1993〜1994年(その3)

 夏休みには、国語を集中して勉強しようと思っていた。

 僕は、慶応以外にも、明治の政経と、上智の文学部を受けることにしていた。これらの学校は、小論文ではなく、いわゆる現代国語や古文、漢文といった科目が課される。

 和田秀樹さんの勉強法の本によると、現代国語は、ある種のセンスが必要なので、短期間に集中してやればよい、ということだった。そのとおりに、僕は夏休み期間を利用して国語の過去問をやり込んだ。

 これで分かったのは、国語は年度によって出来にばらつきがあるということだった。ただ、それでも、「底」というべきものがあった。

 たとえば、上智の文学部だったら、過去問を10年分やっても50点を切ったことはなかった。年によっては7割を超えることもあったが、本番で不出来だったことを考えると、最低の50点をベースに考えるべきだ。国語以外の科目はやればやっただけ伸ばすことができるから、そちらに力を割り振ったほうがよいと思った。この辺の戦略は、和田秀樹さんの受け売りだった。

 9月以降はいよいよ世界史に手を付けた。大好きな科目だったので、今まで勉強したくてうずうずしていた。

 やり方は、完全に和田さんの受け売りだった。その名も「教科書黒塗り勉強法」。

 どんなやり方かというと、まず教科書を2冊用意する。片方の教科書は、マジックで覚えたい言葉やフレーズを黒く塗っていき、もう1冊はきれいなままにしておく。

 こうすると、答え合わせが簡単な問題集が出来上がるわけである。しかも、写真や図表のイメージなどと一緒に覚えられるので、記憶の定着も非常によい。実際に試験本番でも、「あ、これは教科書のこの位置に書いてあったな」という風に解答できた問題がいくつもあった。

 もともと歴史が好きだったので、この勉強法をやり始めて、どんどん過去問の点数が伸びていった。

 英熟語の知識を固めるとき、「ターゲット英熟語1000」という教材を使ったが、これも「黒塗り勉強法」で暗記をしていった。

 すると、それに興味を持った同級生のA君が、同じようにターゲット英熟語を黒塗りで勉強し始めた。僕はA君と仲が良かったので、どうせなら一緒に勉強しようということになった。

 一緒に、といっても、机を並べるわけではない。日時を決めて、マクドナルドで「賭けテスト」をやることにしたのだ。ターゲット英熟語のなかからお互いに100問ずつ出題し合い、合計点数が高かったほうが、マクドナルドで好きなメニューをおごってもらえるという仕組みだ。

 こうすると、自分が覚えにくいところを集中して出題するようになるが、当然相手もそこを攻めてくる。だから、勝つためには、覚えにくいところを何度も復習してすぐに答えられるように準備することが重要になる。

 そう、相手に勝とうとすることで、自動的に自分自身の英熟語力がパワーアップすることになるわけだ。これは、非常にいい試みだったと思っている。

 最初の勝負は、86対81で僕が勝った。しかし、2回目はA君が91対89で勝利し、最終的には99対97というハイレベルな戦いに僕が勝利した。A君は結局浪人したが、「一緒に勉強したおかげで英語が得意になった」と言い、翌年一浪できちんと六大学に合格していった。

 そんなこんなで、秋が訪れ、冬が過ぎ、受験の季節になった。


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