アイムオールドファッションド

#小説 #超短編小説

藤田の部屋にアポなしで20代社員3人組が突然入ってきてこう言った。

「社長、直々にお願いがあります。僕たち若手社員たちに藤田あられの新商品開発や新ブランドイメージ作りの企画をさせてください。他社の老舗菓子会社も今は新しいパッケージや新商品、新しいカフェなんかを作って、イメージを変えています。僕たちにもそういう機会を与えてください」

藤田はついにこういう若者たちが自分の会社にも出てきたかと思った。そしてこう答えた。

「藤田あられは350年間同じ味同じ柄の包装紙を守ってきています。多少の機械化はあったが、職人が350年間変わらない味を作っているのを信頼してお客様が購入してくれていると思うのですが、なぜ新しい味の商品を開発する必要があるのですか?」

「はい。僕たちももちろん藤田あられの長い伝統やイメージが好きで入社しましたし、それに誇りを持って働いています。しかし、今の購入者を調べてみるとほとんどが高齢者層で、このままではやがて市場から撤退せざるをえなくなります。若者向けの新商品イメージ作りをしましょう」

「もし新商品がヒットしたとします。しかしそれは一時期売り上げが伸びるだけで、結局元々の藤田あられの購買者たちが離れるきっかけになる可能性もありますね」

「もちろん今までの藤田あられのメイン商品のイメージは守り続けます。新しい商品を買ってくれた若い層が藤田あられの魅力に気がついて、藤田あられの以前の商品を購入するきっかけになればと思います」

「それなら最初から藤田あられの350年続いている味を、若い層や外国の人たちに知ってもらう営業努力をした方が良いのではないですか? というのは350年の間に、明治時代、戦前、昭和のバブル時代に、何度も味を変えるチャンスはあったはずなのに、先代たちはそれをやってこなかった。それでも売り上げとイメージはキープし続けた。これは先代たちが『あえて古い伝統にこだわった』というところに藤田あられの魅力があるのではと思うのですが、いかがですか?」

「しかし社長……、社長は新しいことをするのが怖いのですか?」

「はい。私は新しいことをするのがとても怖いです。もしここで新しい味を作り、会社が倒れてしまえば、私は先代たちに顔向けが出来なくなります。だったら味を守り続けて、少しづつ売り上げが少なくなり、会社の規模も小さくなり、最後は初代のような小さい店舗ひとつで藤田あられの味を守りながら売る方が良いかもしれないと思います」

20代社員3人組はしばらく黙り込み、そして一人がこう言った。

「社長、一度だけ僕たちにチャンスをください。10日後に新商品と新パッケージを社長のところにお持ちします。それを一度で良いから食べてみてください」

「そうですか。実は正直にいうと、私は小さい頃、この藤田あられの味が古くさくて大嫌いでした。今でも、デパートにいくと他社の新商品を見つけては買っています。一度だけチャンスをさしあげます。10日後、楽しみにしていますよ。そしてお伝えしておきたいのですが、私はあなたたちのような若者が大好きです」

20代社員3人組は深く頭を下げ、藤田の部屋を出た。

そして藤田は、もし彼らがとても美味しくて面白い新商品を持ってきたらどう答えるべきか考えた。そして、出来ることなら彼らの新商品がつまらないものではないことを祈った。

僕のcakesの連載をまとめた恋愛本でてます。「ワイングラスのむこう側」http://goo.gl/P2k1VA

この記事は投げ銭制です。この後、オマケでこの話を思いついた経緯を書いています。

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