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【イベントレポ】元コンサルタントが農園を創業!日本の農業と災害対策のリアルについて語る

2020年2月18日、SHIBUYA+Barにて、未来を変えるべくアクションを起こしている人とのトークイベント「未来を変える人と出会うBar #2」を開催しました。今回のゲストは、大阪出身の元コンサルタントで、現在は千葉県で「農園」を運営しているという異色の経歴をもつ磨家(まや)さん。農業の課題や災害時の話についてトークしました。

初めの一言(小林慎和)

「起業とは、ITスタートアップだけを言うのではない。
自分自身、IT業界にその身を置き、とかく資金調達の額や、どれほどのスケールで社会を変革するかと言うことばかりに目が行きがちだった。

そして起業して8年、磨家さんの起業話を初めて知ったのは2017年だった。

阪大を出て、ITコンサル出身者が農業で起業?!
しかも自身は、実家が農家でもなく、社会人になるまで、ほぼ「農業」というものに何も接点がなかった男が農業で起業?
人間にとって、食べることはその存在の根源となる。
そこでの起業。
いったいどのような困難が待ち構えているのか、想像すら出来ない。
私の起業家人生で出会ってきた挑戦者の中でも、随一のハードシングスを超えてきた、幾度も死線を超えてきた、そんな人だと思います。

ぜひ、以下対談をお楽しみください」

▼当日のLIVE配信動画はこちら

登壇者プロフィール

磨家 浩之(まや ひろゆき)氏
大阪市中央区道頓堀出身。大阪大学工学部応用物理学専攻へ進学。
大学卒業後に東京でシステム会社、コンサルティング会社に合計8年間勤務。システムインフラ、IT業務改善の仕事に携わり、中国や世界各地の拠点間のシステム連携の業務を担当。その間に稲作体験イベントに参加し、現在の居住地である千葉県山武市を訪れ、現地の食べ物の美味しさに感激。またそこで後の師匠と妻に出会う。

後継者を探していた師匠に誘われ野菜と米の生産農家を目指すことを決意。会社を辞めた後はすぐに師匠のところへ行かず、自分なりのオリジナリティを創りたいと考え、農業経済を学ぶ目的と、かねてより体験してみたかった外国生活を実現する目的で、フランス国立農業研究所に留学。

農産物の中間流通を省く取り組みと、付加価値を生む取り組みを研究する。現地でのさまざまな農家との出会いは、農業を生業とすることと、農業という地場産業を通じて地域で移住者が暮らすことの意義を学ぶ機会になった。

2010年に帰国して師匠の下で農業研修を開始、2012年「めりめろ園」を設立し、現在に至る。

小林 慎和(こばやし のりたか)
大阪大学大学院卒。現在は、株式会社bajji ファウンダー&代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学 准教授

これまでに国内外で7社起業しているシリアルアントレプレナー。野村総合研究所で9年間経営コンサルタントとして従事、その間に世界17カ国での事業立ち上げを経験。

2016年6月日本に帰国し株式会社LastRootsを創業。日本初となるICOを実行。同社はIBM Blue Hub賞を受賞。2019年4月に上場企業の子会社化し、同社代表取締役を退任。同月、人と人の信頼関係を可視化するSNSをブロックチェーンで実現するべく株式会社bajjiを創業。

主な著書に「海外に飛び出す前に知っておきたかったこと」、「リーダーになる前に知っておきたかったこと」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。


磨家さんのちょっと変わった経歴とは?

小林:私のまわりには色々な経歴を持っている人がいるのですが、コンサルタントから農業へ変わった人は一人しかいないんですよ。だから、わからないことばかりなので、今日は色々と質問させてください。それでは、本題に入る前に、まずは磨家さんのことを教えてください。ご出身はどちらですか?

磨家:大阪のミナミです。

小林:実は、私たち同じ大学なんですよね。でも、学部も違うから、ほぼ話したことはないんです。社会人になってからも、友人としての交流はなかったのですが。
最初の職業は何だったのですか?

磨家:いわゆるIT屋さんですね、開発側の。2社目は運用をしていました。それがコンサル屋さんでした。

小林:ITの開発をして、コンサルをして、トータルで何年くらいですか?

磨家:8年ですね。

小林:その後、農業へ行ったと。そのきっかけは何だったのですか?

磨家:会社員のときに稲作体験に参加したのです。そこで出会ったお年寄りの方と仲良くなって、お酒を飲んでいるときに「一緒に(農業を)やらないか?」と誘われました(笑)

小林:稲作体験ということは、苗を植えたり刈ったりするんですよね?

磨家:そうです。そのときは月に1回くらいの頻度で通っていました。毎回一緒にお酒を飲んで、お誘いいただいて、「じゃあ、やりましょうか」と。

小林:初めて稲作体験に行ったのはいつですか?

磨家:けっこう長い間通いました。その空間が好きでしたし、人と会うのも楽しかったんですよね。

小林:農業をやる手前にフランスの大学院に行っていますよね?

磨家:そうですね。農業をやると決めてから。何も知らなすぎたので、自分の得意分野を作っておかないとと思って。実はフランスじゃなくてもどこでもよかったのですが、願書を出して、たまたまいいお返事をいただけたので、フランスにしました。そこは農業研究所で、フランス語圏内の南北問題とか、農業生産の向上だとか、環境保全とか、そういうことを研究している所ですね。
また偶然に、フランスの研究所のある町が、知り合いが商売でやっているワインの仕入れ先だったんです。だから、ワインもテーマのひとつにして、研究しました。

小林:なるほど。ちなみに、フランスにはどの位いたんですか?

磨家:1年半です。

小林:1年半後に帰ってきて、師匠の元で農業を始めたと思うのですが、肥料のこととか土の耕し方とか、全部教えてもらえたんですか?

磨家:そうですね。朝から夜まで、師匠にくっついてまわってましたね。

小林:師匠は、どうしてそんなに手取り足取り教えてくれたんですかね?

磨家:うーん、まぁ楽しいと言ってくださってましたね。
表向きには後継者作りという目的もあったと思いますが、結局は楽しかったんでしょうね。そして、お互いにそれを気に入った。今でも、お世話になっていますし、いまだに迷惑かけっぱなしです。

磨家さんの現在

小林:社会に出てから10年目にして農業をはじめたんですよね。でも、実家が農業をしていたわけでもないし、千葉が地元というわけでもない。しかも、元々IT屋さん。これだけ聞くと、その先には困難しかないんじゃないかと思うのですが…。

磨家:その通りです(笑)

小林:私は色々な会社のスタートアップに関わっているので、普通の会社ならどうするのかだいたい想像がつきますが、農業の場合はわかりません。まずどう進めていくのですか?

磨家:普通の会社とそんなに変わりません。資金を用意して、土地借りて、道具を揃えて、売り先を見つけて。

小林:売り先というのはスーパーに直接ってことですか?それとも卸売業者を挟んでですか?

磨家:一言でいえば「色んなところ」ですね。あと、自分がITに明るいので農業をはじめたというのもあるんです。新チャネルの開拓はもちろん、既存のチャネルも網羅できるのではないかと思っていました。そこから、自分に合うところを探して…というのを、今でもやっています。

小林:なるほど。ところで農業は、はじめるときに補助金がもらえるそうですね。

磨家:当時はありましたね。今はずいぶん減ってるらしいですが。

小林:農業の補助金って、どういう内容なのですか?

磨家:単純に、農業をはじめたらもらえるんですよ。…と簡単に言ったら語弊があるかもしれませんが、ちゃんと計画を立てます。何年後にはどのくらいの収入があって、地域の担い手の一人として自立できるのかというような計画表を作って、それを承認してもらうんです。

小林:なるほど。国は農業従事者を増やしたかったんですね。ちなみに、額はどのくらいなのですか?

磨家:1年間150万円です。それを5年間もらえました。融資ではなく、もらえるんです。

小林:そうなんですか!今はどうなんでしょうか?

磨家:今は審査が厳しくなっているそうですよ。だから、農業をはじめたときに、運よくそういう制度に乗れたのは大きかったでしょうね。設備投資の融資も、同じように計画表を作り、承認を受け、融資を受けられました。

小林:最初に揃えないといけない機械はどのようなものがありますか?

磨家:まずは、荷物運ぶ用の軽トラですよね。よく言いますが、「クワ一本から」です(笑)

小林:畑を耕す車も買わないといけないんですか?それとも、大体は借りるものなんですか?

磨家:農家さんはみんな買ってますね。うちにも2~3台ありますよ。

小林:借りてる農地はどのくらいの広さなんですか?

磨家:約3ヘクタールですね。東京ドーム0.6~0.7個分とか。借りてる面積でいうと大きい方だと思います。

小林:奥さんとお二人で、東京ドーム1個分くらいの広さの畑を全部使えるものなんですか?

磨家:使えてないですね(笑)空いてる場所もあります。師匠にも「借りすぎ」って言われています(笑)ちょうどいいタイミングで、大きい畑が1枚借りられたんですよ。今は、それをどう使いこなすかというのに挑戦中です。

小林:なるほど。畑を貸しますという情報はwebにないですし、巡りあわせのようなものですかね。

磨家:そうですね。でも今は「農地中間管理機構」というのがあり、そこが管理してますよ。Webでどこまでの情報が見られるのかは知らないのですが。

増え続ける千葉県内での脱サラ農業従事者

小林:サラリーマンを辞めて、本格的に農業をはじめる方って、磨家さんの地域にはけっこういるんですか?

磨家:うちの方は多いですね。聞いた話によると、千葉県北部地域で100人以上はいるらしいですよ。もしかしたら、もっといるかもしれない。けっこう前に聞いた話なので。

小林:そうなんですね。それを聞くと、日本の未来が明るく思えますね。もともと農業をしているわけじゃなかった100人もの農家がいるなんて、すごいですよ。そういう人たちを集めて、野菜を売るポータルサイトとかあれば面白そうですね。

磨家:色んな人がいるので、すでにそういうチャネルを作ってる人もいるかもしれませんね。ただ、農業って流通コストが発生すると、うまくいかないんですよね。作った人が作った分をきちんと納められるようになればいいのですが、注文に応じて、とか、遠隔地になると、コストがかかっちゃいますよね。

小林:なるほど。磨家さんが今一番注力しているチャネルはどこですか?

磨家:系統販売ですね。いわゆる「市場に出す」っていうやつですね。ちなみに今作っているのは、お米とにんじん、レタスに葉物野菜、キャベツ、じゃがいも、夏野菜の準備もしてます。

小林:最初から作る種類を決めてたんですか?それとも徐々に増えていったんですか?

磨家:徐々に増えていった方ですね。

小林:作るのに、「難しい」「簡単」はありますか?

磨家:ありますよ。時間がかからないものは簡単って言いますね。葉物は、葉っぱができたらそれで終わりです。葉っぱができたうえに根を育てなきゃいけないもの、葉っぱができたうえで木が成長して実がなるものもあるんで、葉っぱだけでいいものは簡単ですよね。
その変わり、高い値段はあまり付かないし、たくさんの量を作らないといけないので、作業が膨大になるんです。みなさん、色んな条件を見て、作る作物を選んでいると思います。

小林:なるほど。せっかくなので、磨家さんの所で作っているにんじんジュースを飲んでみましょう。いわゆる天然100%っていうやつですか?

磨家:ほぼほぼ、そうですね。保存のためにレモンとかも入っていますが。

小林:おいしい!これは、健康にもよさそうですね。

磨家:繊維とカロテンは間違いなく入っています。僕は毎日飲んでるわけではないですが、友人が遊びに来たときなどに出してますね。今はネット販売をしていて、そこで1本約1,000円くらいで、6本セットで販売しています。ぜひ「めりめろ園 にんじんジュース」で検索してみてください。

農業の大変さと値段の関係

小林:最近だと去年の台風が大変だったと思うのですが、災害以外の苦労や失敗にはどんなことがあるんですか?

磨家:育ちすぎっていうのはありますね。

小林:育ちすぎ!?それは何ですか?

磨家:今がちょうどその時期なのですが、気温が高いと作物が一気に育ってしまって、出荷前にドーンとできてしまうと、作業は追いつかないし、出荷しても値段は付かないしということが起こります。白菜つぶしたり大根つぶしたり、ってテレビで聞きますよね、まさにアレです。

小林:そっちの方の問題なのですね。てっきり、害虫や猪など野生の動物の話題が出るかと思っていました。

磨家:害虫は、初期だとやられてしまいますが、色々試行錯誤したり、まわりの人に聞いたりして、対策ができるんです。

小林:そうか、天気や気温は対策のしようがない、と!

磨家:おっしゃる通りです(笑)

小林:例えば、白菜も、旬と違うタイミングに出すと値段が違ってくるんですか?

磨家:市場の値段の付け方を説明するのは難しいのですが、単純に市場原理じゃない所があって、10%足りないという場合は値段が高騰するんですよ。反対に、10%多いとなると、値段が暴落しちゃうんです。

小林:そうなんですね。誰が値段を決めているんですか?

磨家:さぁ…誰なんでしょうかね?

小林:大阪出身なので、よくお好み焼きを食べるのですが。それに使うキャベツ1玉が高いときと安いときがあって、「なんでやろ?」って思ったことがけっこうあるんですよね。

磨家:キャベツの旬は冬で、夏はとれないですよね。なので、暑い時期は高くなることはあります。また、供給過剰とか、数が足らないとかも影響します。

小林:全国でフェアトレードシステムとか取り入れた方がいいかもしれませんね。10%とかのちょっとの違いで値段が変わるなんて、経済のロジックに反してますもんね。

磨家:そうですよね。でも、その辺はよくわからないんですよね。詳しい人に教わりたいくらいです(笑)今は、それを回避するために契約栽培とか、自分で値段を付けて直売所とかで安定定期に売ったりとか、そういうことをみんなやってるわけなんです。

小林:そうなんですね。ちなみに、このジュースに使うにんじんを作るのは簡単な方なんですか?

磨家:うちの方では、標準くらいですかね。

小林:にんじんも出荷時期によって、値段が変わるんですか?

磨家:実は、にんじんは何カ月も貯蔵がきくので、割と安定しています。北海道の産地でとれないときは値段が上がりますね。

小林:では、タイミングを見定めながら出してるんですか?

磨家:いえ、そこは見定めようがないです(笑)

小林:あと、もう1つ気になっていたんですが、ちょっと形がイビツなだけで値段が下がるんですよね?

磨家:それは売り先によりますね。スーパーと直接契約している場合は、多少イビツなのが入っていても許されると思います。でも、契約内容によっては一切受け付けない場合もあります。

小林:そうなんですね。イビツな野菜を「わけあり野菜」ってまとめたりするのは?

磨家:それだけのより集めにすると値段が付かなくなりますね。

小林:そうなんですね。味が一緒ならイビツでも全然いいと思うんですけどね。

ITで新しいチャネルを作る

磨家:我々のような新参者は隙間産業で宅配をやったりとか、直売所に持って行ったりとかしています。

小林:販売チャネルの所で、ITを活用する余地がすごくありそうですよね。フェアトレード、フェアプライスに関してもそうですし。さっきおっしゃっていた、白菜やキャベツを壊してしまう理由、もう1回お聞きしていいですか?

磨家:置いてても売り物にならなくなるし、旬の前に収穫すると人件費もかかるし、それを販売したとしてもあまりお金にならない、っていうのですね。

小林:それは、突然起こるんですか?

磨家:そうですね。みんな計画的に種を植えることからはじめているので。

小林:では、エアビーとかウーバー的に、取りに来てくれたら自由にあげるよ、とか、やるのはどうですか?

磨家:そういうことをしてる所もありますね。うちはやってないですが。

小林:もうすでにやっているんですね。「格安プライスの収穫体験」みたいにして、オンデマンドでリアルな収穫体験を安く体験してもらうとか、どうでしょう。

磨家:それをITの応用でできたら、素晴らしいですよね。理屈的にもできますし、勝手に来て、勝手に収穫してもらう。

小林:ですよね。野菜を壊す理由は、農家の人たちがそのちょっとの作業をすることが色々もったいないからってことですもんね。

磨家:いわゆる無人レジの応用ってことですもんね。

小林:そうですね。そこにPayPayのQRコードとか貼っておけばいいのでは。日本人だったら、無人でも、PayPayのQRコードが貼ってあったらやりそうです。無人の野菜直売所も成立してますもんね。

磨家:最近は無人の野菜直売所にもQRコードが貼ってある所がありますね。

小林:そうなんですね。潰される野菜、もったいないですよ。作っている野菜も廃棄され、レストランなどでも食べ残しで廃棄され、もったいないですし、ビジネスチャンスも感じます。

まとめますと、10年間やっていて一番難しいと思ったのは、気温が予想外に上がったり下がったりしてしまうことだと。収穫タイミングや収穫スケジュールが、自分のコントロールできない所で変わってしまうということですね?

磨家:まさに、その通りですね。うちが今にんじん作りに集中しているのも、出荷時期がコントロールできるからですし。

小林:では、コントロールしにくい野菜は何がありますか?

磨家:今は、やっぱり葉物ですね。あと大根も。旬の時期には大きくならなくて、それをすぎると「老化」と言うんですけど、生育する中でいい時期をすぎた状態でやっと大きくなるんです。そうなると、味もおいしくないし、食べられなくなるんですよね。

小林:全部、無農薬で作ってるんですか?

磨家:いいえ、一昨年から「慣行農法」といって、無農薬じゃない畑も広げています。

小林:こだわりの作り方はあるんですか?

磨家:土作りですかね。最初に教わったということもあり、自分でも勉強しながらやってます。

小林:有機農法とか、土作りがどんなものかがあまりわからず、ぜひ教えてください。

磨家:普通の農業の土作りも素晴らしいのですが、取捨選択していって、できることだけを自分たちの土作りに生かすんです。当然、土作りをしていく中で、もっといい方法が見つかってくるのですが。うちは、「野菜が健康に育つ」ということを前提に有機農法をやっているんで、野菜が健康に育つ環境(土)を作るっていうことですよね。

小林:なるほど、深いですね。

災害時には発電機がほしい

小林: 2019年の台風が来たときは、どんなことが起こったんですか?

磨家:うちの地域では杉の生産が多いんですね。鎌倉時代くらいから、船を作る木材として使われていて、特産品でもあるんです。それが、戦後の高度成長期に高値で売れたことで、どんどん植えていたんですね。そして、気づいたら杉が病気になっていました。そのことは、100年くらい前から知っていたんですが、色々な事情で木を切りだせなくて、病気がどんどん広まっていきました。

病気になった木は、じきに腐って倒れてしまうんですが、そのタイミングで台風が来たんです。だから、たくさんの杉の木がバキバキに折れて、それが色んな所に飛び散りました。道路に倒れたり、電線を切ったりして、本当にすごいことになったんです。うちの畑にも、木が元あった場所から30メートルくらい離れた所に梢が刺さってました。

そして、うちは10日くらい停電しました。その後復旧しましたが、最後の方だったので、大被害を受けました。

小林:色々な支援の仕方があると思うんですが、そういう災害にあったときに、届けてほしいものって何ですか?

磨家:うーん…。特にないですね。農家って基本的にスタンドアローンなこともあり、電気がないというのが一番困ることで、それ意外ってあんまりないんですよね。

小林:なるほど。では、倒れた木をどけるのを手伝う人手は?

磨家:うーん。それも、最重要な場所はまわりの救助でなんとかすることができましたね。木って地主さんが植えたもので、基本的には私有財産だから、本来は僕らが勝手にどうこうできるものじゃないんですよね。

小林:では、飛んできた杉の木は、持ち主ができるだけ早く取りに来るもんなんですね。

磨家:本来であればね。でも、そういうわけにはいかないので、結局は自分たちで片付けたって感じですね。だから、あったら助かったものって言ったら…発電機ですね。うちの地域にも、あるはあるんですが、順番待ちだったんで。

小林:電気がないとトラクターが動かないとか、そういうことですか?

磨家:トラクターはエンジンなんで、スタンドアローンですね。うちの場合は冷蔵庫です。その中ににんじんを入れているので。

小林:そうか、貯蔵している冷蔵庫に電気がいるんですね。時期を見極めて出荷してたのに、それができなくなるのは、まさに大打撃ですよね。

磨家:そうなんですよ。在庫のにんじんがダメになりました。そこには、種も一部貯蔵していて、10日間は35度の蒸し風呂みたいな所に置いておかないといけない。その辺りのダメージは大きかったですね。

小林:例えば、氷が支援されたら回避できるものなんですか?

磨家:できないでしょうね。

小林:そうか…。あと、9月で暑かったからですよね。これが冬だったら、まだマシだったかもしれないですけど。電気・水道・ガスで言うと、電気が一番困るかもしれないですね。

現役の高いスキルを見える化して後世に伝えたい

小林:最後に、用意してもらった事業アイデアを聞かせてもらってもいいですか?

磨家:実は僕、うちの集落の消防団の役員をやっていたのですが。災害が起きたとき、倒木の片付けを近所の人に手伝ってもらって、みんなでやるんですが、そこにいた年配の方々全員が機械を使いこなせるんですよ。みんな、まだ現役で機械に乗れるし、チェーンソーなんかも操作できるし、高い場所にも登れるような人たちなんですね。その人たちが、あと5~10年で引退したときに、同じような災害があったらどうしよう、と。

小林:ちなみに、その人たちは何歳くらいなんですか?

磨家:70代80代ですね。

小林:引退は何歳くらいでするものなんですか?

磨家:体が動かなくなってきたらですね。だから、亡くなる前日まで仕事をする人もいますね。そんな人たちの子供の世代はどうなのかって言うと、これがなかなか厄介で(苦笑)。

父親は、機械化の第一世代なんですよ。その人たちにしたら、それまでの手作業が格段に効率よくできるから、機械の使い方を進んで覚えるわけです。そうすると、子供世代は「親がやってくれるからいいや」って思って、なかなか覚えないんですよね(笑)

後継者がいたとしても、その人がゼロから色々覚えて、何かあったときに活動できるかって言ったら、ちょっと大変そうだなと思うんですよね。
それで、親世代の高いスキルをプールしておくことはできないのかなって考えたんです。

例えば、仕事の中で木を切ることは滅多になくて、草刈りとか藪刈りが多いんですよ。だから、普段しない仕事ができる会社を作って、子供世代の人たちにスキルを磨いてもらえる場を用意できたらなと考えているんです。

小林:なるほど。今、現役で働いている70代80代の方々の高いスキルを見える化して、レクチャーすると。教えるのは、その人たちですか?

磨家:その人たちもだし、僕みたいなサラリーマン経験者はマニュアル化することを知っているから、きちんとマニュアル化して教育プログラムを作ったりできるなと。安全性を確保するっていうことも、マニュアル化の大事な要素ですからね。

小林:農業で起業してうまく行く一連のスキルセットというのを学べるような感じでしょうか。学びたい人とシニアの人をつなげる、ある種マッチングするような事業をしたいということですか?

磨家:目的は、「みんなで安心して地域で暮らす」ことだから、職業は何でもいいんです。「移住者」って、まわりの人から色々と期待されちゃうんですよね。「何かの力にならないかな?」って。何か困ったことが起こったときに、「やりますよ」って言えれば、その人たちは戦力になるんです。そういうのが、移住者に求められるようになってくるんじゃないかなって思うんですよね。

小林:それは、農業エリアの人にとって必要なスキルってことですか?それとも、災害対策のスキル?

磨家:災害対策もそうですが、今住んでいる場所には、会社員もいれば、農業をやっている人もいたりして、色々な職業の人がいるんですよ。災害が起こって、みんなで助け合いましょうとなったときに、動ける人と動けない人に分かれてしまうのですが、そこで動ける人を増やしたいんですよね。

僕は農業やるために今の町に来たけど、色々な縁があって伐採の仕事や土建屋とかもしています。でも、普通の人は、これと決めたひとつのことしかやらないわけですよね。

小林:なるほど。僕では思いつかない考えでしたね。そこにITは入ってないんですか?

磨家:ITはベースにあるものとして考えてます。それがないと成り立たないでしょうしね。

移住者として、いろんな関わり方で住んでいる地域を守りたい

小林:最後に、何か伝えておきたいことはありますか?

磨家:農家の人たちって、後継者はいるけど高齢の方が現役だから、子供たちはそれについていっているというだけのケースが多いんですよね。

小林:家康と秀忠ですね。

磨家:本当にそんな感じですね。ある日、親が亡くなったら息子はそれを継承するのかと言ったら?統計データには乗っていませんが、たぶん廃業しますよね。すると潜在的に、農業を廃業する人はたくさんいるわけです。そうしたら、農業者減少問題はもっと加速すると思いますし、移住してやって来ている僕たちのような者がやることは増えてくると思います。

小林:じゃあ、担い手を増やさないとダメですね。

磨家:農家の担い手を増やす必要があるかどうかはわからないのですが、色んな関わり方で、住んでいる地域を守っていきたいんです。

なおかつ、ゆるやかに自然を元に戻していって、防災の機能を持つようにさせるのが理想だと思うんです。その辺りのノウハウを持っているのが、今の高齢の方たちなんですよね。現役の人たちの知恵を早く見える化したいんです。だから、週に1回、一緒に飲んでるんですよ(笑)昔の話をアレコレ聞きながら。

小林:完璧な口頭伝承ですね(笑)それは、本当に早く見える化しないとですね。
今日は、本当に色々と勉強になりました。ありがとうございました。

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