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ザハ・ハディド・アーキテクツはメタバースにどのように突っ込んでいっているか

こんにちは、
建築とバーチャルの間の真空を漂うワカメ的存在、番匠カンナです。

先日は建築家に忍び寄る「詐欺バース」について書きましたが、
今日はザハ・ハディド・アーキテクツ(ZHA)のメタバースへの突っ込みかたを見ながら、建築界とバーチャル世界の関係について書きます。

日本の建築界はちゃんと取り上げているのか知りませんが、ZHA、メタバースに突っ込んでいってます。


ZHAとは?

ザハ・ハディドは建築界ではその名を知らぬものはいないトップ・オブ・トップ建築家ですが、建築界の外だと、とくに日本では「幻の新国立競技場案」で有名です。
大変残念なことにザハは2016年に65歳で急逝しましたが、ZHA自体は彼女の死後も世界を代表する建築事務所であり続けています。
現在の代表は、長年主に建築理論面でザハを支えてきたパトリック・シューマッハ氏「Parametricism(パラメトリシズム)」という新たな(建築の, 社会の, 思考などの)様式を唱えています。

この思想をさまざまな制約から開放され真に体現できる場として、メタバースを捉えているふしがあります。

リベルランド

ZHAは、2022年の3月にリベルランド・メタバース・シティというプロジェクトを発表しました。
リベルランド自由共和国という、セルビアとクロアチアの国境にあるマイクロネーション(シーランド公国とかそういうやつ)のための、メタバース空間、というより「都市まるごと」を設計しています。

ぱっと見、ZHAが現実に提案するものと全く区別のつかない、これでもかというくらいリアルな都市計画。巷で散見される「バーチャルならではの〜」という腰の座っていないふにゃふにゃフレーズを、ZHAは真顔で叩き割ってきます。

ちなみにプラットフォームはMytaverseというものらしいのですが、謎です。(なんか体験できるかなと登録したけどなんもできず)

なぜリアリズム?

いくつかの関連記事から、シューマッハ氏の考えを私なりに要約します。

  • メタバースは、(彼の唱える)パラメトリシズム=デジタル・ネイティブな建築スタイルが真価を発揮する場所である。

  • すべてのデザインは社会的相互作用を組み立てるものであり、あらゆるコミュニケーションを定義するものである。メタバースのデザインは、コミュニケーション能力が大幅に強化された空間視覚言語の開発である。

  • だから、メタバースは建築分野が設計すべき。ゲーム分野が得意とするエンタメは一部に過ぎない。

  • 現実の身体を持っている限り、メタバースへの完全な代替は起きない。すべての組織はリアルとバーチャルの両方に場所を持つ。HMDやラップトップでのソロ体験だけではなく、大きなパノラマ画面など空間インターフェースでのマルチ体験でつながる。

  • 複合現実とサイバー都市は融合するため、一緒に設計することが重要。(≒だから一緒に設計できる建築分野がやるべき)

どことなく、ゲームに主導権を取らせてなるものか、という対抗意識が働いているのを感じます。気持ちとしてわかる部分も、話として分かる部分もあるんだけど、なんだろうこの拭えないつっかえ感。

今まで見た中で最も痛々しいクソ

この発表に対して、SCI-Arc.(サイアーク)出身のRyan Scavnicky氏は、「the cringiest shit I’ve ever seen.(今まで見た中で最も痛々しいクソ)」痛烈な批判記事を書いています。
リベルランド・メタバースを一人称視点で歩いたときの薄ら寒い空間への批判、そしてはるかに生き生きとしたソーシャルデジタルスペースを生み出してきたゲーム分野を無視するシューマッハ氏の傲慢さへの批判です。

Scavnicky氏は、同じZHAがPUBG Mobileとコラボした建築物を比較に出して、PUBGコラボは素晴らしいのに、どうしてこうなった、と言っている。

多くの視線があり、プレーヤーはプロジェクトの中心にパラシュートで入ることができ、モバイルのポリゴンの限界に細心の注意が払われています。パフォーマンスとテクスチャリング。その結果、素晴らしいものが生まれました。それは、悪臭を放つブローハードに裏打ちされた投機的な不動産としてではなく、建築の専門知識とのコラボレーションとして設計されたアクセス可能なソーシャルスペースです。

Patrik Schumacher’s Liberland Metaverse is pure cringe / The Architect's Newspaper

なんぞこれ

まぁ、リベルランド・メタバース、注意深く見るとかなりギャグみに溢れてるんですよね…。

「DeFiプラザ」ってなんだよ…「NFTプラザ」って…

この香ばしい直球ネームもさることながら、Web3をWebの進化だと言っている方々は、物理的距離を持った都市のアナロジーでできた世界を本当にWeb的だと思うんですかね…
真ん中にシティ・ホールがあって、Defiプラザに歩いて出かけて、という生活でいいんですか…? 大好きなDecentralize、ちゃんとされてますか…? 土地も人口もマイクロな自称国家が、中央集権的国家を夢見てませんか…?

…とか、無限に嫌味をいいたくなっちゃう性悪な私を許して。

ちなみにZHAは他にも、Art Baselという世界最大級の現代アートフェア(のマイアミ版)に「NFTism」というバーチャルギャラリーを発表している。こちらはJOURNEEというドイツのメタバース・クリエイティブ・スタジオとの協業だけど、私はJOURNEEも「一流ブランドのデジタル空間をつかったブランディングが強そう」という感想以外、詳しくしらない。

ZHVR Group

ちょっと批判記事めいてきてしまっているけれど、私は、このリベルランドが良いかどうかは別として、ちゃんとZHAのことを評価したい。少なくとも、自ら考え、そこに未来を描き、自ら(こういった批判にさらされる危険を冒してでも)メタバースに突っ込んでいっているのだから、そこには評価されるべき部分もあると思っている。

というのも、ZHAのバーチャル方面の取り組みは、昨今のWeb3メタバースに便乗して始めたものではなく、2014年にZHVRという組織を立ち上げてから、ずっと続いてきたものなのだ。(なお、現在はZHVRのサイトが壊れていてアクセス不能)

Epic Gamesとコラボしてできたバーチャル空間での共同設計実験「Project Correl」や、いくつかのVRプロジェクトなど、UnrealEngineのウェブサイトに記事が残っていたり、よくわからん残骸のような動画がYoutubeに残っていたりする。(重ねて言うがZHVRのサイトが壊れていて以下略)

Epic Games との別のコラボレーションでは、HP、NVIDIA、HTC VIVE も関与して、Project Correl を作成しました。Project Correl は、メキシコシティの University Contemporary Art Museum (MUAC) で開催された展示会、Design as Second Nature で公開されました。この実験的なプロジェクトでは、訪問者を招いて、協働による、複数の場所にわたる建築設計を行い、数か月にわたって仮想的な建造物を集団で構築しました。イテレーションを通じて徐々にできあがる建造物は、キャプチャされ、縮尺を調整して 3D プリンターで作られたモデルとして、ギャラリーに展示されました。

Zaha Hadid Architects use VR visualization to gain and give new perspectives
 / UNREAL ENGINE

なんか、私が生まれた2018年より前から、いろいろやってきてるっぽくはあるのである。(謎擁護)
まぁ、それで行き着く先がリベルランドなのかというのも、あるのだけど。

建築家とバーチャル世界

今回は、ZHAのメタバースへの突っ込みかたを見てきました。シューマッハ氏の思想ととくにWeb3方面のメタバースブームが共鳴しているのが今、という感じです。おそらく海外でも多くの人が、懐疑的に見ている気がします。

ただ、海外に目を向ければ、他にも世界的な建築事務所がバーチャル世界に対して積極的に何か関わろうとしている事例は他にもあります。

例えば、メタバースとは毛色がかなり異なるけど、VRを用いた設計&ビジュアライゼーションツールだと、こちらもZHAと同じくらい有名なBIGUNstudioが、Squint/Operaという会社と開発した「Space Form」というサービスがあったりします。(使ったことはないので、これが良いものなのかどうかはわかりません)

日本でも似たサービスはありますが、建築家自身が開発をするという動きかたを見ると、やっぱり海外のほうがいろいろ早いなという感想です。

日本はどこからはじまる…?

そろそろ「メタバース案件」というものが、建築家の元にも届き始めているころだと思います。隈研吾のN高・S高は目立ったほうで、それ以外にも、中堅といわれる建築家のところにも話がきて、よくわからないまま人知れず終わっていたものや、派手ではないけど建築してるものなど、いくつか観測できるものがあります。

ただ、ほぼ全てが、メタバース系の事業者が建築家に「バーチャル空間に建物をつくってほしい」と依頼し、建築家側がこれを受けてなんらかの3Dモデルを納品している、というものです。

残念ながら、現状のこの関係からは、建築界とバーチャル世界が本質的に交わったものは出てこないでしょう
理由は単純で、互いに互いのことを知らなすぎるからです。

さらに深い話になっていくので続きはまた今度。では!

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