自分の好きな本の話:四畳半神話大系
読書の秋ということで、noteのお題にたまたま僕の大好きな本が上がっていたので、ちょっとお話したいと思います。
四畳半タイムマシンブルースが出て気付きましたが、この本が出てからもう13年も経つんですね。そりゃ年も取るわけです。
四畳半神話大系というお話
タイトルからしてもう素敵です。
本書の内容をざっとかいつまんでお話しすると、「ありとあらゆる可能性の混在した四畳半という不思議空間に囚われた”私”が、目の前にぶら下がるチャンスを掴み取って、運命の黒髪の乙女との恋を成就させるお話」とでもするのが良いでしょうか。
魑魅魍魎うずまく京都、わけても奇人変人の集う骨董的下宿であるところの下鴨幽水荘に住まう主人公のクサレ大学生「私」の歩むパラレルワールドを描く本作。各章の冒頭は晴れて京都大学に入学した「私」が如何なるサークルに所属し、如何にしてクサレていくかという書き出しから始まります。
どの選択をしたとしても、運命の黒い糸を伝って「私」の悪友となる小津との軽妙な掛け合い、理知的でクールな黒髪の乙女である工学部の後輩、明石さんとの、少しピンポケした、目の前にぶら下がるチャンスを掴みそうで掴みきれないステキな関係、下鴨幽水荘の主である正体不明の怪人、樋口師匠とそれを取り巻く謎の人間関係、そして森見氏お得意の不思議京都空間と独特の文体が、渾然一体となって四畳半的世界観を形作り我々を物語の世界に引き込んでゆくのです。
それはあたたかい泥のような、いつまでも何処までも浸っていたい幸せな空間なのです。
京都ぐるぐる案内
僕が本作品と出会ったのは大学の頃でした。あまりの「私」の充実したクサレ大学生ぶりを羨ましく思った僕は、本作品と森見氏の『京都ぐるぐる案内』を片手に京都旅行に旅立ちました。
京都自体は以前に来たことがあり、その落ち着いた和の雰囲気を好ましく思っていたのですが、本作品を読んだあとの京都は印象が一変し、おもちゃ箱の中のように感じられたのです。
下鴨神社の暗がりには猫ラーメンが出没し、京都大学の時計は逆転し、違法駐輪車を狙う謎の組織が跋扈し、自虐的代理代理戦争の嵐は吹き荒れ、古本市に黒髪の乙女は舞い、先斗町には謎の占い師が出現する。現実にある風景が下敷きとなっているため、そこから半歩踏み出した物語の世界がそこら中に顔をのぞかせているのでした。
四畳半化された京都には魅力がいっぱいです。もし本書を読んでいて、まだ京都を旅されていない方は、是非是非一度歩いてみることをオススメします。
何故、こんなに面白いのだろう?
とにかく、僕は四畳半神話大系が大好きなのです。小説は擦り切れるほど読んで、アニメは全話何周見たかわかりません。
またアニメも出来が素晴らしいのですが、語り始めるときりがないのでここでは本の話をば。
なんでこんなに好きなんだろう。
やっぱり、うだつの上がらない「私」に自分の姿を重ね、泥のようなモラトリアム生活へのノスタルジアを感じ、黒髪の乙女を追いかけているからなのでしょう。
あまりにその世界觀が魅力的なのです。
何処にもひらいていないようで、実は無限に広がっていた学生時代の私の世界。無数のパラレルワールドは収斂し、有り得べき結末に向かっていく。黒髪の乙女と結ばれる世界と、そうでない世界があって、どれを選んでも正解ではなく、どれを選んでも不正解ではない。すべての物語に波乱万丈の物語がある。それに何か、救われるような気がするのです。
「僕なりの愛」を差し伸べてくれる悪友は、得難いものだなぁとか思ったり。
結言:四畳半神話大系
今の僕の自室は、押し入れ付きの四畳半です。
実は四畳半神話大系の「私」に憧れて、所有権を主張し、使用を認めてもらったのです。自分で使ってみて思いましたが、本当に意外と広く、無限の宇宙的広がりとは言わずとも、過ごす分には全く苦になりません。うず高く本が積み上がり、押し入れの中には異世界が広がっています。
電気のヒモには、京都ぐるぐる旅の時に手に入れた、白いモチグマンがぶら下がっています。ぎゅむぎゅむすると癒やされたりします。
我々の生きている世界も、いろんな可能性やお祭り騒ぎの連続なんだなぁとか思いつつ、目の前にぶら下がるチャンスを目で追いかけてみたりするのです。
つらつらと、森見登美彦『四畳半神話大系』についての僕なりの愛を書いてみた次第です。「成就した恋ほど語るに値しないものはない」との言葉通り、四畳半の神話世界に対する恋は未だ成就せず、きっと永遠に好きで語りたくて、恋をし続けるんだろうなぁと思いつつ。
最後まで読んでいただいてありがとうございます!