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かつての姿を追うのでなく、何者かに変身するのだ。

快晴に近い青空の下、夫はいそいそとゴルフに出かけました。私はのんびりと音楽をかけながら洗濯物を干し、軽いブランチをとって、昨夕から読みかけていた本を読み終えました。

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70歳になった佐川夏江は、夫の寝顔を見ながらつぶやいた。
「今度生まれたら、この人とは結婚しない」
夫はエリートサラリーマンだったが、退職後は「蟻んこクラブ」という歩く会で楽しく余生を過ごしている。2人の息子は独立して、別々の道を歩んでいる。でも、実は娘がほしかった。自分の人生を振り返ると、節目々々で下してきた選択は本当にこれでよかったのか。進学は、仕事は、それぞれ別の道があったのではないか。やり直しのきかない年齢になって、夏江はそれでもやりたいことを始めようとあがく。(Amazon内容紹介より)

「終わった人」「すぐ死ぬんだから」に続く、著者最新の高齢者小説です。
読むサイトでは評価が低かったけれど、同世代の私は身につまされることのオンパレードで、「さすが内舘さん!」と声をあげたいくらいでした。

冒頭、夏江はコメントともに新聞に掲載された自分の名前と年齢を見て

この時、初めて私は(70)という数字は老人の表情をしていると思った。65歳からが前期高齢者だが、7という重み、印象は「老人」だ

自分の今までの人生を振り返ってしまいます。

夏江が結婚した昭和40年代は、あとがきで内舘氏が書かれていますが、男女とも結婚して初めて「一人前」に扱われる社会でした。さらに結婚したら、子どもを産む、それによって磐石な「一人前」になる、という風潮が厳然としてありました。

主人公の夏江はその時代の望みどおりの結婚をし、今も平和で何不自由なく生活しています。そんな中、現代で同世代の人の生き生きとした活躍を目にしたり聞いたりすると、取り返しのつかない選択をしたような、実は人生を無駄にしたのではという焦燥感にとらわれます。

それは介護等の苦労をした夏江の母が、大学進学を迷っていた際

「結婚するのは賛成だけど、夫と同じくらい経済力をつけること。経済力がどれほど女を自由にするか、お母さんは身にしみてる」

と言われたのに、結局上の大学を狙うことをせず、結婚に有利な短大へ進学したことにも理由がありました。(この言葉に近いものを私も両親からもらって、私は大学進学を断念し、公務員の道を選びました。)

 「時代の風潮に合わせすぎるなということです。それらはすぐに変わるんです」

という同郷人で苦労して人気弁護士に上り詰めた高梨の言葉もあって、モヤモヤと過ごす中息子2人が思わぬ人生へと舵を切り、加えてラブラブ同級生カップルの姉夫婦が、同窓会での再会をきっかけにした夫の不倫の末離婚をしたことに、夏江は自身の今を考えます。

物語の中で夏江の息子剛の説明していますが、人間には「結晶性能力」と「流動性能力」があり、「流動性能力」は30歳をすぎると下降の一途で、「結晶性能力」は人生の経験がものをいう能力なので衰えがほとんどないそうです。そこから「人間に年齢は関係ない」という考えに結びつくようですが、それは現実では理想でありとても厳しいものがあります。本作はそれを踏まえた上で、

結晶性能力を活かし、経験値を生かせば、夢見た人生のほんの小さな部分をやり直すことができるのではないか。かつての姿を追うのでなく、何者かに変身するのだ。

私たちシニアの明るい未来へと、背中を少しばかり押してくれているのかもしれないとも思いました。

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。今日という1日があなたにとってかけがえのない1日となりますように。

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