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ベトナム考察 [ベトナム人は犬が嫌い]

この間ベトナムの犬食文化について書いたけれど、基本的にベトナム人は犬が大嫌いだ。

ここでいう犬とは公安(警察)のことで、特に黄色い制服を着ている交通系の公安は、人々から犬と呼ばれ忌み嫌われている。

日常的にバイクに乗っているくせに、この国の交通ルールをあまり理解していない僕は、よく犬に捕まる。困るのは、その理由がわからないことだ。

日本のように二段階右折とかUターン禁止ではなく、普通に走っていても捕まる。罰金の相場は大体1000円ぐらいなのだけど、外国人と見るやその10倍を請求してくるあたり、卑しさを感じると同時に、その逞しさに感心する。

なんだかんだ粘れば最終的には相場の1000円に落ち着くのだけど、それでもなぜ捕まったのかわからない僕は、日増しに犬への嫌悪感が増していった。ある朝、バイクで走っていると、いつものよう犬に止められた。

犬が歩道側に来いと警棒を使って手招きする。バイクを歩道側に寄せると、僕の他にも罰金払い待ちの人たちが、数匹の犬の前で列をなしていた。この時間は稼ぎ時らしい。とっさに僕は、ポケットの中の現金をメットインスペースの奥に隠し、無一文を演じることを思いついた。

数分後、僕の番が来た。僕が外国人とみるや、犬はスマホの翻訳アプリを使って罰金を請求してきた。金額は100万ベトナムドン、大体4500円ぐらい。外国人価格だ。信号違反がなんとか言っていたけれど、翻訳の精度が悪く、あまり理解できなかった。

僕は数少ないベトナム語のボキャブラリーから、お金がないという意味の「ホンコーティエン」を連発し、ズボンのポケットをひっくり返した。犬は悲しそうな目で僕を見つめ、まるでうるさい子供を追い払うかのように、右手でもう行っていいぞと、合図した。

その悲しそうな瞳の奥にある感情は、「ホンコーティエン」な僕に対する憐れみではなく、だから、稼ぎそこねた悔しさだろう。もしかすると、今晩奥さんにドヤされるのかもしれない彼に対する一抹の罪悪感を覚えながら、また一つこの地で生き抜く術を身に付けた瞬間だった。

後日、会社でベトナム人にこのことを話したら、「やってやったな!」と、まるで英雄のような扱いをされた。やはりみんな犬には辛酸を嘗められているらしい。


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