上手くいかない恋の話

中田くんの恋はどうしても上手くいかなかった。

中学の時、テニス部の南さんのことを好きになった。「どうすれば良いんだろう」と友達に相談すると、「ラブレターを書いて渡すと良いよ」と言われたので、南さんが好きだということを真剣に書いて、テニスコートの横で待って、南さん本人にラブレターを渡して、逃げた。

いつまでたっても南さんからの音沙汰はなかった。卒業式のとき、中田くんは南さんにおもいきって「あの、僕のラブレターって読んでくれましたか?」と言ってみた。

すると南さんは「あ、読みましたよ。あれ? あの手紙って返事が必要だったんですか? どこにも返事待ってますって書いてなかったんで、そのままにしてしまってました。ごめんなさい」と言った。

高校生になって、ハンバーガー屋でアルバイトをしているとき、同じバイトの西野さんのことを好きになった。

中学の時の失恋を反省して、「今度は友達になってまず色んなことが話せるようになってから、自分のこの恋心を直接打ち明けよう」と心に決めた。

それで西野さんがバイトのシフトを入れている日時を確認して、どの日もどの時間も同じになるように中田くんもシフトを入れた。

そして中田くんは意気揚々としてバイトに通ったのだが、一度も西野さんの顔は見かけなかった。

店長に「西野さんはバイトやめちゃったんですか?」と質問したら、店長が「なんかお願いだからシフトを変えてくれっていうから変えてあげたんだ」と答えた。シフト表をあらためて見直すと、西野さんは中田くんが入っている日時だけは避けてシフトを入れていた。

大学生になって、映画サークルで一緒の東原さんに恋をした。

モテる友達から「まずメールアドレス教えてもらうんだよ。それで『あの映画行った?』とか『美味しいケーキ屋さん知ってるよ』とかメールで話して、そしてデートに誘えば良いんだ」と教えてもらった。

それで東原さんにおもいきって、「すいません、メールアドレス教えてもらえますか?」と言ってみた。

すると東原さんはちょっと間をあけて、「これ」と言って、メールアドレスを書いた小さい紙をくれた。

それで、家に帰って、大きく深呼吸をして、「こんにちは。こちらが僕のメールアドレスです。よろしく!」と、モテる友達に教えてもらった通りの「すごく短い用件だけのメール」を書いて、送信した。するとそのメールは「宛先不明」ですぐに戻ってきた。

次の日、東原さんに「ごめん。昨日、メールしたんだけど戻ってきちゃって」と言うと、東原さんは「え、そう? あれ? ハイフンとアンダーバーを勘違いしてなかった?」と言ったので、中田くんは「あ、間違えちゃったかな」と言って、その場で笑って別れた。

家に帰って、急いでハイフンをアンダーバーに変更して同じメールを出したのだけど、やはりすぐにメールは戻ってきた。もうメールアドレスを聞くのはやめようと中田くんは心に決めた。

中田くんは就職して、同僚の北村さんを好きになった。

昼休み、北村さんがランチから帰ってきたところを「すいません。ちょっとだけお話、良いですか?」と言うと、「ごめんなさい。手短にお願いします」と言われた。

「すいません。えと、この日曜日は何か用事はありますか?」と聞くと

「ごめんなさい。職場にそういうことは持ち込まないって決めてるんです」と言われた。

日曜日、井の頭公園で中田くんはぼんやり本を読んでいると、北村さんが同僚の男性と歩いているのを見かけた。中田くんはバレないように急いでその場を離れた。

中田くんの恋はどうしても上手くいかなかった。

そして「もう二度と恋なんてしない」と中田君は心に決めたのだけど、また誰かを好きになって、そしてまた失恋をした。

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