見出し画像

ひとよけいこにっき/1

注:この日記は「ひとよ」の稽古を、桑原裕子の目線で書いているモノです。なのでスタッフや劇団員が行っている様々な作業についてすべて記録できてはいません。実際にはここに記している何倍も何倍も各セクションが動き、働いております。その割合は濃縮タイプのめんつゆ(9:1)くらい。

7月20日(月) 顔合わせ

zoomによる顔合わせ。いつもは逃げ出したいほど緊張するのだけれど、今回はそれ以上に「待ちに待った日」という感慨がすごい。
画面に全キャストとスタッフの顔が30分割くらいで映し出されているズーム画面は壮観だったが、あらためてこれだけの人の想いが詰まっていく舞台なのだと実感する。ひとりひとり、小窓に映った小さな顔を見ていると胸に熱いものがこみ上げた。
これだけいろいろな公演が中止になったりしてきたから、現時点で既にひとつの奇跡が叶ったような感覚だ。対面稽古が始まったらまた奇跡を思うのだろうし、初日が空いたら、千秋楽を迎えたら・・・もはや奇跡を重ねていく日々なのだこれは、と思う。

緊張しなかったのは単にリモート形式だったおかげかもしれない。いっそ今後もずっと顔合わせだけはzoomでもいいかという気がする。ギリギリまでパジャマでいられるし、寝坊しても怖くないし、家に猫ともいられるし。
でも大事な顔合わせの最中、いつもご飯を上げてる野良猫の一匹がニャアニャア鳴いてご飯の催促に来たので焦った。すきを見てこっそりバレぬよう画面を消してご飯をあげ、素知らぬ顔で戻ったりした。

顔合わせの後、本読みを行う。キャストバランスの良さがリモートでもわかり、安心するとともに、初回から渡辺えりさんの熱量に感動した。特に終盤の・・・。リモートなのをいいことに、画面を消して、顔を覆って号泣してしまった。再々演だというのに。自分で書いた本だのに。
これは素晴らしい作品になる。する。きっと。

記念に残しておけば良かったのに、いろいろ感動しすぎて顔合わせの写真を撮り忘れた。

7月23日(木)リモート本読み

また写真を忘れた。二回目の本読みもzoomで。シーンごとに細かく止めながら丁寧に読んだので最後のシーンまで行かなかった。
ズーム稽古は「KAKUTAリモート読み合わせ遊び」を5月に何度も行っていたので慣れていたが、それでもリズムをつかむのが難しい。音声が割れて聞き取りづらいこともあり、もどかしさがある。

演出部は稽古場仕込みをしているため、この日の本読みに集まったのはキャストのみ。ほんの一週間程度しか利用しない稽古場だが、感染症対策を施した稽古場を作るため、数日かけて稽古場仕込みをしてくれている。

7月25日(土) 「未来の稽古場だね!(by渡辺えり)」

稽古場オフショット_200804_3

いよいよ稽古場での稽古が始まった。22日以降、三日間をかけて演出部と制作陣が「感染防止対策スペシャル稽古場」を作ってくれていた。
稽古場をそんなに何日も借りる余裕があるのかね?って思われそうだが、もともとこの稽古場は『ひとよ』の上演が8月上旬に予定されていた公演で、そのために借りていた稽古場だからだ。9月に公演を移すことになり、だから8月からまた別の稽古場に移動する。
既に予算はだいぶ上乗せ・・・¥¥¥

入り口に入るとまず手の消毒にエタノール。外履きの靴を消毒するため、エタノールが染みこんだマットが敷かれていて、そこで靴をズリズリと踏みならして消毒してから稽古場に入る。

稽古場オフショット_200804_15

制作さんが作ってくれた張り紙がかわいい。

稽古場オフショット_200804_17

至る所に消毒液。この矢印が稽古場への順路。

なるほど、と思うのはトイレの前に置かれてる消毒薬で、どうせトイレに入ったら洗面所で手を洗うでしょ?って思うだろうが、ノンノン。
その前に、「トイレのドアの取っ手を触るための」消毒をするのだ。
考えたなあ…と、頭が下がる思い。

画像4

稽古場の前室にサーモグラフィーの体温計。なんかすごいハイテク!これを劇団で購入したと言うから恐れ入る。
前に立つだけで一瞬で体温が測定できるのはもちろん、

画像5

マスクを外すとちゃんと注意してくれる優れもの。
(イヤ、そのくらい自分でちゃんとしますけど!)

画像6

稽古場に入ったときの体温、稽古場を出るときも体温を記入しなくてはいけない。っていうか、家を出るときも自分で測って報告してから問題なければ家を出られる。最低でも計三回の測定!

画像7

そして、稽古場に入る前にはまだやることがある。
手洗い、うがい。
これを全部済ませて、やっとこ稽古場に入ることができるのだ。

画像8

私物も消毒しなくちゃいけないんだ・・・(忘れてた)。

画像9

他にも決まり事はたくさん。
でも、稽古場づきの制作さんがストレスないように気を遣ってくれているから、やることは多くても快適に過ごせている。
たとえば、ケータリング(休憩中のおやつなど)は個包装されたもののみ。休憩中のささやかな癒しであるコーヒーメイカーは置けないからスティックコーヒーを用意、など、細かい心遣い。

画像10

キャストスタッフには全員、ビニール製のポーチに入った除菌セットが配られた。アルコール消毒液が入ったミニボトルと、それを使って私物や身の回りを拭くための布ぶきん、また稽古中、飲みかけのペットボトルなどを忘れて置きっぱなしにしておくようなことがないようにと、個別の似顔絵が書かれたタグまで用意されていた。

タグは新劇団員・矢田未来手製のイラストで、一人ひとりちゃんと似せて描いてくれている。お互いのイラストをワイワイと見せ合ってひと盛り上がり。いつの間にこれを作ってくれていたんだろう。
制作の津吹よしちゃんと一緒に計画して準備してくれてたらしい。
少しでも、楽しく、みんながすごせるように。

そしてこうしたアイディアは、この先通常の社会に戻ったとしても利用していける。世界に溢れるアイディア商品はこのようにして生まれてきたのではないかしら。ポストイットとか、ペットボトルとか。愛が知恵を生む。

そんなわけで稽古場初日は、目新しい環境にどこかアトラクションめいた盛り上がりでわいわいキョロキョロしている間に終わってしまった。

簡単に立ち歩き、出はけなどを確認しながらの読み稽古のつもりが、いつの間にか白熱し、無意識にマスクを取ってしまったりすると途端にチェックが入る。(この場合、私がチェック!したりもする)
小道具も出はけのドアも触ったら消毒!といわれてるのでうかつに触れない。「未来の稽古だねこれ・・・!」と圧倒されたようにえりさんが。
たしかになんか、ちょっとパラレルワールド感。

稽古場オフショット_200804_10

自粛期間中にKAKUTAで作った私のごあいさつ文集『本日はご来場頂き誠にありがとうございます』(長いタイトル)にまいど豊さんから頼まれて初サイン。日付を入れてくれと頼まれたので、「2020.7.25」と記した後、「7.24は異儀田の誕生日」と加えて明記しておいた。

まいどさんが大好きな異儀田の誕生日は昨日。
夏生まれの多いKAKUTA。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?