noteで知り合った二人

#小説 #超短編小説

いらっしゃいませ。

bar bossaへようこそ。

雨が続く東京にも一日だけ少し赤い満月が夜空に浮かんだ。ストロベリー・ムーンと呼ぶらしい。イチゴの月。名前って本当に大切だ。イチゴの月。ストロベリー・ムーン。何度も呼びたくなってしまう。ストロベリー・ムーン。

そんなイチゴの月が渋谷の夜空に現れた頃、ちょっとシャイな印象のメガネをかけた30代前半くらいの男性がbar bossaに来店した。

僕は彼にジンのソーダ割りを出すと、彼はこんな話しを始めた。

「林さん、noteって知ってますか?」

「知ってますよ。クリエイターが色々と作品を発表出来るSNSですよね」

「はい。僕、そこで写真をあげたり、詩をあげたりしているんです」

「そうなんですか。アカウント名教えてください。僕もnoteやってるんですよ。ちょっと見てみます」

「いえ。僕、そのnoteではかなり現実の僕とは違うキャラクターでやってまして、林さんが見ると大笑いすると思うんです」

「まあでも、インターネットってそういうものですよね。本人に会ったら全然違ったってよく聞くじゃないですか」

「そのことなんです。僕が書いた詩に時々、【スキ】とかコメントとかをくれる女性がいて、僕も彼女のページに【スキ】とかコメントとかを残しだしたんです」

「彼女はどういう作品を発表してるんですか?」

「主にイラストです。ちょっとファンタジーな感じで、でも時々、日記みたいなのも書いていて、カフェや映画にいった話なんかも書いているんです」

「へえ、なんか良さそうですね」

「で、noteってメッセージが送れるんです」

「そうなんですか」

「それで時々、コメント欄には書けないようなプライベートなことも送りあっていて、途中からは面倒くさいからメールアドレスを最後に書いたら、彼女もそちらにメールをくれるようになって、今ではコメント欄にはあまり書かずに、メールでほとんどやりとりをするようになったんです」

「へえ。そういう風に繋がるんですね」

「彼女とはいろんな話があうんです。で、彼女のことをもっと知りたいと思って、色々と検索してたら、彼女がツイッターもやっているって気がついたんです」

「なるほど」

「それで、彼女のツイッターの過去を全部さかのぼってチェックして、どんどん彼女のことが好きになったんです」

「彼女は東京に住んでるんですか?」

「たぶん埼玉っぽいです」

「じゃあ会えばいいじゃないですか」

「それが、僕、経歴詐称ってほどでもないのですが、仕事はデザインとかもやっているクリエイターみたいなフリをしてしまってて、この僕のアイコンの写真も別人なんです」

「あ、ホントだ。このアイコンは誰なんですか?」

「すごく昔に似てるって言われた香港の俳優なんです」

「ああ、似てると言えば似てるけど、うーん…」

「すいません。無理がありますよね。でも、やっぱり彼女のことがどうしても好きで好きで、一度会いたいと思って、彼女が気にしていた映画を誘ってみたんです。で、彼女にはその時に全部正直に話そうって思って」

「お、良いですねえ」

「そしたら、彼女、その映画に行きたがってはいるのですが、どうも日程があわなくて。それで僕、ちょっと押しすぎだったと思うんです。突然、彼女にメールをブロックされちゃって」

「あああ、やられちゃいましたね」

「作品も全然、更新しなくなっちゃったし。すごく気になって、ずっと彼女のツイートを気にしてチェックしてたんです。そしたら突然、こんなツイートを連続でしました。

【noteで知り合ったあの人、会いたかったなあ。私、男性とこんなに親しくなれたの生まれて初めてだったのに。でもあの人、私に会ったらすごくブスでびっくりするだろうなあ】

【あの人に、私の写真を送ろうかなあって何度も思ったんだけど。比較的、マシに写っている写真を選んで、最初に私すごくブスだからそのつもりで来てねって知らせようと思ったんだけど】

【ほんと、半年待ってもらって整形してから会いたい気分。最初から私のブスな顔をアイコンにしてたらどうだったかな。あの人、コメントくれたかな。くれないよな。私もこの顔のアイコンであんな話書けないし】

【どこか遠いところで住んでいるフリしてずっと会えないままが良かったのかな。私、メールだけでも十分楽しかったんだけどな。でも本当はあの人に会いたかったな】」

「どうしたんですか?」

「はい。もうすぐその場で彼女のツイッターをフォローして、リプライで【僕です。僕、noteの方でたくさん嘘ついてます。僕もアイコンよりずっとカッコ悪いです。メールください】って送りました」

「どうなったんですか?」

「しばらくして彼女からメールが来ました。

【私のツイッター知ってたんですね。びっくりしました。そうなんです。私、すごくブスだから会えないんです】

僕は急いで【僕もいろんな嘘を書いています。是非、会ってください】って書きました」

「で?」

「昨日、会いました。確かにそんなに綺麗なタイプではなかったけど、とても素敵な女性でした。だいたい僕もアイコンが嘘ですし。仕事もちょっと嘘ついてますし。そんな話をして、笑いあいました。もちろんまた合う予定です。そして次回は『付き合ってください』って伝えるつもりです」

そういうと、彼はジン・ソーダのお代わりを注文した。

僕のcakesの連載をまとめた恋愛本でてます。「ワイングラスのむこう側」http://goo.gl/P2k1VA

この記事は投げ銭制です。この後、オマケでこの小説を書く経緯というか言い訳みたいなのをすごく短く書いています。

続きをみるには

残り 163字

¥ 100

サポートしたいと思ってくれた方、『結局、人の悩みは人間関係』を買っていただいた方が嬉しいです。それはもう持ってる、という方、お友達にプレゼントとかいかがでしょうか。