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与太郎と大黒と弥勒

長く戦のなかりせど自死に貧乏溢れんばかりはたと思い至るるはまことに戦のなかりしか或はこれぞ敵策なりしか改め問うは敵とは何ぞ大黒様の応えて曰く生くる即ちこれ戦なり故に敵とはこれ世界なりあいやまたれよ大黒様よそれではあまりに救われぬよかろうこう言い換えてはどうか敵とは即ちこれ平和なり与謝野晶子も歌うておろう君死にたまふことなかれされども今は戦ふ時と戦の術を棄て去れば食うも生くるも能わぬままに病の床を平和と称し果ては命を憎んで止まぬそれがおぬしら人間ぞそれがおぬしら生命ぞあいやまたれい与太郎よそやつは大黒天を偽りて人を惑わす修羅なりぞこれは危ないところであったそういう貴方はさて何方様我か我こそ真の弥勒マイトレーヤでお馴染みの救世主とは我の事哀れ人の子与太郎の悪鬼に誑かされんと聞いて超えて来るはヒマラヤのサーチャージさえ厭うことなしおのれ小癪な弥勒の野郎与太郎ゆめゆめ騙されるなよそやつが諸悪の根源ぞそやつは四十八億年を眠りこけつつ寝言を申すただそれだけの木偶の坊今ぞ宣うご高説さへそやつの夢の台詞に過ぎぬそやつは眠っておるのだからなこれは危ないところであったしかし待たれよ大黒様よ弥勒が寝言を申しておるならここは弥勒の夢の内わたしも夢の役者に過ぎぬとこういうことにはなるまいか与太郎おまえは人の割にはなかなか賢いところもあるな左様おぬしも我が輩も弥勒の夢の役者に過ぎぬ世に貧乏と自死の止まぬも弥勒の寝言寝返りひとつされど与太郎おまえはそれで納得いくと申すのかどうだ納得いかぬであろう神田川には桜も咲けば茶屋の娘の小股も切れてそれゆえおまえは仕事もすれば役人金貸しやくざ者にも愛想笑いの一つも打てるそれがどうだいヒマラヤの妙なところで眠りこけてるマイトレーヤか蕎麦屋か知らぬが得体の知れぬ輩の枕の具合一つの話となれば蕎麦の出前は遅くて半時弥勒の救いは五十と六億待てと言われてお前は待つかそうは言っても大黒様よお主も台本通りの台詞を喋る弥勒の夢の役者であろう寝言の主も大根役者もどっちもおれはうぃーひっくともかくお前ら気にいらねぇ大黒天だか修羅だか知らんがマイトレーヤか蕎麦屋か知らんが人がいい気で呑んでる宵に何目的だこの野郎おい大黒のお前のせいぞおまえが余計な事を言うからおいおい今更マイ公のお前がお山は暇でかなわぬそう申すからつき合ったのだ何をぐだぐだ言

アーメン!

虚空亭空虚(2012年10月記)

Poetic Sorcery Issue V-VIII
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