タイムスリップ・デート

「あ、そのアーティストの来日公演、僕も行きましたよ。1992年でしたっけ。あれって、2回公演がありましよね。どっちに行きました? ええ! 僕も1回目の方です。じゃあ同じ場所でいたんですね。ちなみにどの辺りに座ってました。え、僕もその辺りです。うわー、もしかして隣だったりしてたらすごいですね」

なんてことって、たまにありますよね。

あるいは「え? あのカフェでバイトしてたんですか? 僕、週に一回は行ってましたよ。何年頃に働いてました? あ、じゃあ僕絶対に会ってます。女性の店員って何人かいましたよね。うーん、10年以上前だからそこまでは覚えていないんですけど。でも、絶対に一度は会話は交わしてますね。不思議ですね」

なんてこともあったりしますよね。

僕はこれを「タイムスリップ・デート」と呼んでます。今の世界から見て、「あ、僕たちあんなにすぐ近くまでいたのに、どうしてその時、僕たちは『出会わなかった』んだろう?」って感覚です。

あるいは彼女の過去の話を聞いて嫉妬してしまうときもありますよね。

「20歳の誕生日はパリですごしたんだけど」とかって聞いてると、あれれ、これどう考えても女友達と行った感じじゃないな、でも、「誰と行ったの?」って質問するのもみっともないな、でもうーん気になる。気になるとますます嫉妬の嵐が襲ってくる、なんて時もあります。

そして先日、気がついたのですが、「3.11の時、どこで何をしていたか」って話、あの時、日本列島にいた人はみんなしますよね。

一昨年とか去年くらいまでは、あんまり思わなかったのですが、今年辺りから「3.11以降に知り合った人」という人が増えてきたので、「あ、そうなんだ。当然なんだけど、あなたもあの日、この日本でいて、同じ驚きを体験して、その後、大変な思いをしたんだなあ」って感じることが何度かありました。

そしてこれから毎年、僕たちは「3.11の時は」っていう言葉を繰り返すことになりますよね。

今は幼い子供もあと何年かすれば「3.11の時はまだ赤ちゃんだったんだけど」なんて会話になりそうです。

そして、いつかは「3.11の時はまだ生まれてなくて」っていう会話を聞くことになりますよね。もちろん。

そんな頃、この世界はどうなっているんでしょうか。「昔は良かったよね」なのか、それとも。

#コラム

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