さよならの国7

ボートがやっと湖の向こう側にたどり着いた。

僕はボートから降りようとすると、後ろで声がした。

「そのボートはどこで盗んできたの?」

振り向くと、腰まで水に浸かった男の子がいた。髪の毛もシャツもぐっしょりと濡れている。

僕は驚いて「いや、盗んだわけじゃないんだけど」と答えた。

「でも、それ君のじゃないよね」

「うん。でも、誰でも使ってもいいのかなって思って」

「そんな言い訳はやめたら。要するに盗んだんでしょ」

この男の子、どこかで見たことがあった。そうだ、さっき、すべり台の上から手を振っていた男の子だ。

「君はさっき、すべり台で手を振っていたよね」

「そうだよ。でも僕と君はそのずっとずっと前にも会ったことがあるよ」

「ごめん。そんな気もするけど思い出せなくて」

「小学生3年生のときに、君たちにいじめられて自殺した横田だよ」

「そうだ、横田くんだ。でも僕は君をいじめたりしてないよ」

「ボートと同じでまた言い訳だ」

「いや、本当だよ」

「水の中からずっと君がひどいことをしてきたのを見てきたよ。中学生の時に嘘をついて友達を裏切ったこと。高校生の時にひどいことをしたこと。君のこれまでの人生は嘘や誰かを傷つけることばかりで最低だよ。どうしてそんな君がボートに乗っていて、僕が水の中でいるんだ」

そう言うと、横田くんはザバザバと水をかきわけ、僕の方に近づいてきた。

僕はあわててボートから飛び降り、走った。湖から逃げた。

横田くんが湖の中から何かを叫んでいる。

僕は走った。

#小説 #さよならの国

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この記事は投げ銭制です。この後、オマケでこの話を書いた経緯をすごく短く書いています。

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