もし僕に息子がいたら
先週の日曜日の夕方。自宅のマンションのすぐ前の道路で、僕と同い年くらいの男性が小学校3、4年生くらいの男の子とキャッチボールをしているのを見かけました。
そうかあ。僕も30代前半に息子が出来てたら、だいたい今くらいにあのくらいの年格好の息子がいて、日曜日の夕方に息子と二人きりで遊んだりしてたんだろうなあって想像しました。
でもどうだろう。僕はキャッチボールはしないだろうなあ。たまにサッカーボールを蹴っている親子を見かけるけど、サッカーでもないだろうなあ。僕だったら息子と日曜日はどうやってすごすんだろう。
バーベキューとか山登りとか釣りとかって感じのアウトドアものは僕は全く興味がないし、そういえば博物館や美術館みたいなところでいる親子もたまに見かけるなあ、でも息子と二人で恐竜展とかは僕は行かないだろうなあ。
二人で自転車に乗って、近所の図書館に行って過ごすかなあ。それとも新宿に電車で出て、レコード屋さんをまわって、帰りに喫茶店に寄って、僕はコーヒーを、息子はなんとかパフェを注文して、お互いの戦利品を見せあうかなあ。
でも息子がいたら海の近くで住みたいなあ。そして日曜日の夕方は二人で犬の散歩をして、砂浜に二人で座って、波を見ながら「最近、学校はどう?」って話をしたいなあ、なんて思いました。
まあただそれだけなのですが。
ちょっとこんな超短編小説を書いてみました。
※
仕事から帰ってきてマンションの扉を開けると、もう夜の10時なのに息子が飛び出してきた。
「ねえパパ、明日海に行くってホント?」
そうか。妻が息子に話しておいてくれたんだ。
息子は5歳でまだ海を見たことがない。息子が生まれてからの5年間ずっと夏の間は仕事が忙しかったから息子をどこかに連れていくことなんて出来なかったんだ。
昨日妻が「あの子が『海ってどんなとこなの?』ってテレビを見ながら言うのが可愛そうなのよね」と言うのでこの日曜こそは息子を海に連れて行くことにした。
息子は僕とお風呂に入るのを待っていたようで、大慌てで服を脱いで素っ裸になっている。
僕も廊下で全部脱ぎ捨てると妻が笑った。
狭いバスタブに二人で潜り込み頭を洗いっこした。
息子はシャンプーの泡が目に入ったらいつもは大騒ぎするのに今日は興奮していて全く気にしない。
「明日さ、海に行ったらさ」ばっかり繰り返している。
風呂を出て息子をバスタオルに包んでビショビショの身体を拭いた。
そして僕と息子は裸のまま寝室に走った。
寝室には3人分の布団が川の字に敷いてあり、僕と息子は海に飛び込むように「ザッブーン!」と言いながら布団になだれ込んだ。
僕と息子は布団の上で手をつないで天井を見上げた。
息子がキッチンにいる妻を呼んだ。「ママおいでよ。布団が海みたいだよ!」
そうだ。息子はまだ海を見たことなかったんだ。
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