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読書備忘録

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2021年6月の記事一覧

キム・ナムジュの最新刊を読む

とにかくキム・ナムジュという作家は女性を描くのが上手いです。著者自身の体験から得たものが大きいのでしょうが、思春期の女の子と彼女らを取りまく大人たち、そして社会は彼女らが頭で理解しても、本質的に拒否してしまう難しい問題も含んでいます。 空と海も区別できない、恐ろしく黒い夜。 その夜のように茫漠としていた心。 互いの本心だけなく 自分の本心もはっきりわからなかった。 (本文より)  「82年生まれ、キム・ジヨン」で脚光を浴び、韓国の女性の立場から社会問題を浮き彫りにしま

普通に笑いながら日常を生きていたい

久しぶりに三浦しをんさんの作品を読みました。今回は著者お得意(?)の青春小説です。 舞台は長閑な温泉町の商店街と住宅地。そこに住む男子高校生たちが主役でそれぞれに家庭の事情があり、進路に悩み、そんな中悪友として馬鹿騒ぎをし、事件や夢がなくても、普通に日常は営まれていきます。 おバカなノリの彼らに笑い、ほっこりし、時に涙腺を緩め、心から応援してしまう、三浦しをんさんが若者を描く作品は絶品です。 コロナ禍、住むところでそれぞれ事情が異なりますが、どうしても暗くなってしま

凶悪犯の子供たちの性

おはようございます。9巻にして大きな物語の一区切りがついた、そんな感動を味わっています。 田代ファミリーとの死闘も、最後は主人公結衣は次男の勇次との一騎打ちとなり意外なゲームで終結を迎えます。 フェリーでの激闘から数日。公安の監視を受けながら学校生活を送る優莉結衣は、船上で果たせなかった田代勇次との決着の日が近く訪れることを予感していた。多くを失い、手負いの獣と化した勇次は民家に潜伏し、復讐の機会を虎視耽々と狙う。威嚇、撹乱、陽動―ついに最終決戦の火蓋が切られた。血で

愛情と憎悪もまた背中合わせ

シリーズものの恐ろしさ(?)は完結を確かめないと、いつまでも頭のどこかに引っかかるところにあります。 今の私は松岡圭祐氏の「高校事変」シリーズに囚われてしまいました。 それでも今刊行されているのが10巻で、本作を入れて後3巻と終わりが見えてきて、次第に読むことに余裕が出てきた感じがします。 生徒や教職員が気持ちを新たにする始業式の日、犯罪史上最凶のテロリストを父に持つ優莉結衣が迎えたのは、心躍る新学期ではなかった。田代ファミリーが総力を結集し、酸鼻極まるサバイバルゲー

青春ほど死の翳を負い、死と背中合わせな時期はない〜坂口安吾

新型コロナウイルスが猛威を振るい、子どもたちの教育やスポーツの場をなくした現実を背景に、闇社会が集団不正入国と武装集団による兵器の密輸という、なんとも恐ろしい目的を主人公結衣が暴き、いつものように身体を張って阻止する、ハラハラドキドキ、戦いに勝つとスカッとし、その後結衣の今後に思いを馳せる、その繰り返しです。 本作で日本での闇社会のTopとなっている田代ファミリーの長男勇太が新たな毒性の強いウイルスをばら撒こうとしているのを阻止した結衣は勇太との戦いに勝利します。 そ

地獄は永続しないという希望

三体を読み終えた後、疲労感から本を読もうという気力を失くしかけていましたが、Kindleという媒体での読書がまた本の世界へと私を戻してくれました。 高校事変も5作目で一応区切りがついた感じで、本作は新たな優莉結衣の姿が描かれています。 今は亡き父が凶悪犯だったために高校のクラスメイトからいじめの標的にされた優莉結衣は、沖縄への修学旅行中、ついに我慢の限界に達しホテルを飛び出した。沖縄の闇社会に君臨し、貧困家庭を食いものにする反社会的勢力と、米軍の権威のもと規律を失って

中国SF界は凄い

とうとう読み終わってしまいました。内容紹介を読めば、自ずと展開は推測できると思いますが、やはり実際に読むとこのSFの壮大さと緻密さ、著者の知識と読書の深さ、広さをつくづく痛感します。 私は物理的な面、宇宙工学的な面等知識がなくて、理解するのに頭も使い、時間もかかるので、この作品を読むと本当にいい意味で疲れます。これこそが真の読書体験かもとも感じます。 生きているだけですでに、ものすごく幸運なのよ。これまでの地球がそうだった。今残酷な宇宙では、昔からずっと、生きているだ

不確かな運命と友情

高校事変もすでに10巻刊行されていますが、その半分を読み終えました。 5巻の本作で、武蔵小杉高校から始まった優莉結衣の果て亡き戦いが、一旦収束を迎える内容です。 出生のため十字架を背負った彼女にも心から友と呼べる人がいたことに救いを感じつつも、10代で味わう友との思い出づくりは苦しいものでした。 匡太の子たちを追い込むため非常手段も辞さない公安警察との戦い、そして前作で解き明かされた日本の闇社会を牛耳る半グレ組織、さらに異母姉妹の凛香の真の正体に驚かされた作品でした。

つむじ風食堂の夜

若松英輔氏の著作で知った本が読めなくなった時の本との出会いのポイント ①永く読まれている本(刊行後10年以上経過) ②厚くない、薄い本 ③手頃な値段の本                 以上の3つでした。 今回読み終えた本は女性のための選書サービス 5冊だけの本屋 さんによるブッククラブ book club 紅茶はアールグレイで の今月の本で、吉田篤弘氏の月舟町シリーズ三部作の第1作目でもある「つむじ風食堂の夜」は、単行本が2002年、文庫本が2005年に刊行、189

優しさと哀しみは背中合わせ

このところ眠れぬ夜にKindleでこのシリーズを読み始めると、薬が効いてきて、瞼が落ちてくるようになりました。 今回は本作主人公優莉結衣の異母弟である優莉健斗が登場します。 長らく結衣と疎遠であった健斗は中学校のスキー旅行観光バスの横転事故後自殺、バス運転手を殺害した容疑にかけられますが、事故後事件の鍵を握るライフルの謎から、結衣は弟の汚名を晴らそうと調べるうちに半グレ集団「パグェ」の存在を知ります。 亡き父親優莉匡太と抗争していた、韓国系半グレ集団「パグェ」のアジ

ストレスの多い毎日をすこし快適に、すこし楽しく変える「小さな幸福」を探して

図書館に借りていた本を返しに行った時、返却の棚にあって、群ようこさんの作品ということで思わず借りてしまいました。 今回はコロナ禍で、著者のお母様と大切にしておられた老猫を相次いで亡くされたということもあって、文章はいつものようこさん節ですが、キレが無かったように感じます。 唯一共感したのはこちらでした。 現都知事が)事あるごとに英語を使うのが本当にいやだ。私は、やたらと会話の中で横文字を使いたがる人は、自分が頭がよく仕事ができると見せたがるタイプだと思っているので、

私の非常口を見つけたい

とてもとても短い短編集。けれど今の私にはとてつもなく辛い文章が並んでいます。 一昨日若松英輔氏の作品を読んでいたので、この作品は精神的に私自身が、もっと健やかな時に再読したい、そんな作品だと思いました。 松田青子という作家を決して私は嫌いではありません。むしろ共感する力のある作品を描く人だと思っています。この作品集も女性として生きる私に発見させてくれる作品だと思います。 「私の生理ってきれいだったんだ」 『おばちゃんたちのいるところ』が世界中で大反響の松田青子が贈る、は

本が読めなくなったと感じるあなたへ

批評家であり、随筆家の若松英輔氏をNHK Eテレで放送の「100分で名著」で知ってから、いつか氏の著書を読んでみたいと常々思っていながら、なかなか手に取ることができませんでした。 というのも私の住む田舎町にある書店では氏の著者を置いてなく、かといって電子書籍で読む作品とも思えず、図書館にもなかなか置いてもらえず、やっと手にしたのがこの作品です。なぜか氏の作品は紙の本で読みたかったのです。 最近自身の調子が悪いせいか、本を選ぶのが億劫になっています。 それを悪いように思

平和ボケの日本に襲いかかる悲劇

おはようございます。今朝も4時に起きました。 珈琲を淹れてホッと一息です。 再び「高校事変」シリーズに戻って3巻を読み終えました。 今回は主人公が拉致され、監禁されそうになった場所はなんと東南アジアの無人島。そこで「教育」という名で、問題行動のある中高生を集め、脳波を調べ、兵士へと育てるというプロジェクトが行われているのです。 今までの学校、日本国内という狭い場所での戦いだった主人公ですが、今回は国外で集団の現役兵士に加え、監視カメラ等完全な監視下で、どうやって逃げ切れる