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「日本銀行・虚像と実像・検証25年緩和」

「日本銀行・虚像と実像・検証25年緩和」河浪武史著・日経BP2023年6月発行

著者は1972年生まれ、日経新聞入社、日銀、財務省担当、ワシントン支局特派員経て現在、金融・市場ユニット金融部長。著書に「みずほ、迷走の20年」がある。

本書は、バブル崩壊後の1998年3月、速水優日銀総裁就任、新日銀法施行から現在までの25年間、福井、白川、黒田各時代の日銀政策を検証し、米国FBRと比較しながら、日本の金融政策の有効性、日本経済低迷の原因を探る。

日銀は新日銀法での独立性の確保と政府との距離感に苦悩しながら、量的緩和を続けて来た。リーマンショックで生まれた民主党政権はポピュリズム的姿勢と官僚調整力の未熟さから第二次安倍政権を作り出した。

安倍政権は、デフレ脱却のもと、リフレ派、ベン・バーナンキ、ポール・グルーマンの批判と、黒田東彦、岩田規久男らの知的好奇心から、日本において異次元緩和、YCCの金利操作という壮大な実験を実施した。

異次元緩和は金融市場を刺激して、株価、資産価格の上昇、円安を招き、企業の円建て利益を向上させた。一方で日本の生産能力、経済成長率は上昇せず、実質賃金は低迷する。反対に緩和の長期化で金融市場の副作用は拡大し、市場機能がマヒした。

現在、世界の中央銀行は金融緩和からインフレ対策に移行している。日本のみが緩和政策を継続する。日本の金融緩和による副作用の大きさと深刻さを現している。
量的緩和の金融政策は有効だったのか?この点を検証する必要がある。緩和政策は黒田氏の特許ではない。金融緩和は速水氏以来歴代総裁は実施してきた。現実は金融政策が無力化しつつある。

グリーンスパンはその理由を人口減少、少子高齢化、地政学的リスク拡大、温暖化の異常気候にある。マイナス金利は寿命長期化の結果であると言う。
寿命長期化で5年、10年後より、30年、50年先を予想するため、人間の感情、期待に依存する金融政策が効かなくなっている。金融政策万能時代から迷走時代に変化している。ここに本書で日銀の「虚像と実像」と題した理由がある。

日本は経済成長を取り戻せるのか?いくら量的質的金融緩和しても企業は投資に向かわないのはなぜか?企業は日本市場の成長期待感を失っている。5年後成長期待率は1990年に4%あった。現在は1%程度、潜在成長率も0.5%である。

長期間の低金利、量的緩和の麻薬で企業の新陳代謝が生まれない。日本の開業率は4%、廃業率は3%、欧米先進国は両者とも8~10%ある。しかも日本の失業率は2~3%、完全雇用に近い。麻薬が無ければ、生きられない状態にある。

イールドカーブ・コントロール政策は財政ファイナンスの要素が強い。予算案は毎年130兆円超え、財政規律が緩みがちである。持続可能な財政を取り戻すことが必要である。

金融政策が効かなければ、財政政策に頼る必要がある。経済成長ために緩和マネーの活用が課題である。活用の仕方は民間活力を高め、民間の成長戦略を具体化すること。

日本経済は複合的要素で低迷が続いている。経済成長ための魔法の杖は存在しない。今の小手先の対策では、日本の潜在成長率は2050年にはマイナス0.8%まで低下するとの予想もある。残された時間は少ない。徹底した検証が必要である。


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