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「おごそかな渇き」山本周五郎

「おごそかな渇き」山本周五郎著・新潮文庫1971年1月発行

江戸下町もの、人情もの書かせたら天下一品の山本周五郎の短編集である。

「紅梅月毛」は家康・秀忠父子の前での馬競べにみすぼらしい老馬に乗って出場した本多忠勝の家臣・深谷半之丞の物語。読後にさわやかさが残る小説である。

下町もの「かあちゃん」隣近所の悪口にも耐えて、入牢中の長男の友人ために更生資金を作る一家の献身物語。その一家に強盗に入った盗人までその一家に住み着く。盗人が最後に「かあちゃん」と呼ぶまで家族と一体化する。

最後の「おごそかな渇き」は今までの周五郎の小説とは全く異なる。死の直前に周五郎が何を思い考えたのか?宗教とは?人間とは何か?を問う現代小説である。死の直前に書かれた未完成の作品。その結末が気になる。完成しておれば新しい山本周五郎が生まれていただろう。

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