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【無料公開】 モウリーニョ率いるユナイテッドの守備組織の進化

現在、マンチェスター・ユナイテッドは中盤に問題を抱えている。少なくとも、攻撃面における選手の能力については見逃すことはできない。1月末のトッテナム戦でも見られたように、中盤における守備バランスの欠如は明らかであった。数週間前のアーセナルとの試合では3-1で勝利を挙げたものの、33本ものシュートを浴びてしまっていた。トッテナムはユナイテッドの好調な出だしにもかかわらず、中盤に残されたスペースを利用することでゲームを支配した。その後ポール・ポグバの交代に焦点が当てられたが、実際にチームの問題とされたのは指揮官ジョゼ・モウリーニョにある。

モウリーニョの守備戦術
過去、イングランドでは毎試合モウリーニョが勝利を重ねるたびに「マスタークラス」とh評される時期があった。通常、これは敵の攻撃をいかに無効化してきたかに対して焦点を当てられている。彼は自身のキャリアを通じて、常に最高の守備戦術とそれに併せた強力なカウンター戦術をつくり上げてきた。指揮を執ったチームの中でも、ペップ・グアルディオラのバルセロナを下しCLを制覇したインテルやリーグ最多ゴール数を記録したレアル・マドリード、リーグ優勝を果たしたチェルシーでの第二次政権を忘れるわけにはいかない。

それ以来、彼のアイデアはほとんど変わっていない。1-4-2-3-1から1-4-4-1-1または1-4-4-2に変化するシステムである。守備ラインの前で強固に構えつつ攻撃的なダブルボランチ、古典的なゾーンマークを採用するこの中盤の守備組織は興味深いものである。しかし、最も重要な点はチームとして常に働いていたことにある。誰かがプレッシャーをかけると他の者はカバーリングを行い、守備ラインの前では常に選手間の距離を縮める。これは敵選手10人に対し完全なる防御を提供する。

しかしながら、WG2選手には異なる役割が与えられている。モウリーニョは敵の両SBに対しプレッシャーをかけさせていた。他の試合では、ボールサイドのWGは敵SBへマークを行い、逆サイドのWGは中央へ閉じることでダブルボランチをサポートしていた。以下の画像は、レアル・マドリードとバルセロナの試合から見える一例である。既に強調したように、ダブルボランチは互いに近くにポジションをとることでDFラインを助けている。LWGのモラタがプレッシャーをかけ、逆サイドのカジェホンは中央のスペースを埋めている。

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次に、前述した4人の守備選手による守備戦術をみてみる。これはチェルシーが鮮やかにマンチェスター・シティを破った2014年のものである。ダヴィド・ルイスとマティッチが守備ラインを護りながら、中央のエリアをより強固なものとしている。

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2013年から2015年までのモウリーニョ率いるチェルシーは、ボランチ間の距離と守備ラインとのバランスを常に維持していた。

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この画像は、チェルシーの守備組織がどれほど強固なものであったのかを示している。ラミレスとイバノヴィッチ(WGとSB)がボールへとプレッシングをかけ、マティッチとダヴィド・ルイスはDFの前で完璧なポジションをとっている。

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モウリーニョは中盤の強力なコンビを中心に、守備ラインへの安全性とカバーリングへの保証を常に望んでいた。現在のマンチェスター・ユナイテッドに対しても、これを念頭に考えていく必要がある。


ポグバがもたらす問題


ポール・ポグバは素晴らしいサッカー選手である。攻撃面において、彼は間違いなくヨーロッパで最高のミッドフィルダーのひとりである。毎試合、サイドチェンジや敵のDFラインの背後を狙ったロングパスでチャンスをつくっている。リーグでは14試合9アシストを挙げている。トッテナムとの試合でも、明らかに彼のベストパフォーマンスとは程遠かったが2度決定的なチャンスを生み出した。ポグバが“赤い悪魔”の中でも攻撃の司令塔として重要な選手であることは疑いようがない。だが、守備面でも同じ扱いをすることはできない。彼のフィジカルには疑問が残り、その強さと大きさにも関わらず中盤では強力な存在と成りえてはいない。彼の守備時におけるポジショニングはかなり曖昧である。我々の意見では、彼は自身の体格の犠牲者ともいえる。その体型から、人々は彼を“10番”でなくボールを取り返すプレースタイルの選手であると思っている。

モウリーニョのダブルボランチとしてプレーするとき、少なくともビッグクラブに対しては彼が機能することは無い。ここからは、ポグバのプレーを挙げながら前述した完成された守備組織との違いを明らかにしていく。

彼が抱える問題を把握するために次の画像は分かりやすい例といえるだろう。マティッチは良いポジションにはいないが、ヤングへカバーリングをしており、ボールが出ればすぐに飛び出すことが出来る。一方、ポグバはボールに引き付けられ、自身のポジションを離れている。ユナイテッドのダブルボランチが一直線に並んでしまっており、これはモウリーニョが望んでいるものではない。

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ここでは、ポグバはデンベレによって引き付けられてしまっている。ポグバが開いてしまっていることにより、マティッチには広大なスペースが残され、トッテナムがそれを利用するのは容易である。

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ポグバが成りゆきまかせに敵選手へプレッシャーをかけているシーン。マティッチは自陣深くにおり、ユナイテッドの両WGも大きく幅をとっている。チームが文字通り、中心の選手を失っている状態である。

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チェルシー時代のダブルボランチが、如何に中央の守備組織に役立っていたか説明したのを覚えているだろうか?これはマティッチとポグバが組んだ際によく見られた現象である。

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これはポグバの守備における意識の低さを表している。マティッチが空けたスペースを埋める必要があったのだが、これでは既に遅すぎる。

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これは、おそらく我々が見つけたものの中で最悪なシーンの一つである。スローインからプレーが始まるが、ポグバはマークにつく素振りを見せていない。

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モウリーニョが抱える問題


ポグバがチームに何をもたらしているのか。モウリーニョは既にこの問題を特定しているはずである。それならば、なぜ彼を交代させようとしないのか? なぜエレーラのような守備的な選手たちを信頼しようとしないのか? フェライニへの信頼は確かなものであるが、彼は故障中である。ポグバがスターティングメンバーを離れるべきでないならば、少なくとも彼を強固なダブルボランチの前でプレーさせるべきである。

モウリーニョがユナイテッドで監督を務めて以来、彼の守備的なサッカースタイルは批判を浴びてきた。「ユナイテッドはより美しく、より攻撃的にプレーするべきである」という話は何度もされてきた。この指揮官は、人々を興奮させるようなチームをつくり上げることは可能だと過去に示している。彼がプレーモデルに対する周囲の声に耳を傾けることはあるだろうか?今のユナイテッドは見るに堪えない、とても素晴らしいチームとはいえないだろう。

マティッチがカバーしなければならない広大なスペースにおける問題は、守備組織の原則をわずかに変更することで解決することが可能である。なぜWGの2選手は敵のSBをマークしなければならないのか?彼らがより中央を狭めてプレーすることで、ポグバが空けたスペースを制限し、選手間の距離を縮めることでカウンター攻撃をより可能にすることができる。


結論


ユナイテッドはこの問題をできるだけ早く解決する必要がある。ポグバはチームの中でも替えの利かない主力選手の一人であるが、ボランチとしての彼の欠点は他の選手たちに大きな影響を与えてしまっている。モウリーニョはより強固な守備組織を編成することで、チームのバランスを改善するべきである。マティッチとエレーラのような選手を組ませることでポグバに自由を与え、中盤の選手をローテーションすることは可能なはずである。または、フォーメーションを変えてマティッチの前にポグバとリンガードを配置、両サイドの選手を絞らせることで敵のピッチ中央への侵入を防ぐことが出来る。チームが抱える問題を解決するには多くのオプションが考えられるが、指揮官はすでにその準備を始めているはずである。

(2018.02.06)

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