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バーテンダー、バーテンダーを見る。

前回は「気になったBARで何を飲むのか?」というお話だったのだけど、たまたま先週の営業の中で近所のイタリアンのシェフと似たような話になった。
曰く、「イタリアンでパスタならペペロンチーノとカルボナーラを作らせればそのシェフの大まかな履歴と思想がわかる。ガトーショコラを焼かせればドルチェに対するそれらがわかる」と。
ペペロンチーノは乳化、カルボナーラは卵の凝固作用やそれそのものに対する意識、ガトーショコラはドルチェの基礎が詰まっているからというのがその理由だそう。
なるほど。
で、案の定「バーテンダーもあるでしょ?」と聞かれたのだけど、あるのかなあ。僕はあまりそういう考えを持っていない。

たしかに前回の話の中で「気になったBARでのオーダーリストは決まっている」と書いたけど、あれはあくまで個人的なものであって一般的じゃ無い(と思っているけどバーテンダー諸氏、いかがでしょうか?)し、力量を見るなんて失礼な事をするためにオーダーしているわけでも無い。バンブーやカンパリの水割りなんて今どき飲み慣れている人間を探す方が難しいだろう。
古くからジントニックは店の顔、ギムレットやジンフィズ、(もちろん)マティーニは個人の力量を見るのにうってつけと言われる。

しかし本当にそうだろうか?

だいたいジンのカクテルで全てを推し量れるかが疑問だ。
バランスだけ見るならウォッカベースの方がわかりやすい。甘酸味と酒精感はハーバルな香りでマスキングされるよりダイレクトなものの方が取りやすいはずだ。
僕だったらシェイクのショートならギムレットよりスレッジ・ハンマー、ロングでミキサーを加えるものならジン・フィズよりもウォッカ・フィズ(共にベースをジンからウォッカに変えたもの)、香りとのバランスとステアの技術という意味でマティーニ(本当ならバンブーにしたいところだけど、より作り慣れているものの方がいいはずだ)、ロックのビルドでゴッド・ファーザー(銘柄とその特性の活かし方でかなり変わる)をオーダーする。

意外かもしれないけど、味を作るという意味で面白いのはロングアイランド・アイスティーがある。
不名誉にもレディ・キラーのカクテルとして名を馳せた(現在もだろうか?)ひとつだけど、バランス感や個性が出やすい。まじめに作ればちゃんとアイスティーになるけど、ただ「混ぜればいいんだろ」って無思想だとそれが如実に反映される(そういう意味でカンパリの水割りも同じ)。
レシピでは全て等量だけど作り手によってのバランスの取り方、どういう着地点を考えるかで調合量もアプローチもかなり変わる。

とは言え、これらだって個人の好みみたいなものだ。
どれで見るかはその人次第だろう。
これはあくまでも僕なら、という話。こういうことをやる必要が今のところないから考えもしてなかったけど書いてみると出てくるもんですね。
でも万が一、誰かに働いてもらうときにそういうチェックをするならそれそのものの味よりも作ったものに対しての考えと理由を聞く、ということをやると思う(意地の悪いやり方だというのは自覚してます)。

まあ、ここで書いたことはあくまで「働いてもらう時に僕が見る“かも”しれない」、内側の試験的なこと−つまりカウンターの内側の話−だ。飲みに行った先でやることはまったくオススメしない(と言うより失礼にあたるので止めた方がいい)。
こんなめんどくさいことをやる人はいないと思うけど。

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