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書を拾い家に篭る~巣篭もりの選書

啓蟄が過ぎ、陽気も麗らかになって虫も動物も活動が盛んに、活発になっているというのにヒトだけが逆を張って巣篭もりとはなかなか皮肉が効いている。

しかもヒトが屋外から激減したおかげでイギリスの街中を野生動物が悠々と闊歩しながら草木を食み、中国やインドの大気汚染は激減、水の都ヴェニスでは水質が向上…ヒトがいない、あるいはかなりの自粛を強いられた方が地球自体の環境は確実に良くなるというのを目の当たりにさせられるとなんともやるせないものがある。

やはりここは「生きるとは?」と哲学してみたり「数的適性のための自然による間引き」思考の進化論、「縁(よすが)とは?」という意味で宗教について考えてみるというのが一興かと思うがどうだろう。
自らの本質的な指向性が何か知れるかもしれない。

こういう時にはアタマをリラックスさせて空想の世界に飛ぶのも良いけど、むしろシリアスな方向に意識が行きがちな性格の身としては未だ読破も理解もできていない難解な本に向かう絶好の機会という狙いで選書をしてみた。
まあ、お店自体は動かしているのでとてもこの手の本とがっぷり四つにはなれないけど。
と言うわけで巣篭もりの選書。
収束した暁にはちゃんとした春の選書をしたいと思う。そして願わくば早くそれが来ることを願って。

東京の空間人類学 / 陣内 秀信
失われた夜の歴史 /ロジャー・イーカーチ
佇まいの美学 / 矢田部 英正
利己的な遺伝子 / リチャード・ドーキンス
ユダヤ・キリスト・イスラム集中講義 / 井沢 元彦
イスラーム治下のヨーロッパ−衝突と共存の歴史 / シャルル・エマニュエル デュフルク 他2名
ロード / コーマック・マッカーシー
クラウド・コレクター / クラフト・エヴィング商會
夫婦善哉 / 織田 作之助
食卓一期一会 / 長田 弘

ロードを含む下4冊(小説)を除けば何か目的がなければ手に取らないような本ばかりだと思う。
本は能動的に動かないとなにも得られないから、そういう意味では全てがそうなんだけど、言っても普通に生活していてこの手のものに興味を抱く方は極少数だろう。
僕の場合は仕事柄だったり指向のせいか、この手の物に良く興味を示す。

何冊かは他季節の選書でも紹介したものが入っている。
手持ちにないから入れなかったけど、ダーウィンの「進化論」も読んでみると面白いと思う。
この選書でオススメは「失われた夜の歴史」と「イスラーム治下のヨーロッパ~」。
どちらも興味がない場合はとても良い導眠書となるけど、何気なく流し読んでもなかなかに愉しめる本だと思う。

東京の地形の変遷から、延いては日本の地形に拡大解釈できなくもなさそうな「東京の空間人類学」はなるほどと思うことが多い。
コルビュジェの「伽藍が白かった時」と併読すると繋がりのある部分もあって愉しいと思う(ここは人に依るだろうな)。

「食卓一期一会」は平易な言葉で料理をテーマとした詩集。
なんとも詩人らしさを感じられる。当たり前か。
「言葉を料理する」とも「料理を言葉にする」とも言える作品ばかり。
今は無き六本木のABCで最後に買った本で、個人的な思い入れも強い1冊。
あのお店の最後に佳き出逢いをさせてもらえたと思っている。
ちなみに、この作品中に登場するルソーを取り上げた詩から彼の著書「孤独な散歩者の夢想」に興味惹かれて読んでみたけど、なかなかにハードルの高い本だったのも読み終えた今ではいい思い出(理解はほぼできず終い)。

読了しているのはロードより下のものと「失われた~」だけ。他は未だ読み途中か相も変わらず挫折し続けている…。

そう言えば「哲学も」と書いたのに哲学の本は1冊として選んでないな。
もう随分前に売れた「ソフィーの世界」はさらりと哲学者とその思想を知るにはいい本だと思う(「懐かしい!」って思う人は僕とそんなに離れていない世代の人たちでしょうね)。
それと、これも少し前のだけど、M.サンデル教授の「これからの正義の話をしよう」もわりかし楽しんで読んだ覚えはある。「トロッコ問題」はこの状況下だといろいろ考えさせられかと思いますね。

巣篭もりはじわじわと、特にココロを削ってくるから擦り減らされるものを読むのはそこそこにしておいた方がいいかも。
もし、この選書で削られてきたらオダサクの「夫婦善哉」とクラフト・エヴィング商會の「クラウド・コレクター」なんかで中和すると良いでしょう。

なにかひとつでも引っかかって読みたくなるものが見つかれば幸いです。


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