤キャプテンしかいない捨て身の攻撃姿勢を見せる。ティーラシンと後藤のプレスを受けながら、荒野と宮澤2人から前線への配球を狙うが、フィードはままならず、ガタイのいい3トップを活かせない。

後半アディショナルタイムに清水のカウンターを受けると、札幌は頑張って帰陣したものの、もうそこから押し返す力が残っていない。札幌のブロックの少し手前の位置でエウシーニョがボールを受けても、誰も圧力をかけることができなかった。ペナルティ・エリア内でエウシーニョからのパスを受けたカルリーニョス・ジュニオのクオリティが発揮され、3失点目。万事休す。

感想

毎節書いてる気がするけどコンディションしんどいですね。福森がいないとはいえ、高嶺くん、深井くん、チャナティップがいれば、ある程度はルーカスへのロングフィードは通せそうなものです。しかしロングフィードの成功率もこのゲームでは低かった。
受け手のルーカスはトラップがうまいし、狭いところでも受けられる自信があるでしょう。前半終了間際には、ルーカスがパスの質に苛立ちを露わにする表情が抜かれてましたが…その時の出し手はチャナティップ。チャナティップがミスるならどうしようもないです。高嶺くんも明らかにタックル、キックのキレが落ちているようです。

代わりにというわけではないですがエウシーニョ、西澤、ヴァウド、後藤、カルリーニョス・ジュニオのクオリティを感じました。選手の持っているポテンシャルの差というより、コンディショニングの差が出たということだと思います。

横浜FMに逆転勝利した後、前節も神戸の市場価値高いマンたちに1on1で挑んで、ドウグラスやイニエスタにクオリティを発揮され敗戦。しかしディフェンスはやり切った感があり、相手の経験、クオリティが上手だったな、いいもん見たなと納得できました。しかし今節はまずは札幌がプランをうまく表現できる状況になかったように見えます。清水はいくつも決められる場面を外していて、神戸戦のような一瞬の隙で勝負が分かれるようなゲームではなかった。

連戦、相手のコンディション、気象条件、前半の微妙に清水と噛み合わないフォーメーションなど、ピッチ上の個人ではどうにもならない問題がひとつやふたつではなかった印象があります。マネジメントのレベルでリスクを取り過ぎたかも知れないですね。これを跳ね返せば大きな成長につながるのかも知れないけど、さすがに過酷すぎたのかも。

でも、そんな悪条件の中でもゲームが壊れていたわけでもなく、途中で4−4−1にして盛り返すパワーも、ゲーム終盤にパワープレーを仕掛けることもできる。80分過ぎまで同点で、内容は微妙でしたがうっかり勝つ可能性もありました。ミシャが札幌のプレイヤーに期待し、理想を目指してくれるからこそ、力がついてきていることは間違いないのだけど。その力を効率的に使う面もないと、この特別なシーズンの、この夏をいい成績で乗り越えるのはしんどいかもしれないなと思いました。おわり。

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