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小さなビーチサンダル

夏のアルバイトはプールの監視員。私のシフトは一番遅い時間で、夕方お客が帰ったあとのプールサイドの点検も仕事だった。

ある日、プールのまわりを歩いていたら、小さな赤いものが目についた。

「おや?」

近寄ってみると、それは、小さなビーチサンダルだった。赤いハイビスカス模様。幼い女の子のものだろうか。私はそれを拾い上げ、そのまま忘れ物として事務所に届けた。

事務所の係は初老のおじさんだ。
「ああ、これね。」と受け取った。知っているような口ぶりだった。近所の子のものなのかな?そんなことを考えながら、その日のバイトは終了した。

数日後。
「あれ?」
あのビーチサンダルが、今度はプールサイドの反対側に落ちていた。同じものだろうか?私は前の時と同じように、事務所にそれを預けて帰った。

また、数日後。
プールサイドの別の場所にそっくりなビーチサンダルが。
さすがに変だと思ったので、私は事務所のおじさんに尋ねた。

「これ、近所の子のものなんですか?しょっちゅう落ちてますけど。」
すると、おじさんは、
「さあー。知らないねぇ。」
「え?知ってるような感じだったので…」
おじさんは言った。
「ああ、毎年、落し物で届けられて、誰も取りに来ないのに、いつの間にかなくなっていて、また、落し物で届くんだよ。」
そして、めがねをはずして拭きながら
「バイトもね、気づかない人は絶対気づかない。気づく人は気づくんだねぇ。今年は、あんたなんだね。」
私は、ぞっとして思い切って聞いてみた。
「このプールで死んだ子の霊のしわざですか?」
おじさんは、まためがねをかけて、私の目を見てはっきり断言した。
「このプールができてから、事故で死んだ子なんていないよ。」
そして、ビーチサンダルをしまいながら、続けた。

「何だかわからないけどね、まぁ、拾ってやりなさい。私もこうやって受け取ってあげるから。」

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