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noteの中で良いなあと思った作品をまとめます。
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2016年11月の記事一覧

こぼれ落ちた気持ち拾います (前編)

【小説】

 

〈こぼれ落ちた気持ち拾います〉

 街角で見かけた奇妙な看板に惹かれて、古びた雑居ビルの階段を三階へとあがる。なかに入るのを躊躇うほど錆びて赤茶けたドア。〈こぼれ落ちた気持ち拾います〉と手書きの朱色の文字。僕のこぼれ落ちそうな気持ちも拾ってくれるのだろうか。
 
 勇気を出してノックをするが返事はない。ドアノブを回してそっと扉を開けると、仄暗い間接照明のなか高価そうな調度品が並

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ROMANTIQUE '16

ROMANTIQUE '16

(イントロ)
今朝見た夢の中で僕が呼びかけたらあの娘は屈託のない、はにかんだ笑顔で振り向く。
でも夢の中でもそれが夢であることは分かっていて目覚めたら本当に夢であることに絶望した。

ボサノバを歌う。あのボサノバを歌おう。
少しぐらい泣いたって良いよ。ねえ、あのボサノバを歌おうよ。

(1番)
朝食を摂ってからいつものランニング。
コースの後半には公園があってそこには必ず立ち寄る。
そして池を眺め

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いちょうの記憶(14歳の誕生日に)

いちょうの記憶(14歳の誕生日に)

すでに出産予定日を3日すぎていたので、外出せずに自宅でひたすら陣痛を待っていた。あんなになにもしないでおなかだけに意識を集中してすごした時間は、後にも先にもない。

午後になって、なんとなくおなかがチクチクと疼く感じがした。しかし、おなかに集中しすぎて想像陣痛かもしれないし、痛みの間隔をはかるほど痛みのはじまりをキャッチできない。気のせいかな?という程度の痛みだった。夕方になって念のため病院に

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あーちんと仕事のこと

あーちんと仕事のこと

わたしの娘あーちんは中学2年生で、1週間の職場体験という取り組みで、10代続く庭師のもとに師事して働いている。早朝から、苗木を運ぶ手伝いや職場の掃除、焼却炉の掃除、近隣の住宅周りの掃除などをしているそうで、とてもいい経験だなと思って見ている。

こういう取り組みを、文科省は「キャリア教育の推進」として、学校と社会のつなぎめをなくそうとしているのだけれど、大勢への教育に対して、社会にでることは「個」

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