さよならの国8
僕は走った。走った。気がつくと暗い森の中だった。
月も星も見えない。獣の声もしない。風も吹いていない。静かな森の中、僕は立ち止まった。
僕はこの国にいったい何をしにきたんだろうと考えた。
さよならの国。人と人は一度しか出会えない。そこで出会ったら、後はお別れ。もう二度と出会えない。
するとガサガサッと音がして、女の子が僕の前にあらわれた。
「あの」とその女の子が言った。
僕は「こんばんは」と言った。
彼女が「こんばんは。びっくりしちゃった」と言って笑った。
そして僕はその彼女の笑顔を見て、恋に落ちた。僕はなんにもいえず、ただ立ち尽くして、彼女を見た。
彼女はちょっと困ったような表情を見せた。
そして僕は、彼女とはここでお別れなんだ、と気がついた。でも彼女ともっと話がしたい、彼女のことをもっと知りたい、もっともっと彼女を見ていたいと思った。
彼女が言った。「外の世界から来た人でしょ」
「うん」
「外の世界って人は何度でも会えることができるって本当?」
「うん」
「誰かに『じゃあ、さよなら』って言うじゃない。でも家に帰ってから、あの人どうしてるのかな。また会いたいなって思うときあるじゃない。そんなとき、外の世界だと、どこかでまた会う約束をしたら、もう一度会えるって本当なの?」
「本当だよ。もし二人がそうしたいのなら何度だって会える」
「ということは、この間の話の続きもできるし、もっともっとお互いのことを深く知り合えるような話もできるのね」
「そう」
「じゃあ、別れるときはどう言うの?」
「『またね』って言うんだ」
「『またね』かあ。そういうとまた会えるの?」
「二人がまた会いたかったらね」
「どっちかが会いたくなければどうなの?」
「約束の場所に行かなかったり、最初からもう一度会う約束なんかをしないかな」
「じゃあもしかして、外の世界では、片一方の人は『会いたい』って思ってるのだけど、もう一人は『会いたくない』って思っていることって時々あるってこと?」
「もちろん」
「それってすごく寂しくないの?」
「すごく寂しいよ」
「その人が何度も『会いたい』っていうのは言っても良いの?」
「良いけど嫌がられる時もある」
「『会いたい』って何度も言うと嫌がられる可能性があるのね」
「そう。ところで、このさよならの国では、誰かと出会って好きになったとき、『また会いたい』とは言わないんだよね」
「そうね」
「じゃあ、どうするんだろう?」
「何も言わない。心の中で『また会いたいけど、これでお別れ』ってそっと思うだけ」
「そうか」
「そうね」
そして僕たちにお別れの時が来た。
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この記事は投げ銭制です。この後、すごく短くオマケでこの小説を考えた経緯を書いています。
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