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雨の街

東京は雨に弱い
排水が弱くちょっと多く降れば
巨大な水溜りだらけになり電車も止まるが
それだけでなく
いろんな人がいろんな事を待ち構えていて
一斉に動くものだから
彼らが一斉に傘をさして
てんでバラバラな方向に行き来すると
普段は見ないようにしている
自分たちの勝手な都合と混乱ぶりが
顕になって、なんとなく気まずくなるのだ
それと、庇とかコンセントとか
鉄骨とか液晶画面とか
ポスターとか立て看板とか
そういうものでできているこの街の
便利なようでそうでもない
諸々のものたちが
濡れると
急に冷たく無愛想に
無関心になって
冷たい雫を黙ってこぼす
それは如何ともし難い
人と街の滑稽な拒絶の歌になって
てんでバラバラな人たちを浸す

しかしまた 東京の人は
雨に濡れると
途端に魅力的になるのも事実だ
庇やコンセントや諸々のものたちが
無愛想に無関心に濡れて止まってしまうと
髪や顔を濡らした人たちが
未開人のように生き生きと
面倒くさそうに
あれこれの不便を甘受して
艶やかにただ笑っていたりする
雨の前にも後にも
本当の用事はなにもない
そういうことをわかっている人たちが
ペロっと舌を出して
参ったね、と笑いあう

この街には
最も古い雨乞いのこころが
生きている

Poetic Sorcery Issue IV-X