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【5章】 次のファッションシステムはこうなる

あらゆる人が手間をかけずに、自分にぴったりの衣服を手に入れる。受け取りまでの時間もあっという間。消費者も、生産者もwin-winで、資源、労力などのロスが少ない。前章でまとめた、人々が抱いていた本来の目的と状況を踏まえると、今の課題を解消する次のファッションシステムはこのようなものだろう。本章では、そのシステムの詳細を分析し、次章で、さらにその先の未来へ話を進めてみようと思う。

新たな「オーダーメイド」適量生産、適量消費へ

消費者にとっては、こんなシステムではないだろうか。

①家にいながらにして、自分の体のサイズを簡単に計測/把握できる。
②数ある色や柄、素材、型などを選択/デザインすることで、自分が欲しい衣服のデザイン画を誰でも簡単に作成できる。
③それらのデータを送り、自分のサイズ、趣好ぴったりの衣服が郵送で受け取れる。
④しかも短期間に、リーズナブルな値段で。

上記のecサイトのような感覚で利用できる“ネオオーダーメイドシステム”は、製造者にとってもメリットが多い。顧客それぞれのサイズや要望に合わせて製造するので、売れ残りや新品で破棄される衣服が生まれない。つまりロスが完全にゼロだ。これは環境保全的側面でも良いことだろう。

動画キャプション:現在は配布中止しているZOZOSUIT。ユーザーはスーツで体型測定し、そのデータを元にサイズぴったりの服のオーダーメイド服を購入できた。

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では具体的にはどのようにすれば、こんな夢のようなシステムを成立できるのか?オーダーメイドなのにリーズナブルな価格で、短期間で製造を可能にするには、シェアリングエコノミーや製造技術の進化、新素材の誕生が鍵になるだろう。

まずは素材を生産/加工する工場をつなぐネットワークを構築する。そして多くのアパレルメーカーがそのネットワークを介してオーダーすることで、工場はそのオーダーに応じて効率的に生産/加工でき、余剰生産がなくなる。つまり実質的には、生産/加工工場だけでなく、場合によっては布などの生産物さえも複数のアパレルメーカーがシェアする形態になるのだ。
裁断/縫製工程では、衣服用のCADと自動裁断機(CAM)、そして縫製ロボットが普及し製造の効率化が格段と進むだろう。縫製ロボットは現在高価であったり、最新技術であるがゆえに生産現場ではあまり目にかかれない。しかし、このようなネットワークが構築されれば、生産量が管理/予測できるため、機材の普及が進むだろう。
また近い将来、裁断が不要となるよう、パターン(布を裁断するための型)ごとに布が製造できる技術が誕生する可能性もある。そして縫製に取って代わる耐久性の加工ができるような、新たな素材や技術探求が今後も続くだろう。

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画像キャプション:驚くべきことに、ファッション産業は非常にアナログな業界だ。未だに一部を除く全ての衣服は、人の手によってミシンがけされている。今あなたが着ているものも、誰かがどこかで縫製したものだ。

こうして、人々が何を目的として課題解決をしたのか歴史を振り返ると、一歩先の未来を予測できる。なぜなら、人類は“より豊かで便利になる”という目的を達成するために、技術革新を続けてきたからだ。つまり、その時々の“幸福”を追求してきた。そしてその“幸福”の定義が変化すれば、人々の行動や社会構造も変化するのだ。

近い未来、ここで仮説したようなネオオーダーメイドシステムが台頭することは間違いないだろう。

動画キャプション:2017年初旬、adidasが試験的に期間限定ストアKnit for youをオープンした。驚くことに、顧客のサイズ計測からたった4時間でニット製品が完成する。現在adidasは次のステップに備えているとのこと。
動画キャプション:鏡の前に立つだけで、全身をスキャンしサイズ計測できる「naked 3D fitness tracker」。類似したものが店舗や一般家庭に普及するのも、時間の問題かもしれない。
動画キャプション:Sewbotは、全自動でTシャツやジーンズなどの縫製ができる縫製ロボットだ。現段階では細かい縫製はできないが、時間の問題だろう。
動画キャプション:YUIMA NAKAZATOはパーツを組み合わせることで、デザインやサイズ、素材を自由に組み替えることが可能な衣服を提案した。

おすすめのデザインやコーディネートを提案
「インタラクティブ・リコメンドシステム」

とはいえ、ファッション産業が完全にネオオーダーメイドシステムだけにシフトすることは、絶対にありえない。では同時に起こりうることとは何だろうか。それは、デザイナーと消費者が協力して衣服をデザインするということ。つまりデザイナーによって新作は発表されるが、消費者はそれを参考に自分のサイズや好みのカラー、フォルム、素材を選択して、オーダーすることが可能になるというようなものだ。

なぜなら人は装う時に、

①他人とかぶりたくないと思う(個性の確立)一方で、
②集団に属したい欲望(帰属願望)がある。
③さらに自分なりのオピニオンリーダー(羨望の対象)を作り、他者の真似をしたいという心理も働く。
④またその過程で、他人から新しい提案をされたり、数ある中(ある程度限定された数)から選ぶ楽しみも必要としている。

上記のことは、現代で社会生活を送るすべての人が無意識にでも経験しているはずだ。この矛盾した心理は、衣服に限らず、所有物や趣味などでも当てはまる、誰もが持つ欲望でもある。
これらの理由から、デザイナーが新作をデザインして、それを消費者が購入するという仕組み自体が完全に崩壊するということはない。しかし、現行のラグジュアリーブランドのようなシステムは成立しなくなるだろう。

年に数回行われてきた、莫大な資金をかけて行われるラグジュアリーブランドのファッションショーの多くは消滅する。その代わりにデザイナーはウェブ上で、動画やVRのような最新技術を用いてプレゼンテーションすることが主流になる。そして前述の、ネオオーダーメイドシステムのプラットフォームがウェブ上もしくは店舗形式で展開されていれば、そこで新作の情報が発信/拡散されることになるだろう。

現在、多くのファッションブランドは新作を発表する際に、その世界観を伝えるだけで完結している。しかし上記のようにウェブ上でプレゼンテーションをすることが主流となった際には、世界観だけでなく機能面や産地など、こだわった点なども説明するようになるだろう。消費者が手軽に多種多様なデザインを比較検討できる状況において、他のブランドと差別化を図るためには、そのような情報を伝えることが不可欠だからだ。

このシステムは次第に、消費者がデザイナーのプレゼンテーションをチェックしつつも、デザイナーに細かい要望を伝えると、対応してもらえるようなものに変化する。また消費者はこのようなやりとりを重ねることで、デザイナーからアドバイスやお勧めをしてもらえるようになる。そんな「インタラクティブ・リコメンドシステム」が普及するだろう。つまりこの新たなシステムの誕生に伴い、デザイナーが消費者に一方的に提案するのではなく、双方がよりインタラクティブなコミュニケーションをし、衣服の生産をすることも可能になるのだ。
そのため、消費者が素材やフォルムなどを選ぶことを手助けする、従来のデザイナーが成し得なかった新しい仕事も復活するだろう。(デザイナーという職業が消費社会とともに誕生する以前、仕立屋はこのような仕事をしていた。)さらに、そこでAIが仕事の一端を担う可能性もある。

動画キャプション:パンデミックによりファッションショーが中止になり、Diorなどの大手ブランドは代替案として動画で新作発表をしている。
動画キャプション:YUIMA NAKAZATOはパンデミックの状況下で、オンラインでのオーダーメイドプロジェクトを実施した。また、オンラインでアパレル販売員が接客ができるSTAFF STARTというアプリも、コロナ影響下により大好評だ。

ネオオーダーメイドと、プレゼンテーション、そしてインタラクティブ・リコメンド機能。その3つが融合したシステムが誕生する。そしてファッションシステムの変化と共に、デザイナーの仕事内容も変化する。そんな未来がきっと、いや必ず来る。
これらのことを踏まえて、次章では未来のさらにその先を見てみよう。そんな先まで想像できないって?まあそんな事言わずに、少し覗いてみよう。遠い未来なのに、きっと身近に感じるから。

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