16才の娘がいる男性との恋

先日、常連の美香さんが来店してこんな話をはじめた。

「私、今、46才の男性とつきあってるんです」

「え、僕と同い年ですね。失礼ですけど美香さんっておいくつでしたっけ」

「36才です。あ、不倫じゃないですよ。その人、奥様がお子さんを産んで、その後、すぐに亡くなられたんです」

「なるほど。お子さんはおいくつなんですか?」

「16才で、女の子なんです」

「そうですか。それは微妙ですね」

「はい。その子、お母さんのことは全く覚えてないんですけど、お母さんはすごく綺麗だったみたいで、私みたいな女がママになるなんて許せないみたいなんです」

「うーん。その子と仲良くなれないんですか?」

「彼もなんとかしなきゃと思ってくれてて、この間、彼の自宅にご飯を作りに行ったんです。

でもその子、家事はほとんど自分でやってるから料理は上手いんです。だから肉じゃがみたいな家庭料理だとダメだろうなと思って、高いチーズをたくさん使った本格的なピザを作って、デザートはわざわざ伊勢丹の地下で一番人気のケーキを買って持っていったんです。

そしたら食べ終わった後に『パパの健康のことも考えてもう少しバランスいい食事がいいと思うんですけど』って言われちゃいまして」

「大変ですね」

「『学校で何が流行ってるの?』とか『好きな男の人とかいるの?』とか色々と話しかけてみたんですけど『別に』しか言ってくれないんです。

で、彼も『ほら、美香さん困ってるだろ』って言ったらもう完全にふてくされちゃって。

『パパ。この人のどこが良いの? 胸が大きいところ? あ、セックスがすごいんでしょ。だから大人の人ってイヤなんだ』って言って、私、おもいっきりカチンと来て、こう言ったんです。

『あのね、あなた今まで本気で誰かを好きになったことある? 私はね、この年になるまでいろんな恋をしてきたし、色んなことがあったけど、あなたのパパのことが本当に本当に好きなの。

娘さんがいるって聞いても、この人の娘さんならそれだけで大好きなの。この人の昔の奥さんや、この人の青春時代のことや、この人のいつも誠実な生き方とか、この人のさっきから困っている表情とか、もう私、全部好きなの。

もうねえ。わかってくれないと思うけど、あなたのパパのことが本当に好きで好きでしょうがないの。そしてこの人の人生全部が好きだから、ずっと一緒にいたいし、あなたのこともこの人の娘だと思うと可愛いなあって思うの。こういう感じわかってくれない?』

『私は、パパの娘だから好きなの…?』

『そう。ああ、こういう頑固なところとかすごく似てるなあとか、鼻と眉毛が同じ形だなあとか思うと、あなたのことが愛おしくなってくるの。ごめん、私、あなたのパパのこと、あなたのパパの人生、全てが好きなの。こういう気持ち、あなたも女なんだからわかってよ』

『ふーん… 眉毛、似てるかな。なんかイヤだな…』って言ったら、彼が笑って、それでなんとなく空気はなごみました」

「なんとかうまくいけそうですね。やっぱり女の子だから、そういう恋の気持ちが理解できたんですかね」

「はい。なんか変な親子になりそうですけど、全部、正直に伝えるのが一番だなって思いました」

そして美香さんは彼女のようなしっかりとしたシャルドネを口に流し込み、「いつか、その子と一緒に飲みに来ますね」と言った。

※小説 ※超短編小説

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