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農業界の巨人、JAグループを解説①

今回のnoteでは誰もが一度はその名前を聞いたことのある"農協(以下「JA」)"についてです。私が代表を勤める株式会社kikitoriも2021年はじめにJAグループから資金調達を行い、会社で進めている農業流通現場の新しいインフラを目指す"nimaru"においてJAグループとの事業連携をスタートしました。

事業連携により、JAグループ及び全国のJAとの接点をたくさん持たせて頂くことができたと同時に、JAという存在についてかなり理解を深められたように思っています。現時点でこれまでインプットした内容を整理するという意味でnoteにまとめてみました。

業界の中でも意外と正確に理解している人が少ないJAという存在

一般の人たちにJAについて聞いてみると返答はおおかた下記のような感じかなと思います。

"何やら農業の分野でやっている団体"、"金融業など幅広く事業をやっている?”、"詳しく分からないけど親戚がJAで働いている"

もう少しリアルな話をすると、何となくJAに対して下記のようなネガティブなイメージを持っている人も結構いるような気がします(某雑誌の影響が強いのかもしれません(笑))。

"農業界における既得権益的存在"、"古い体質"、"中間流通事業者として手数料をたくさんとっている"、

こうしたぼんやりとしたイメージが先行する一方で、JAの組織や事業、その実態をしっかりと理解している人ほとんどいないように思います。実は農業の分野に携わる人たち、さらにはJAグループの中にいる人たちでさえも(その組織の大きさ、複雑さから)JAの実態について正確に理解している人がそれほど多くないことも最近わかってきました。一般の人たちだけでなく、業界の人たちに向けてもJAの存在についてより客観的に説明できればと思い、かなり長くなるのでシリーズ化してお伝えします。

JAと協同組合について

まずはJAを正確に理解するにあたり、改めてその組織について整理します(少し教科書的な話になりますが)。

JAとは"農業協同組合(Japan Agricultural Cooperatives)"の略称です。JAのウェブサイトによると、JAとは、"相互扶助の精神のもとに農家の営農と生活を守り高め、よりよい社会を築くことを目的に組織された協同組合です"とあります。

ポイントは"相互扶助の精神"、"協同組合"になるかと思います。しかし、これらの点が、外部(だけでなく内部もですが)の人たちにとってJAを理解するのが難しい理由の一つになっているような気がします。

JAは会社組織でも役所でもなく協同組合です。したがって、JAを正確に理解する上で協同組合についての理解が必要不可欠となるため、まずは協同組合について説明していきます。

協同組合とは、すごくざっくりいうと、個々人の目的を達成する上で、同じ目的を持つ人が集まって一緒にやれるとこは一緒にやった方が目的を達成しやすいよね、という感じで、それぞれの人たちが集まってできた組織のことです。

特に農業は選別や輸送、販売など個々人でやるよりも複数人でまとめてやった方が効率的且つ低コストで行える業務がすごくたくさんあります。

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協同組合を理解する上でその特徴を一般の人がより身近な株式会社と比較しながら説明していきます。

三位一体(さんみいったい)
協同組合の特徴として、組合を組織する組合員は組織者であり、組合が行う事業(サービス)の利用者でもあり、同時に組合を運営していく運営者でもあります。これを三位一体と呼びます。

このことは、JAの組合員である農家は、JAという組織のオーナーでもあり、JAが行うサービスのお客さんであり、一方で、JAを運営する運営者でもあることを意味しています。

これに対して、株式会社の場合、株式会社の組織者は株主であり、会社のサービスの利用者は不特定多数のお客さんであり、運営者は株主から委託された経営者となります。

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農家が所属するJA(のサービス)に対して不満をぶつける状況にもよく出くわしますが、JAの運営者(サービスの提供側)は、協同組合の原則からいうと組合員である農家ひとり一人でもあります。

このように、JA(協同組合)は、一般的な会社における単純な会社と顧客の関係ではない少し複雑な構図となっていることを理解頂けるかと思います。

<補足>
上記の通り、JAが提供するサービスは基本的にJAに所属する組合員向けのサービスとなります。一方で、組合員ではない人もJAのサービスは利用が可能であり、そうした人たちがJAのサービスを利用することを員外利用といいます。

員外利用は農協法(JAに関するルールを定めた法律)により、その利用の割合が原則として組合員の事業利用量(金額ベース)の5分の1以内と定められています。

組合員は一人一票
協同組合は基本的に相互扶助の精神が前提にあるため、組合に所属するメンバーは全員が平等という原則があります。要するに、組合員である農家はその出資額や規模、農業への姿勢・意識に関わらず、全員が平等に扱われるということになります。

ここでいう平等とは、もう少し具体的にいうと総会(組織の運営方針などを決定する場)での議決権がどの組合員(農家)も組合への出資額や営農規模、やる気などに関係なく原則1人1票という組織の仕組みに反映されています。

株式会社の場合は、当然ですが、出資の割合によって株主(協同組合でいうところの組合員)の議決権の数が異なります。

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この相互扶助の精神や全員が平等という考え方は、組合員である農家がある程度同じ状況(生産量が同じくらいだったり営農に対する考え方が近いなど)であったり、お互い(同じ地域で)すごく仲が良いという状況であれば上手くワークします(ひと昔前まではそうした状況でした)。

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一方で、昨今のように、それぞれの農家のおかれている状況が大きく異なったり、地域での結びつきが昔ほど強くなくなってきた状況下では、相互扶助の精神にもとづく平等という前提が逆に上手くワークしない要因の一つにもなってきており、こうしたことも現在のJAの組織及び事業運営の難しさの背景にもなっているように思います。

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この辺りは現在のJAの在り方を考える上で非常に重要であり、書き出すとかなり長くなってくるのでまた後ほどしっかりと説明するとして、話を"協同組合と株式会社の違い"に戻します。

利益の考え方
株式会社の目的はシンプルにいうと利益を最大化し、株主へ還元させることです。一方で協同組合の目的はあくまでも上記で述べた通り、個々人が目的を達成する(農家でいうところのより良い営農を実現する)ために、組合員同士で共同でできるところは一緒にやろうよというものです。

そのため、協同組合、すなわちJAの目的は組織の利益の最大化ではなく、組合員である農家の利益の最大化となります。この部分を勘違いすると、JAは利益率が低いといったような指摘が協同組合という組織ではどこまで正しい指摘なのかという話にもなってきます(JAの利益率が高いということは、一方で、サービスを受ける側の農家から余分に対価をもらっていることも意味するからです)。

また、一般の人の中には、"JAは中間流通事業者で農家さんから搾取している"みたいなイメージを持っている方も多いかもしれませんが、例えば、農産物の売買(委託販売)におけるJAの手数料は地域によっても異なりますがおおむね2〜3%程度です。

100円で農産物を売った場合、JAの手数料は2、3円しかありません。また別のnoteでも詳しく説明しますが、JAは農産物の売買のために集荷場に人をおいたり、販売業務、精算業務、選果機への投資・維持(億円単位で投資が必要)など様々なコストが発生しています。

「え、利益率2、3%で組織としてどうやって収支を成り立たせているの?」この話をすると多分普通のビジネスマンであればまず出てくる疑問だと思います。

結論からいうと一部の大きな産地を除いて、経済事業(農産物流通を中心とした事業)だけを見ると多くのJAの運営が成り立っていません。。。

もちろん、後ほど説明しますが、JAは農産物の売買、資材や機械の販売などの経済事業に加えて、金融分野にカテゴライズされる信用事業、共済事業なども運営しており、経済事業だけで判断はできないのですが、少なくとも、"JAが農家さんと販売先の間で利益を貪っている"というイメージは、実態とかけ離れた誤ったイメージであると言えるかと思います。

某雑誌で定期的に"このJAが危ない"みたいな批判的な特集が組まれたりしますが、協同組合という上記の前提を踏まえると、極論、JAが赤字であっても組合員である農家がそれ以上に潤っていれば(赤字部分を出資金という形で補えば)実は協同組合の目的としては達成していることになるとも言えます。

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念の為補足しておくと、決して赤字を肯定している訳ではありません。本来は、協同組合であろうと継続的な事業やサービスの提供が重要ですので、少なくとも事業の収支はトントンであるべきだと思います(健全な事業運営を考えると不足の事態に対して、何かしら利益の積み立ては必要だと思います)。

ここでお伝えしたいこととしては、組織の利益の最大化がJAの目的ではない(あくまでも組合員である農家さんの利益の最大化が目的)ということ、JAが流通の過程で農家さんから暴利を貪っているというイメージは誤ったものであるということです。

JAの歴史

JAを理解する上で欠かせない協同組合について理解したところで、次は現在のJAが形づくられた戦後の背景に遡ってみたいと思います(細かい話をするとJAの前身となるような組織や考え方は江戸時代くらいから存在したのですが、現在のJAを考える上では一旦、戦後からの話をします)。

戦後、GHQの農地改革により地主の農地が細分化され、小作人だった人たちへ割り振られていきました。1950年頃には3,000万人以上の農家さんが存在していました(現在約170万人)

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小作人だった人たちが自分の農地を持てたのはよかったのですが、上記でも述べた通り、農業は共同でやる方が効率の良い仕事や業務がたくさんあり、農地・農家が細分化する中で、当時政府の最重要課題であった国民に対する十分な食料の安定供給が上手く進まないという問題もありました。

そこで政府は、各地域(集落)ごとに農家を組織化できるよう協同組合の設立を目指してGHQと交渉します。GHQは、政府の統制につながるような協同組合が将来的にできることを懸念しており、欧米型の自主的・自律的な協同組合にするよう指示します。

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一方で、当時の国内の状況(農家一人ひとりの営農規模が小さく、農家の人数が非常に多い状況)を考えると、農家一人ひとりの自主性・自立性が強いような組合は逆に効率的な食料の安定供給と反する可能性もありました。

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政府とGHQの交渉の末、当時は国内が深刻な食料不足に陥っていたこともあり、期間を区切って、自主・自律的な組織にしていくことを前提に協同組合の設立が認められました。

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こうして集落ごとに組合がつくられ、現在のJAの原形が形づくられいきました。

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このように集落がそのまま組合になったようなイメージのため、組合=地域コミュニティという要素が非常に強く、農家個々人の自主・自律というよりはどちらかというと逆に集団意識や協調性が強く求められるような傾向が強くなったのもこうした歴史的な背景に起因しているように思います(組合の外の人たちに対して排他的なケースが未だに多いこともこうしたところに関係しているように思います)

次回のnoteではJAの組織構造、行なっている事業についてお伝えします。

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