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【6章】 さらにその先の未来

前章までのように、“ファッション”を鍵に未来の予測をすることは可能だ。では、さらにその先の未来を見てみよう。自分にぴったりの服が手軽に手に入るようになった後、社会はどのようになるのだろうか。
着飾ることや整えることが手軽になり、皆があまり着飾らなくなるのが先か。それとも、仮想現実(以下VR)での生活が普及するのが先か。どちらが先なのか、どちらもほぼ同時に起こるのか。1つずつ可能性を考えてみる。

動画キャプション:今でこそ、zoomでSnap Cameraで化粧のフイルターを使う人も多いかもしれないが、過去に資生堂が上記のようなプロジェクトを推進していた。

case①
合理性/利便性、そして細やかな差別化

技術革新が進み、衣服の手入れはもちろん、体型維持や化粧、ヘアセットなどが現在と比べ物にならないくらい簡単になったら?それらに今ほど時間やエネルギーを必要としなくなったとしたら?きっと、“富の象徴”や、“社会性を有する証明”のためではない身なりをする傾向が強くなるだろう。つまりそれは、「ただの個人」を認識し、差別化する行為だ。

なぜそう言えるのか。それを明らかにするには、身なりを整える意義を考える必要がある。身なりを整え/装うことは、他者に経済力と社会性の証明をするための行為でもある。なぜなら、ある程度の時間やエネルギーなどを必要とするからだ。しかし、誰もが身だしなみをいとも簡単にできる状況になれば、話は別だ。身なりを整え、過剰な装飾を施すことはそれらの証明と直結しなくなる。

しかしそんな未来が来たとしても、人々が身体に全く何も施さないことはありえない。人は個性を確立し、アイデンティティを確認するためにも装うからだ。

よって、遠い未来において多くの人は、古代ギリシャの人々が着用していたキトンのように究極にシンプルなものを身につけるだろう。つまり、今よりも合理性/利便性を追求し、細かいところで差別化を図る身なりが主流になるのではないだろうか。
社会がより多様化することにより、各々がアイデンティティを確立するために個性を追求せざるをえなくなる。しかしながら、強く主張をする必要もない。そんな傾向が強くなることは間違いないだろう。

キトン

画像キャプション:古代ギリシャの衣服、キトン。裁断が不要な非常に合理的なデザインだ。腰紐を巻く際に襞(ひだ)を作り、その時々により着こなし方をアレンジすることができる。

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画像キャプション:身なりを整える理由やその方法は、社会の変化と連動している。

case②
技術革新により価値が暴落? リアルの身体に変化も

VRの利用が一般化したとき、私たちはどのような身なりをするのだろう。VRの利用が今後広がったとしても、視覚以外の感覚も“完璧に仮想”できなければ、そこで生活することが現実社会での生活と取って代わることはありえない。なぜなら、あらゆる生物は五感を頼りに生きているからだ。そしてその利用が普及すればするほど、現実世界での経験の価値が増す。きっと仮想空間は、今の私たちが利用するインターネットと似たような位置づけで、将来利用されるだろう。

そんな仮想空間の中では、各々身体をゼロから好きなように操れる。そのため、仮想空間内では化粧や着飾るという概念も時間と共に徐々になくなるかもしれない。

そして技術が発達した未来社会では、現実空間の身体はサイボーグのように体の一部が改造されている可能性もある。歩くスピードや飛躍力が変わるハイテクな義足を、シーンによって使い分けることが“便利でかっこいい”と認識される可能性もある。また機能性だけではなく、皮膚(義足の表面)の色や柄をプログラミング等で簡単に変えられ、レッグウェアを選ぶような楽しみ方ができる...というような現象も起こるだろう。さらにそれが社会に受け入れられるにつれて、人間の脚のフォルムをしていない“義足”まで普及する可能性もある。衣服と同じように、時を経て身体本来の役割が変化し、それに伴い身体機能も変化するのだ。

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画像キャプション:exiii Inc.が開発したオープンソースの電動義手。機能はさることながら、見た目の美しさも大きな特徴だ。

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画像キャプション:走り幅跳び選手Markus Rehm。過去にドイツ陸上選手権で健常者を破り、1位に輝いた。近い将来、健常者よりも義足選手の方が競技において優勢になると主張する専門家もいる。

技術的に身体の改造ができたとしても、社会的に受容されない限り、実際に人々の身なりは変化しない。そのため、VRや身体のサイボーグ化の普及は、身なりを整え装うことが限りなく簡単になった後に起こる現象だろう。
社会構造の変化と技術革新に伴い、ファッションシステムは変化する。それと同時に人々の装いは変化し、身体構造にまで影響を与える。物事はすぐには変化しない。マイナーチェンジを繰り返し、少し前の時代の構造や姿形の面影、残像を残しながら少しずつ変化するのだ。

ついに次章が最終章。今までの話を踏まえて、“未来は過去へ戻りつつある”というトピックで本稿を締めくくろうと思う。

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画像キャプション:歴史を辿ると、人類は様々な加工を身体に施してきた。それを踏まえると、“身体のサイボーグ化”も大げさな予測だとも言い切れない。画像は、コルセットでウエストが30cmになった女性
動画キャプション:センサーを頭蓋骨に直結させて日常生活を送るNeil Harbissonは、英国政府にサイボーグと認定されている。
動画キャプション:googleがLevi’sとコラボレーションしたプロジェクト、JACQUARD。このジャケットは、まるで着るタッチパネルだ。ウェアラブルは、身体のサイボーグ化の予兆かもしれない。
画像キャプション:義足アスリートからモデルまで幅広く活躍するAimee Mullinsの講演は、美の定義について考えさせられる。
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