WANGGAのソングマンColin Worumbu Fergusonとミンガ(クラップスティック)
WANGGAの代表曲バッファローソング
WANGGAダンスソングの概要については詳しく書いたコラム「WANGGA - アボリジナルの歌がどうやって生まれ、引き継がれるのか」をご覧ください。数あるWANGGAの曲の中でも最も広く知られているのがバッファローソングこと「Puliki」です。
ダーウィンの対岸にあたるMandorahビーチでは古くから観光客向けにBelyuenコミュニティの人々が歌と踊りのパフォーマンスをしていました。ビクトリア博物館のウェブサイトで1965年当時のKenbi Dancersの古い写真を見ることができます。
その一座を長年率いてきたソングマンJimmy Muluk(1925-1986)が作った曲が「Puliki」です。5枚組のCDシリーズ「Songs from the Northern Territory vol.1」の一番最後のトラックに収録されています。そのCDにはColin Worunbu Fergusonを含む4人の少年が演奏するバッファローソングも収められています(1968年)。
Colin Worumbu Ferguson - Jimmy MulukとBobby Laneの音楽的後継者
Colin Worunbu FergusonはJimmy Mulukの曲を引き継いで、BelyuenとWadeyeコミュニティの重要なソングマンになっていきます。WANGGA complete CD setsの「Muluk’s Wangga」のトラック3には少年時代のColinが歌う「Puliki」が、大人のColinが歌う「Puliki」がトラック4、トラック6にはMuluk作曲の「Tjinbarambara(カモメ)」の3曲が収録されています。
また、WorunbuはCD「Rak Badjalarr」で有名なソングマンBobby LaneことLambudju(1941-1993)の作った歌の後継者でもあります。
CD「Lambudju's Wangga」ではトラック5-6で「Rak Badjalarr」を、トラック16で「Tjendabalhatj」、トラック28「Bende Ribene」、トラック29「Limila Karrawala」をWorunbuが歌っています。
Jimmy MulukとBobby Lane Lambudjuという20世紀のBelyuenコミュニティを代表する巨頭と言っても過言でない二人の偉大なソングマン。彼らの音楽的後継者がColin Worumbu Fergusonだったことはあまり知られていません。
Colin自身は作曲はしませんでしたが、子供時代からBelyuenコミュニティで偉大なソングマンから学び、後年は彼の妻の出身地であるWadeyeコミュニティに移り、距離の離れた二つのコミュニティの多くの歌を引き継ぎました。
Colin Worumbu Fergusonの作るMinga(クラップスティック)
トップエンドで使われるクラップスティックの多くはアイアンウッドという硬い木を使って作られ、北東アーネム・ランドではBilma、南西アーネム・ランドではManberlnginjなど、言語によって様々な名前で呼ばれています。
「Minga/Mirnka」はWadeyeコミュニティで話される言語の一つMurrinh-patha語でクラップスティックを意味します(以下ミンガ)。
今回、アボリジナル文化研究者の林靖典が収集したWorunbuの作ったミンガは、どれも手の込んだ仕事とすばらしいサウンドで、このエリアで作られるクラップスティックMingaの最高峰のクオリティだと感じました。3セットのミンガはチーム・ザ・マーゴのAvalon SpiralとEarth Tubeでの販売となりました。
Earth Tubeのクラップスティック・コレクションのC-PK-1964は、1964年にWadeyeコミュニティで収集された珍しい3本セットのミンガです。左手に持つ方は薄手で平べったく、右手に持つ叩く方は全体的に直径1cmに満たないほど細く、意図的で特有な形状をしています。
このような形状は北東アーネム・ランドのクラップスティックBilmaにはあまり見られないので、少なくともDaly Riverエリア特有のカルチャーなんじゃないかなと感じます。
Worumbu作のミンガC-CWF-2401は1964年のミンガよりも洗練されていますが、両角を落とした特有な形状を踏襲しているようであり、サウンド的にも近いように感じます。
右手に持つ叩く側のクラップスティックが細いせいか、よりライトで澄んだ金属音に響き、北東アーネム・ランドのBilmaのような力強さはないものの、Kenbiの響きにフィットする音質なんじゃないかなと感じます。思いっきり叩きつけるならこのような細さはホールド感が弱いですが、ペンを持つような指揮棒を持つような感覚ならこの細さはハンドリングしやすいです。
この写真のミンガC-RN-2002は、Wadeyeコミュニティの古老Robin Nilcoによる作品です。大きい方は厚みがあって均一に平べったく、くるっと180度回転させても同じ形になるようになっていて、持ち手側を特定するような形になっていません。
振って叩く方の細い方のスティックも同様にどちらを持ち手側にしてもいいような均一な形になっていて、断面が真円に近い丸いシェイプになっています。
残り二つのペアーはこのRobin Nilcoの作ったミンガと似た印象です。どちらもキンキンした響きではなく、コンコンとしたやわらかくて暖かみのある響きで、C~Dくらいの低いピッチのMarlukで演奏されるLIRRGAと相性が良さそう。
WANGGAの唄そのものが、切なく牧歌的なサウダーヂな雰囲気とおだやかでメローなニュアンスを多分に含んでいるので、パワフルでラウドなクラップスティックよりも、上品で繊細な質感な方がフィットするのかもしれません。
Worumbuが最晩年に作った3セットのMingaを林靖典が手にし、チーム・ザ・マーゴで販売することになったことはまたとない機会であり、Worumbuの作品に触れることはWANGGAソングを愛するぼくにとってこの上ない誉れでした。
1950~1980年台に活躍したJimmy Muluk、1960~1990年台初頭に活躍したBobby Lane Lambudju、そしてそのレガシーがColin Worumbu Fergusonへと受け継がれ、最近までソングマンとして活躍していたというWANGGAの歴史の重みを感じるクラップスティックです。
こちらで紹介したミンガはAvalon SpiralとEarth Tubeのホームページで11月の初頭に販売予定です。