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【無料公開】 ロイ・ホジソン:クラシカルなクリスタルパレスの逆襲

ロイ・ホジソンは、イギリスサッカー史上最も恥ずべき敗北の一つでもあるアイスランド戦(2016年)を、SNSが存在するこの時代に経験してしまった不運な監督である。Twitterでは彼への嘲笑、批難が止まることはなかった。我々からすれば、彼は過去30年間で最高のイングランド人監督である。例えば、スウェーデン国内ではホジソンが遺したものとして、マルメとハルムスタッド時代に採用していた1-4-4-2によるゾーンマークのシステムはとても高く評価されている。ホジソン率いるチームはスウェーデン国内のタイトルを総なめにした。

ホジソンは1976年にハルムスタッドの監督に就任して以来、8か国に渡ってクラブや代表チームの指揮を執ってきた。代表チームでいえばスイスやフィンランド、アラブ首長国連邦、そして祖国イングランドである。クラブチームではスウェーデンで4チーム、プレミアリーグで6チーム、スイスでは2チーム、デンマークのコペンハーゲン、ノルウェーのバイキング、イタリアではウディネーゼ、インテルと多くのチームを渡り歩いてきた。したがって、彼はせ世界の隅々のサッカーから影響を受けた男であるといえる。

ホジソンとホートンがスウェーデンサッカーにどんな影響を及ぼしたかを理解するのには時間がかかる。前述したように、彼らはいくつか成功を収めつつもチームにゾーンマークを植え付けた。これにより、二人に影響を受けた国内の指導者たちは同じスタイルを採用するようになった。中でもIFKヨーテボリが成功例であり、1982年にUEFAカップを勝ち取った指揮官エリクソンはポルトガルからイタリアへと自身のキャリアを進め、更にはイングランド代表まで登りつめた。ある意味では、ホジソンは代表指揮官になる前から祖国のサッカーに影響を与えていた。

ここで話を彼がクリスタルパレスを率いり始める9月にまで戻る。4連敗後に解任されたフランク・デ・ブールに代わって、ロイ・ホジソンに白羽の矢が立てられた。それ以来チームは順位を上げ、13試合中2敗しかしていない。次からは、チームがどのような変貌を遂げたのか目に見える形で紹介していく。

誘導型守備

チームが抱えていた問題は攻撃にあったにもかかわらず、ホジソンの最初の挑戦は守備の強化であった。彼はまずそれを基本に戻すことから始めた。その守備戦術は1976年のゾーンマークと同じものではなく、ライン間の距離を最小限まで縮めてピッチ中央を閉じ、敵チームを誘導するスタイルを採用した。選手たちはボールと味方選手の動きに合わせてい一斉に動き出す。システムは従来通りに1-4-4-2でプレーするか、マンチェスターシティ、ユナイテッドののようなチームに対しては1-4-5-1を採用している。以下の画像は、アウェーでのユナイテッド戦のシーンである。最終ラインと中盤のライン間は8メートルにまで縮められている。

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別の例として、これは1-4-4-2で臨んだチェルシー戦である。

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ホジソンは4人もしくは5人の中盤選手を利用して、ピッチ中央を圧縮しての守備を望んでいた。その目的は、中央を閉じることで敵チームをサイドに誘導することにある。次の画像では、この守備組織がどのように機能しているかを明確に示している。まずはじめに、シティに対してクリスタルパレスが5人の中盤選手を配置した試合である。ボールがシティの右SBへと渡った際、クリスタルパレスの左WGは中央へのパスコースを閉じている。SBの選手はサイドのエリアへプレッシャーをかけ、通常は中盤のサイドの選手よりもワイドの位置をとっている。

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ここでは、より明確な例としてみることができる。フィールドの中央がどれだけタイトにされているか分かるだろうか。左WGは中央を閉じることで、左SBがプレッシャーをかける準備が整っているサイドへと誘導している。

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ボールがサイドのエリアまで到達すると、クリスタルパレスはもちろんエリア周辺を守備する必要がある。前述したように左SBがプレッシャーをかける間、中盤の選手(黄色)はカバーリングのためにスペースを埋めに移動する。残りの3人の中盤の選手たちはエリア前のき危険なゾーンをケアする。ボールサイド側のCBはニアサイド、もうひとりはファーサイドの前方で守備を行う。

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あなたはこれまで、カバーリングについての原理原則を聞いたことはあるだろうか?守備選手がひとりボール保持者へと飛び出したとき、同じラインにいた選手たちは彼の背後のスペースを埋めなければならない。これはホジソンが絶えず利用しているものであり、このチームでは中盤に適用されている。この画像では、中盤のカバイェがプレッシャーをかけるためにラインから離れ、残りの選手たちは彼が空けた背後のスペースを埋めている。このアプローチは、ホジソンが中盤の選手たちをピッチ中央に密集させている理由のひとつでもある。これは現代サッカーのWG選手が常にワイドに開いていることを考えると、通常の選手起用では不可能なオプションである。

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ホジソンによるこの守備組織は、特別新しくもなく革新的なものではないが、選手たちは自分たちの役割を完全に理解しており、チームがこの完成された守備戦術によって大きなアドバンテージを持っていることは明らかである。前述したように、彼らは13試合中2試合しかま負けていない。


圧縮化がもたらすダイレクトプレー


ホジソンが引き継いだチームには、タウンゼント、ベンテケ、サコそしてザハといった守攻の切り替えにおいて非常に優れた選手がいた。これにより、指揮官がチームにダイレクトプレーを採用しない理由は見当たらなかった。まず、チームがどれだけ早くスペースを利用しようとしているのかを見てみよう。

これは、ミリヴォイェヴィッチがボールを取り返したシーンである。ザハはすぐにシティの最終ラインの背後を狙って動き出し、セルビア人選手はボールを供給する。

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この画像でもミリヴォイェヴィッチがボールを取り返したシーンであり、ベンテケがゴール方向へのスプリントを始めている。ミリヴォイェヴィッチは即座に敵の守備ラインの背後のスペースへとボールを送る。

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最後の例として、ボールを奪取したシーンで両サイドの選手とベンテケによるカウンターが始まっている。中盤選手を密集させているひとつのメリットとして、カウンター時にお互いが近い位置にいる状態で始めることができる点が挙げられる。

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しかし、クリスタルパレスはそれ以上にカウンター攻撃を行っている。彼らは攻撃のバリエーションをより多く持っており、常に敵チームの脅威となり得るザハの存在も大きい。特徴的な動きとして、サイドでボールを持っている場合に中央にいる選手とクロスするプレーがある。

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そしてここでは、中盤のジェフリー・シュルップがチェルシーのダヴィド・ルイスがケアするゾーンを横切ることで彼の注意を引き付け、カバイェへのマークを遅らせている。これにより、チームは簡単にゴールを決めることができた。

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しかしながら、クリスタルパレスの攻撃時における最も興味深い点は、その極端に狭い攻撃形態にあるのかもしれない。1-4-4-2を採用するホジソンは、中盤の選手たちにピッチ中央に四角形をつくらせるよう指示する。したがって、サイドのエリアからの攻撃はSBのために残されることになる。

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続いて、ピッチ中央で2トップの背後にポジションをとる両サイドの中盤の選手の例も挙げておく。

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結論


ロイ・ホジソンの就任はクリスタル・パレスの命運を大きく変えた。今シーズン始めは7連敗しその手腕に疑問が残ったが、その後アーセナル戦を含む13試合でわずか2敗、12位にまで登りつめた。また、マンチェスターシティ戦では4か月間負けなしの首位を相手に引き分けにまで持ち込み、2016年の欧州選手権でアイスランドに大敗後、右肩下がりであったこのイングランド人監督の評判は回復しつつあるといえる。

(2018.01.24)

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