さよならの国4

街は静かだった。

舗道はしっとりと濡れていて、空気はひんやりとしているけど、風はなく僕はポケットに両手を突っ込んで歩いた。

するとほっそりとした黒猫が僕の隣を歩いているのに気がついた。黒猫はツンとすましていて気品があり、とても美人だった。

僕が「ねえ」と声をかけると、立ち止まった。「おいで」というと、そっと近寄ってきた。とても愛想が良い。

撫でてやるとすごく気持ちよさそうな表情を見せた。何か食べるものでもあれば良かったのになと思ったのだけど、黒猫はそんなことはちっとも気にしていないようで、僕と出会えたのがとても嬉しそうにすり寄ってきた。

でもたぶん、この可愛い黒猫とも一度しか会えないんだ。ここでお別れなんだ。

そうか、こいつもずっとひとりぼっちなんだなと僕は気がついた。

でも僕がいた世界も同じようなことなのかも、と僕は思った。

ただ黒猫は黒猫の世界を生きていて、僕は僕の世界を生きていて、時々そのふたつの世界がふれあう瞬間があるだけなんだ。

時間なんて流れていない。黒猫はただ黒猫の世界を生きているだけなんだ。

そして、黒猫は僕から離れ、美しい足取りで去っていった。

#小説  

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この記事は投げ銭制です。この後、オマケでこの話を思いついた経緯をすごく短く書いています。

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