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2021.8.25 J1第26節 北海道コンサドーレ札幌 vs 名古屋グランパス

札幌が雨の厚別に名古屋を迎えます。名古屋は中2日、札幌は中3日のゲーム。
札幌は練習で脳震盪を起こした宮澤が出場できず、代わりに田中がCB中央に入り、普段田中が担っている右CBには柳が入りました。名古屋は今シーズン初めてスターティングメンバーに名を連ねる藤井が左CBに入っています。

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ゲーム構造

ゲーム後のマッシモフィッカデンティ監督のコメントにあるように、このゲームの名古屋は札幌の攻撃に対してリスクを取らないプランで臨みました。札幌のボール保持局面では、初期配置の4−2−3−1から森下を最終ラインに下げ、前田とマテウスを2列目に組み入れる5-4-1に変形し、札幌の5人のアタッカーの活動するスペースを埋めます。

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ボールを得ると、中央のシュヴィルツォクを起点に、マテウスと森下がその前方へ出てパスを受ける動きをします。シュヴィルツォクがキープに成功し、森下・マテウスへのパスを通すと、特にマテウスは、そこからドリブルで持ち上がり、チームが押し上げるための時間を作ります。シュヴィルツォクはポストプレーの後にもう一度ゴール前に顔を出す役割を担い、前田はボールサイドに流れてWG(マテウスと森下)をサポートします。

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マテウスはドリブルで持ち上がった後、対面のDFを抜き切る前に、ファーサイドを狙ったアーリークロスを送ります。これにシュヴィルツォクが合わせますが、同時に逆サイドのWG(森下)と稲垣がセカンドボールを狙ってポジションを取り、札幌が跳ね返したとしても2次攻撃につなげます。米本はカウンターに備える役割で、5人を攻撃、5人を守備のために配置しています。

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リスタートはシュヴィルツォクへのフィード。シュヴィルツォクはハイボールに対して圧倒的にキープ力がある、というわけではなく田中や福森に競り負けたり奪われたりすることも少なくありませんでしたが、名古屋としては、札幌と中盤でイーブンなボールを奪い合う状況になればそれでよしとしていたように見えます。
一方、ボールをコントロールした後のパスで味方を活かすプレーについては、シュヴィルツォクはクオリティがあります。このゲームでも何度か発揮されていました。名古屋は、その場面が何度か訪れた時に得点できれば、という意図だったでしょう。

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ゲーム展開

名古屋は序盤からゲームプラン通りに札幌の攻撃を受け止めた後、マテウスのドリブルで持ち上がり、早めにクロスを上げる形を繰り返し作ります。札幌は名古屋のブロックを前に攻めあぐね、ブロックの外側からのシュートや、可能性の低いクロスに甘んじて名古屋の速攻を受ける展開。

9分、ゴール前の混み合った状況で浮き球をジェイがヘッドで落とし、DFの裏へ抜け出した青木に渡ります。なんとか足を出してコントロールしたシュートはゴールの枠を捉えますが、藤井がカバーしてコーナーに逃れます。

10分、シュヴィルツォクが高嶺のマークを受けながらもキープを成功させ、名古屋のカウンターが生まれます。シュヴィルツォクは右サイドをオーバーラップする森下にボールを渡し、再び札幌ゴール前へ走り込んでリターンのパスを受けますが、札幌のプレスバックで奪われます。

29分、稲垣のゴールが決まり、名古屋が先制。札幌の右サイドでスローインを得た名古屋が、稲垣を経由して逆サイドの前田まで繋いで中央へクロス。札幌が一度跳ね返しますが、稲垣と米本を経由して再び札幌の右サイドまで運ぶと、マテウスがペナルティエリア内までドリブル〜シュート。札幌がなんとか密集の外へボールを出しますが、フリーの稲垣に渡りこれを蹴り込みました。札幌はボールサイドを大きく左右に振られるあいだ、名古屋のプレイヤーを捕まえることができませんでした。ボールの受け手を予測してアプローチすることができず、ボールを追いかける場面が続いた後、最後は稲垣を離してしまっていました。

先制した名古屋は、さらに落ち着いて札幌の攻撃を待ち構えて対処するようになります。札幌はジェイが低い位置まで降りて起点を作ったり、金子が裏で受けようとしたり工夫しますが、名古屋の5バックはなかなか動いてくれず、状況は変わりません。

44分、カウンターから再び稲垣がゴールし、名古屋が追加点を挙げます。札幌が左サイドの低い位置から名古屋ゴール前にグラウンダーの斜めのボールを入れますが、これが藤井の足元に向かいます。藤井がダイレクトで前線で待っているシュヴィルツォクへ蹴り返すと、シュヴィルツォクはこのゲームでおそらく初めて全くマークを受けていない状況で前を向きます。前田がシュヴィルツォクを追い越す動きを見せるとそこへ正確にパス。前田はボールを持ち運んで左サイドからのアーリークロスを選択。シュヴィルツォクとともに稲垣が中央に走り込んでおり、肩付近にボールを当て、これがゴール隅に決まりました。0−2で名古屋がリードして前半を終えます。

ハーフタイムに札幌は柳に代えて荒野を入れます。田中をいつもの右CBに変更し、高嶺を1列下げてCB中央に。荒野と駒井の2CHとしました。前半の名古屋のディフェンスの傾向を見て、ビルドアップに対してプレッシングに来ないのであれば、福森を高い位置に置いて高嶺が自陣側で配球役としてプレーする、攻撃時の形に近い初期配置にしても大丈夫、という判断があったのかも知れません。

48分、札幌がカウンターのチャンスを迎え、珍しく名古屋が後手を踏みます。シュヴィルツォクがボールを持ってペナルティエリア内で前向きに仕掛けようとした場面で、対面の田中がボールを奪います。名古屋はチーム全体が前がかりになっていて、後方で4バックが露出していました。名古屋は前向きに奪い返そうとしますが、米本の背後にいる金子へ札幌のパスが通り、 ジェイ、小柏、金子の3人と名古屋の4バックが対峙する状況が生まれます。金子がドリブルで持ち上がってそのままシュートしますが、大きくゴール上に外れました。

同数でないとはいえ、守備的な名古屋に対しては、こういった場面で得点の可能性のあるプレーまで持ち込めないと苦しくなります。後半になっても札幌に閉塞感が漂います。

56分、名古屋はシュヴィルツォクに代えて柿谷。前田がトップに入ります。

58分、札幌がボールを持ち続ける展開の中、森下が持ち上がり、名古屋のカウンターになりかけます。前線ファーサイドには前田がスペースを得た状態で待っていましたが、森下は横パスでキープを選択。この時間帯になると体力の問題があり、マテウスや森下の持ち上がりをきっかけに一気に攻め込むよりも、ポゼッションで時間を作る傾向が強くなります。

69分、飲水タイムに両チーム交代を実施。名古屋は前田に代えて長澤が入ります。マテウスと柿谷を2トップにする4−4−2に変更し、長澤は左SHに入ります。札幌はジェイに代えて菅。小柏がトップに入り、左WBに菅、青木は2列目左に変更になります。

71分、右サイドから横に名古屋ゴール前へ移動するルーカスに、最後尾でボールを持った荒野からフィードが入り、チャンスになりかけます。札幌はジェイを下げた後、名古屋のDFライン裏を直接狙うボールが増えていきます。

72分、福森が深い位置から名古屋のDFライン裏へ直接フィード。そこへ菅が走り込みますが、中谷が体を入れて菅にボールに触らせない対応で逃れます。

73分、名古屋も前線へのフィードからチャンスを迎えます。マテウスが抜け出して高嶺と対峙している横を、柿谷がオーバーラップ。マテウスが柿谷のランニングにうまくタイミングを合わせたパスを出し、ダイレクトでシュートに持ち込みますが、菅野がセーブ。

76分、札幌はさらに交代。ルーカスに代えてドウグラスが入り、2列目右に。金子が右WBへ移動します。

この時間になると名古屋のポゼッション志向はさらに強まり、簡単にボールを手放しません。札幌のファウルでゲームが止まるようになり、追い上げたい札幌がなかなか名古屋ゴールに近づけないまま時間が経過します。

90分、札幌のチャンス。ゴール前でドウグラス、小柏と名古屋のDFが密集し浮き球を競り合う状況から、短くなったクリアボールが荒野に渡ります。ゴール前の青木へ縦パスを送ると、青木はトラップから素早くターンしてシュートに持ち込みます。ランゲラックがセーブして得点ならず。

危なげなく名古屋が逃げ切り、0-2で勝利しました。

感想

マッシモフィッカデンティ監督が何をしてくるか、毎度とても楽しみにしています。前回はディフェンスラインを高くし、札幌のビルドアップにプレッシャーをかけた上で、札幌が前に蹴り出したボールをDFの後ろ側のエリアで潰す形でした。今回は5バックで待ち構えて、縦に入ってくるボールを前向きに跳ね返しています。ゴールに直結する場面からの逆算で、札幌が必ず通る道を見抜いて、そこをうまく塞いでいる印象です。

この記事はリアルタイムに書くことができず、ゲームからおよそ1ヶ月後、神戸とのゲームの後に書いているのですが、神戸が札幌のボール回しに対してどこまでもリアクションしてくれて動かし放題だったことに比べて、名古屋の振る舞いは非常に割り切りがあり、札幌のいいところを明確に掴んだ上で徹底して妨害し、そうではないところは放置です。負けても見ていて気分が良いのは、むしろ札幌の攻撃意図にしっかりアンサーしてくれているからなのかなと思います。

名古屋は攻撃の役割分担も明確で、まずシュヴィルツォクを見てボールを預ける、サイドにパスが通ったらドリブルで持ち上がる、札幌がサイドに食いついてきたら抜き切る前にファーサイドへクロス、クロスの競り合いの背後をサポートしてセカンドボールを狙う、といったものです。状況によって前田がクロスを上げたり、稲垣が経由地点になったり多少のバリエーションはありますが、このゲームの2得点とも、このパターンに重ね合わせることができると思います。それほど多く繰り返した場面ではなかったと思いますが、その少ない機会でもチームとして攻撃意図が表現できるのは、名古屋のプレイヤーの中で明確なイメージの共有ができているからなのでしょう。

名古屋は、マテウス選手個人として、ドリブルで札幌を一気に押し返せてしまうのはもちろんすごいんですが、チームとしてポゼッションも普通にうまい、というのがやっぱり歴史も資金力も獲得タイトルも上のクラブなんだなという印象でした。マテウス選手がドリブルしなくなった後、名古屋がポゼッションをするようになって、札幌の攻撃はむしろトーンダウンした印象です。あと藤井選手は知らなかったんですが隙がなく、とてもよいプレーをするんだなと思いました。こういう若いプレイヤーが控えにいるんですね。

札幌については、名古屋が5人を揃えて札幌を迎撃したいのであれば、札幌には名古屋に引かれる前に脅かす、ということが必要だったように思います。実際に名古屋のディフェンスが整う前に名古屋側のスペースを使うことができたカウンターの場面は、48分の場面くらいだったでしょうか。
繰り返しジェイ選手を名古屋のDF裏へ走らせる、というのも無茶でしょうし、名古屋の帰陣も速いですから、このゲームをこのメンバーで戦うからには狭い局面を打開する、という方向になったのは致し方ないようにも思います。仮定の話をするなら、チャナティップと小柏選手のセットが可能であれば、偶発的でなく、名古屋を引き込んだ後のカウンターを繰り返すことが可能だったかも知れません。この日、小柏選手のスピードが活きる場面が少なかったのは勿体ない印象でした。

札幌も、5トップで押し込んでくるか、自陣に重心がある状況から小柏選手や金子選手のカウンターを繰り返し出してくるか、わからない、みたいになると、相手チームから見て非常に怖いんじゃないかなと思います。湘南みたいなカウンター志向チーム相手には引いたりしてるのを見ると、アイディアとしては持っていると思うんですけど。このゲームでは必要なかったのかな、と思ったりします。おわり。

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