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うらしま

小動物では物足りない。もっと大きなものを殺したい。

サイコパスは往々にしてそうなるものだという。
亀をいたぶっていた少年もそうだった。
たまたまその時は、通りかかった青年に止められて亀を放してやったのだが、亀だけではない、スズメやカラスも少年は殺していた。

物足りない。もっと大きな…人間を殺してみたい。

少年が村の権力者の息子だったのが悲劇の始まりだった。
浜辺の小さな村で、赤ん坊や子どもが殺されても誰も止められなかった。
少年が青年になるころには、女や老人も犠牲になった。
さすがに止めなければならないと思った親を青年は反対に殺し、
浜辺の小さなその村を恐怖で支配した。

青年は仲間を集めると、都に行って貴族の姫をさらってくるようになった。
身の回りの世話をさせ、飽きたら弄り殺す。
いつの間にか青年の人相はまるで異形のように変わり、
人々はその村をこう呼ぶようになった。

鬼ヶ浜

恐怖の支配は何十年も続いた。
ひとりの若武者が訓練された獣を三匹つれて、「鬼」になった青年を退治に来るまで。

「鬼」は死ぬとき思った。
この俺を止めた生意気な奴、あいつを殺れなかったのが心残りだ。どこに逃げやがったのだろう…。

鬼ヶ浜の村は廃村となった。
無人の廃墟だらけのその場所はやがてこう呼ばれるようになった。

うらめしヶ浜

が、少しずつ住人が移住してきた。
都の災害や疫病を逃れてきた、他に行くところのない者たちだ。
うらめしヶ浜じゃあんまりだ、と、
自分らの村をこう名付けた。

うら浜

そして、「鬼」が棲んでいたことは封印し、どこかの島のこととして語り伝えた。「鬼ヶ島」と。

それで百年。住民はすっかり入れ替わり、昔のことは忘れ去られた。

以上は、鏡に映った物語である。覗き込んで見ていたのは二人。
非常に美しい若い女と、中年の女である。
若い女が言った。

「亀よ、これがこれからの百年にあの浜の村で起こること。この悲劇から優しい青年を救いたいのです。お前は亀の姿で浜に行き、助けてくれた青年をこの竜宮城に連れて参れ。」

中年の女が答えた。

「はい、乙姫様。」

青年は百年後の浜に戻り、玉手箱を開き、老人となって死んだ。
村の者が遺体を見つけたが、誰だかさっぱりわからない。
どこぞの島から来たのだろうか?
うら浜の村に島からやってきた男、と、とりあえず名をつけて墓に葬った。

うら島太郎

と。


たまには有料記事を書きたくて値段をつけていますが、
以下はお礼程度しか書いてありません。
【ここからは有料でした】有料記事だとあきれるほど読まれないw
ので、無料にしました。

ありがとうございます!

浦島太郎の物語は、玉手箱の蓋の裏にでも書いてあったのでしょう。
「浦島太郎」を題材に詩を作れというお題で三つ書いて余ったものです。
詩の方は著作権ごと移譲しました。
亀目線・浦島太郎目線・浜辺の松目線です。
この題材は、詩より物語向きだと思ってこっちに上げました。

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