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VR空間デザインの夜明け(VRAAのこと)

※この記事はxRArchiアドカレ(https://adventar.org/calendars/4686)の12月10日の記事です。

2019年の夏、「VRAA」というVR空間デザインコンテストが開催された。
開催場所はVRChatと呼ばれるVR空間上、提出作品はもちろんVR空間、審査もすべてVR空間内で完結し、運営もリモートで、オフ会を除けば誰ひとり実空間で会うことなく行われたデザインアワードだ。

私は運営委員長として半年に渡っていろいろと考えたり手を動かして来たんだけど、今日は個人として、VRAAがなんだったのか考えてみようと思う。

■ VRAAってなに?

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「VR Architecture Award(VRAA)」とは?
現実と呼ばれる「実空間」とインターネットが拓いた「情報空間」が融合し、「新たな3次元空間」が生まれるとき、人はどのように 豊かに生きていくことができるか――。
VRAAは、人類の生きる空間をみんなで考えるVR空間デザインコンテストです。(公式WebSiteより)

まずはとにかく 全作品リスト を見てほしい。

ここに集まったのは、ひとつひとつが異なる論理で構築された何らかの空間である。サイトで見られるのは画像だけだけど、この全ての作品にはVR機器を介して身体ごと入り込むことができる。

第一回となった2019年の募集テーマは「バーチャル / コミュニケーション」で、応募期間は5月31日 〜 7月15日。結果として登録者数105名、79作品(最終的にポータルワールドに展示されたのは76作品)の応募があった。

全作品を並べたポータルワールドは2019年12月10日時点で26,955 visit、649 favorite。のべ人数で2万5000人を超える人が訪れたことになる。
ポータルワールドはまだCommunityLabs扱いだが、VRChatの公式サイトから「VRAA01」と検索すれば出てくるので、VRChatのワールド巡りをしたいときなど、誰でも活用できる。(ぜひしてほしい!)

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VRAAはアワードなので、応募作品に対しては審査を行った。と言っても優劣をつけることが目的なのではなくて、応募に対する応答のため。「審査」というものは、「そもそも人は自らの知り得る範囲でしか何かを評価できないのにも関わらず、審査員という非対称な立場から言葉を放つ、ということの重い責任を持って作品/作者に対して取るコミュニケーション」のことを言う。応募というリスクへの「身投げ」に対して、審査員もリスクへの「身投げ」しなければフェアじゃない。というわけで、審査は運営メンバー数名の他、以下の錚々たる方々に引き受けていただいた。

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審査結果(敬称略)
【最優秀賞】「Communicate Your Dimension! (VRAA)」VoxelKei
【xRArchi 賞( 優秀賞)】「VR Manga World」小江華あき
【藤井直敬賞】「Just the two of us」キヌ
【豊田啓介賞】「仮想虚像空間」momoma
【モスコミュール賞】「お絵かきと対話」phi16
【特別賞】「人は、できることなら表面などつくりたくはない」円フツ
【特別賞】「SPACE ELEVATOR」LUNAR ECLIPSE
【10選】「HIPPARCOS SALON」クワマイ
【10選】「夏夜の幻想」えこちん

また、以下の12社から協賛品・協賛金をいただき無事に運営ができました。さらに、DiGITAL ARTISANさんにはVRAAMeetUpへの会場提供+設営など全面協力をいただきました。ありがとうございます。

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そして、運営メンバーはほぼほぼ社会人。無償で深夜の時間を使って先の見えないタスクを潰していってくれた全員に感謝。お疲れさまでした。

簡単にだけど、以上がVRAAの概要。

■ どんな作品が集まった?

「バーチャル/コミュニケーション」というテーマはなんとでも解釈できるので、作品によって捉え方は多岐に渡った。ざっくりとグルーピングするとこんな広がりを持っていた。

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ただし、審査上の評価は「今までにないVRならではの体験」ができる作品に集中した。これはVRAAに残された課題のひとつでもあるのだけど、実は多くの人々が実際にその空間で生き、何らかの時間をみんなで共有した「コミュニケーションの瞬間」自体は、むしろ今回評価されたものの外にこそ広がっている。もっと言えば、そもそも応募されていない大部分のVR空間でこそ、人々は夜な夜な集まって駄弁ったりイベントで盛り上がったりと、活き活きと生活している。

だから、応募した人のなかには「あれ?なんか思ってたのと違った」という感想を抱いた人もいたかもしれないなと思う。
VRAA01のような「空間=ハコ」の応募という形では、一番スリリングでエキサイティングで甘美な、誰かと一緒に過ごした光景や記憶は保存できないのだ。

もっとも、そんな瞬間まで外部的評価に晒す必要はないのかもしれない。VR空間の良さは、大きな社会との不必要な接続や軋轢なしに、好きな者同士が好きな場所を共有できるところにあるから。

実際に集まった作品の詳細はここでは書ききれないので、ぜひ応募作品リスト作者による記事などを見てもらいたい。というか何より、VRで実際に行ってみてもらいたいです。

■ どうしてVRAAを始めたの?

ちょっと話を変えて、そもそもなぜいま「VR空間デザインコンテスト」をみんなでやったのか書いてみる。私自身のなかには、大きくは2つの理由がある。

ひとつめの理由は「空間体験デザインの時代が来るから」

「VR」というのはそれ単体で意味を持つものではなく、人類の大きな進化過程のひとつのパーツだ。特にインターネット(World Wide Webが生まれてからまだ30年)が完全体になるための段階として、たまたま2010年代後半に盛り上がった技術のひとつだと考えている。
インターネットのことを「情報空間」なんて言ったりするけど、「空間」と呼ぶ割に、人類は未だ2次元の「窓」を通してしかその空間に触れられていない。でもインターネットはいずれ「空間体験」として立ち現れるホームページはいずれ「ホームワールド」になり、ホームワールドは「都市」を形成する

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近い将来「空間体験を設計すること」への需要は飛躍的に高まる。その近い将来の萌芽が、いまVRChatで見られる「ユーザーによるワールドのアップロード」だと思う。
いまVR空間を遊びでつくっている人というのは、よくよく考えると「コンセプト+空間+グラフィック+アニメーション+音+UI/UX+インタラクション+ナラティブetc.」を同時に、ひとりでorリモートで複数人でデザインするという超絶つよつよスキルセットを持つ新人類だし、さらにここにイベントデザインや運営ノウハウまで個が統合しはじめているという、次世代のクリエイターとしか言いようがない感じになっちゃっているのである。

わかりやすいからよく使う比較だけど、ニコニコ動画から10年が経って、VRChatから新しい世界が生まれているなぁと思うのです。
VRAAなどの試みを通して、こうした変化を世に伝えてみたいという想いを私は持っている。

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VRAAをやることのもうひとつの理由は「アーカイブ」

毎日大量に創り出されてはいずれ過去に押し流されていくさまざまなVR空間を、ある時点で凍結(アーカイブ)し、文字情報とともに記録したかった。
おそらくVR空間の寿命はテクストに比べればずっと短く、サービスが終了したり技術的な転換が起きると容易に壊れてしまうもの。定期的なメンテが必要だけど、話題の中心や作者の興味が刻々と移り変わるなかで維持するのは相当なコストがかかる。

だからこそ、ある時点で、誰かがその空間を見て考えたことをまとめて、文字や画像などの別メディアで残すことには大きな意味がある。
楽しいぼくらのVR空間(=日常)を、わざわざ外部の批評にさらして変に注目を浴びせたい、社会的に認知させて活用して利益に結びつけたい、ということでは全くなくて、むしろ「VR空間を取り巻くいまこの瞬間の美しさ」を後々オトナたちに食い散らかされないように、こちらの論理を組み立てるための定点を持っておきたい、ということのためのアーカイブ。

きっとこれはすごく大事なこと。

■ さいごに

というわけで、アーカイブである以上続けないと意味がないので、VRAAはまず来年、また無事に開催することが大事。

(あと、というか、まだ完了していない今年の作業を終わらせること…!!)

「VRAA02」は何らかの進化を遂げるハズなので、興味のある方はぜひ運営側でイベントを一緒につくったり、参加者として応募したり、自由に参加してもらえればと思います。(今回はxRArchiという団体が母体になっていたけど、次回はそういう括りもなくしたい)

これからもVRAAをよろしくね。

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