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Re:フリーランス辞めました

今年1月、10年程フリーランスデザイナーとして生きていた方からメールが届きました。内容は「テンプレート化された制作物の繰り返しに疲れてしまったのと、将来への不安が無くならない」という本文でした。

主にDTP制作物主体だった彼は、デジタル系ウエブデザイナーが急増することを横目でみながら一切靡(なび)くこと無く紙への拘りを保ち続けていました。

名刺、ショップカード、店舗置きフライヤー、大学パンフレットなど、代理店経由で幅広く受注し続けていたという事なのですが、本当に辞めたくなった理由は何だったか、本人に返信で聞いてみました。
(※当記事の投稿にも了解を得ています)

市内外の代理店から発注は数々あったものの、予算の関係上、定型化される制作物の作り込みに嫌気がさし、将来を悲観するようになったという文脈でした。

受注メインでクラウドサービスに登録したものの、月に2〜5万円の制作物に対して、2週間程の日数と労力を掛ける状況であったことも教えてくれました。


一瞬の「溢れるほどの受注数」

独立して5年目に、同業界で働いていた彼女と結婚し、制作物をシェアしながら愉しそうに暮らしていたと記憶しています。

「作る分野が若干違うところが良くって、分業しながらなんとか納品しています。月に10案件ほど頂いているので、納めることで精一杯です」

その弾んだ口調には生き生きとした「フリーランサー」の象徴のような、貪欲で前向きな姿勢を感じていました。


結婚を機にアクセルを踏んだつもりだった

ピタっと連絡が取れなくなったのが、結婚後3年を過ぎた頃でしょうか。私が当時お付き合いがあった制作会社に寄る機会が数多くあったので、近所に住んでいた彼をお茶に誘っていたのですが返答がなく心配していました。

「忙しいことで不通になるのは良いことだ」
と思っていたのですが、後から解ったことですが、当時は体調を崩し入院していたとのこと。

「当時は結婚もあって、張り切って仕事をしていました。ですが、私たちに求められている事が解らなくなってきたのです。提案が欲しいと言われて提出しても、あの案件は一旦保留で、という対応ばかりであったり、数年後も版を使えるように雛形だけ作って頂きたい、しかも破格で。という依頼だったり。。。」

結婚を境に、アクセル全開で思いきり遠くまで進みたいと思っていたであろう時期から、代理店の彼らへの費用面や依頼事項への依存が膨らんだということでした。

「結局、当時私たち夫婦は何を求められて、何を表現したら良いのだろうか解らなくなったんです。いまでも、スーパーに掲示してある広告でさえ見たくないです」


視界に入る「クラウドサービスで活躍する20代」

フリーランスデザイナーやエンジニア、様々なジャンルの個人事業主や法人組織へ仕事の依頼・派遣を提供するクラウドサービス。
年々そのプラットフォームが拡張されて、住んでいる場所を問わずオンラインで仕事を受注する機会が増えました。

ランキングが定番になった「フリーランサーの格付け公開」は、直接的に受注に繋がる検討素材にもなるため、精度高く安価で期待に応える登録者が、現在でも増えているようにも感じています。

そしてその地位を彼も目指していたと綴っていました。


「クラウドサービスに登録してたの?」
「はい、5つのサービスに登録してました」
「どのくらいの頻度で発注頂いたの?」
「受注は月に1つか2つ、値段は絞られましたが...」


「ただ、若いウエブデザイナーやエンジニア達の、3桁が当たり前の受注数が目に入ってしまい、紙だけしかできないジブンは、何か、何といいますか」

紙媒体に拘っていたはずの彼はクラウドサービスを横目で気にしながら、技術を磨き続けるという決意から離脱していった瞬間があったのであろうと思っています。

それは同時に、他人と自身の比較からはじまり、何らかの自己顕示欲が傷つけられたという結末に結びついたのではないでしょうか。


受けきれない情報量に溺れてしまった

私は、インターネット上で登場(滞留)するワード「独立」「副業」「フリーランス」「エンジニア」「ライター」「動画クリエーター」「翻訳家」など、クラウドサービス事業者とプラットフォームの重要性や多機能に渡る仕組みの構築については賞賛しています。

その機能とサービスの種類を深く把握しないまま、何となく仕事を受注しながら案件に振り回され、本来志していた未来像を見失ってしまいがちになることが問題です。

「対面での打合せは営業的なニュアンスもあったので、ジブンの人柄や個性を理解して頂いた時期がありました。コロナが始まってからメールでのやり取りなどがメインになり、直接的なPRが出来なくなって時間の経過と共に自信がなくなってきました。唯一、妻が支えてくれたのが救いです」


Re:フリーランス辞めました

「今後はどうやって暮らしていくの?」
「実家がある帯広に夫婦で引っ越します。環境や人間付き合いを変えてみたいです。何かを目指すことは辞めて、暫く距離を置いていた登山や写真を撮りながら休みます」


メールのやり取りの最後にこう書いてありました。

「法人化はしない、クリエーターという肩書きにも到達しない。
一体、僕らはどこに向かっているんだろう」


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彼らの数年間の葛藤は、私には計り知れない内容であったと思います。
大きな波で「同じことの繰り返し」は常識的に発生しうる事なので、マンネリ化した環境に嫌気がさすこともあるでしょう。

とくにフリーランスという生き方の形式上、その組織力ではなく、個人の能力が高ければ彼/彼女に案件が集中することは確かです。

更に業界が熟してきたからこそ分業化がすすみ、以前のようにワンストップで納品/現金化することが出来なくなりました。


クラウドサービスにぶら下がりながら生き抜くスタイルも、私個人的にはブームの一端であると思っています。大切なのは、本来支えられてきた技術や感性を磨きながら、タイミングよく世間へ表現してゆくことだと思います。

今日明日、達観するまで極めることができる人はいません。
諦めることもプロの技で、突き抜くこともプロの技でありたいですね。

私が提供できる全てを道具として「人・環境・家族」をサポートしています。 Twitter: https://twitter.com/bakuosawa Instagram: https://www.instagram.com/my_memography/