なろうテンプレ形成過程
ランキングの推移から読み解く、作風面でのなろう史学概説。
4年くらい前に書いたやつのブラッシュアップ的なもの。
召喚 / 迷い込み / トリップ
小説家になろう=異世界モノの場、という構図がいつごろ形成されたか? と問うならば、その転機は2008年であった。
当時のなろうは評価ポイントのシステムを平均点方式から加点方式へ改定、これによって「より多くの支持を集めた作品」が明示され、皆がそれを読みに行く、という流れが生まれたわけである。
本稿で扱う「なろうテンプレ」とは、人気作品が出現→作風面のフォロワー達が登場→流行を形成、という拡大再生産の構造であり、そのサイクルが回りだした。
そして2008年後半期の人気を不動のものとした作品が「異界の魔術士」であった。
これがどんな内容かというと、少女を主人公とした「異世界迷い込み」であり、あらすじに曰く「この物語は絶対安心を軸とした最強モノであり、安全が保障された冒険を読むような作品」というものであった。
作者のヘロー天気氏はその後も異世界モノを執筆、2010年代初頭のなろうにおいて特に大きな影響を与えた存在と言っていいだろう。
たとえば『Re:ゼロから始める異世界生活』の作者や、『Re:Monster』の作者など、インタビューの中で「異界の魔術士」の名を挙げており、機会があれば是非触れてみてほしい。
ここまでが「よく分からないがいつの間にか異世界にいた」というテンプレに関してであり、当然ながら理由が明確にされている作品群も存在する。
2009年4-6月期評価において台頭、その後なろうはリニューアルを実施し、現在まで連続するシステムへと移行するのだが、その時言わば「最初の累計1位」へと至った作品が「黒い剣の異世界譚」であった。
この作品が使用していたギミックが「召喚」、特に「勇者召喚」と呼べるものであり、異世界が置かれた状況、一般人に対する力の付与、作品が目指す方向性などを、明示することが出来るテンプレであると言えよう。
また作中に「冒険者ギルド」も登場しており、このシステムのなろう内への導入、有力テンプレとして普及していく上で果たした役割は大きかったと思われる。
2009年から2010年、そして2011年夏頃までもがそうなのだが、その頃のなろうでとにかく強かったのは、召喚・迷い込み・トリップ等といった言葉で表される(実際は単に「飛ばされた」等も多いのだが)、異世界転移系のテンプレであった。
特に当時のなろうでは日間などといった、短期間の評価を測るランキングが存在しておらず、「総合評価の高い順」上位が参照され続けることによって、このジャンルへの傾斜が大きく助長されていたのだろう。
ランキングの設置
なろう投稿作品の作風面において、最も大きな変化を遂げたタイミングとして、「ランキング」の設置を触れないわけにはいかない。
2010年末から順次機能を拡張、日間・週間・月間・四半期と、より短い期間内で人気を得た作品を読みに行く、というシステムが確立されたわけである。
2011年を通じて異世界転移系のテンプレが支配的だった状況は徐々に変化を遂げ、それまであまり見かけなかった要素が、一気に花開いていくこととなる。
そういうわけで以下では、異世界転移系テンプレの変化として導入が進んだ「MMO」、主人公が活動する場としての「迷宮」ないし「ダンジョン」、そしてその後最大の有力ジャンルへと成長する「転生」について、その導入過程を検討していきたい。
そこには前世代のweb小説の中心、一次創作二次創作問わず多くのテンプレ揺籃の地となったArcadiaというサイトの存在、そしてその解体からなろうへと合流していく過程が色濃く感じられる。
MMO / VRMMO
MMOとは「大規模・多人数・同時参加型」を表す語であり、PC及びインターネットの普及を通じて展開、2000年代において人気のあったゲームジャンルである。
小説としての有名作を挙げるとすれば、なんと言っても『ソードアート・オンライン』であり、web発小説の金字塔とも言える存在だ。
この人気がなろうにも波及して……というのなら話は簡単なのだが、実際のなろうにおいて展開したのは、異世界転移系のテンプレにMMO要素が結合というのが主であり、純粋なMMOモノは従、というねじれた構造であった。
何故このようなことになったのか? それに関してはArcadiaで連載されていたとある人気作品、それがもたらした影響が大きかったと考えられる。
前提として2000年代末頃、MMOモノと呼称される作品群は、Arcadiaにおける有力ジャンルの一角を占めていた。
まぁ色々と並んだわけではあるが、基本的にこのジャンルは「ゲーム内のプレイヤー達」を主題とし、その関係性を通じて物語を紡いでいくものかと思う。
そしてその前提を覆したのが「オーバーロード」であった。
プレイヤー間の友好・緊張・対立といった要素を破棄、MMOという枠組みから抜け出し、主題を「主人公勢力と異世界の対峙」へ、という構造転換を起こしたのがこの作品だったと言えよう。
話をなろうへと戻す。
このシステムを引き継ぐような形で、なろうにおいて「ゲームの力を持って異世界へ」というテンプレを普及させたのは「リアデイルの大地にて」であった。
投稿から1年も経たないうちに一気に累計2位まで駆け上がっていき、同時に異世界モノ全体が、とにかく「ゲーム的な要素」を持つ作品へと塗り替えられていく。
Q . 何故普通の人だったはずの主人公が活躍できるのか?
A . ゲームで使っていた力があるから。
テンプレとして、単に「そういうもの」として流されるようになるまでの過渡期においては、こうした理由付けが求められたということなのかもしれない。
迷宮 / ダンジョン
2000年代初頭の有名作としては「迷宮神話」(後の『ハイスクールハックアンドスラッシュ』作者)が著名な作品として挙げられようか。
何かしらゲームをプレイすれば触れたこともあるだろう、ファンタジー作品を描く上で便利に用いられる場であり、2000年代末のArcadiaにおいても人気のジャンルとなっていた。
そんな状況を背景に生まれた作品が「シーカー」であり、Arcadiaでの掲載は早々に切り上げてなろうに投稿、ここにおいて迷宮という要素はなろうランキング上位へと躍り出た。
この作品に関しては作風のみならず、なろう投稿から半年と経たず、当時としては異常な早さで書籍化が決定となり、なろう作者達のアルファポリス登録という面でも多大な影響を与えたものと思われる。
そして2011年を通じて徐々に頭角を表していき、翌年07月には累計1位へと至った作品が「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」である。
特徴を挙げるとすれば「レベル」「ステータス」「スキル」「ポイント」「鑑定」といった要素を前面に押し出し、作中のあらゆる場面で頻繁に利用していった点だ。
VRMMO + 転移の場合、多くが「異世界でもゲームの力を使えた」に留まったのに対し、こちらは「ゲーム的法則が支配する異世界」の導入を、最も強力に推し進めた一作と言えよう。
またタイトルの「ハーレム」は以前より多数見られたものだが、「奴隷」に関してはこの作品を契機として、大々的に導入されていった。
累計1位時期で挙げれば「盾の勇者」「ニトロワ」「デスマ」など特に転移系、現地に基盤を持たない主人公に対して、ヒロインないし人間関係を融通するためのテンプレ、と言えようか。
転生
「転生」に関してはどうにも流行をもたらした重要作品、なんてものを設定できそうにない。
一応現在のような形で転生が流行し始めた時期はかなり明瞭であり、2008年後半期のArcadiaが起点、と言っていいだろう。
主導していたのは二次創作であり、「ネギま」「なのは」であれば魔法的才能の獲得や、主要なキャラ達が余りにも低年齢であったこと、「ゼロ魔」であれば貴族という身分。
「召喚」やら転移系テンプレの場合、これらを解決するのは不可能であり、それらの条件を越えて特定の立場に、原作知識持ちオリ主を捩じ込むための便利な手段として、この頃に爆発的な普及を遂げたと言えようか。
導入としての「トラック」や「神様転生」、幼少期からの魔法鍛錬による最強化、魔法学校への入学、このあたりは二次創作を通じて培われたテンプレという傾向が色濃い。
ただ貴族ないし領主層の生まれ、商売や技術チートなど「内政」に取り組む、というあたりに関しては、この頃流行した歴史モノの影響も大きかったと思われる。
なろうにおける展開を見ていくと、2010年時点だとほぼ二次創作側に偏った形で流入、一次創作に導入こそされつつも、有力なテンプレと言えるような存在では無かった。
ここにある「リセット」は、2010年11月に転生モノとして最初に書籍化した作品と言えるのだが、同時に余りにも早い時期でのweb掲載削除でもあり、普及の起点になったという感じはしない。
ある程度確実なのは、ランキング導入=2011年に入ると前年比で3倍と、一気に伸びたということ。
2011年後半期に一気に累計2位まで駆け上がっていった「俺が異世界で獣とランペイジ」を除けば、VRMMO絡みのテンプレから1枚落ちる感じではあったのだが、ランキング上位で常に何かしら転生モノが載るようになり、有力なテンプレとして定着を果たしたと言えよう。
転生モノはなろうにおいてなんとなく数を増やしていった、というのが正直な感覚なのだが、それでもあえて象徴的な作品を設定するとなれば、それは「無職転生 - 異世界行ったら本気だす -」を待つ他にない。
作者自身はアルファポリス系web書籍化を通じて転生モノの存在を、web小説からの書籍化という可能性を認知、2012年末になってなろうへと参入してきた層である。
だが11月に連載を開始し、翌2013年10月には累計1位へ至り、以後5年超の長きに渡ってなろう全作品の中でトップの地位を占めた。
そしてそれは丁度、なろうに最も有力な作者集団が流入していった時期に直撃する。
おそらくはKADOKAWAがweb書籍化に全面参入したこと、それは既存有力ルートであった文庫ライトノベル新人賞の価値暴落を意味するものであり、見切りをつけた作者達が本命をなろうへと移していった、そういう動きではないかと思う。
そんな中にあって「無職転生」は絶対的首位として君臨し続け、転生を最も有力なテンプレへと押し上げたし、なろうというサイトそのものにとっての象徴的一作となったと認識している。
勇者召喚
2013年頃から顕著となるのが、2010年以来の「勇者召喚」再展開であった。
一方でそれまで最有力のテンプレだった「VRMMO」、ゲームの力を持って異世界へという要素は、ランキングという場から急速に後退していく。
「召喚」儀式を通じて異世界側の法則が適応される、自動的に力が与えられる、という認識の共有が出来上がってしまえば、ゲームという要素は不要、むしろ自由度が下がって負担でしかない、というものなのかもしれない。
特にこの時期の勇者召喚は複数人を対象としたものが多く、そこから派生したものか「ありふれた職業で世界最強」以降、「クラス転移」と呼べるような大規模召喚も有力なテンプレとなっていく。
乙女ゲーム / 悪役令嬢
2013年頃のなろうというのは、「リアデイル」以降だと累計40位台まで女性主人公が見当たらない、圧倒的な男性比率優位にあった。
なのでまぁ正直なところ、当時の女性向け的な界隈というのは、よく分からない面も大きい。
「ゲーム + 転生」という構造が波及したものか、「乙女ゲーム」に関しては2013年から書籍化が数例出ている。
「悪役令嬢」に関しても書籍化したのは同様なのだが、こちらは流行という風でもなく「悪役令嬢後宮物語」のみが単独でランキング上位に顔を出している、というような感じであった。
そんな状況を大きく変えたのが、「謙虚、堅実をモットーに生きております!」であったのだろう。
乙女ゲームでは無く少女マンガ、悪役令嬢では無く悪役お嬢様と、微妙にズレてはいるのだが、男主人公の異世界ファンタジーが周り全てを埋め尽くす中において、2014年08月から3年超にわたって累計2位に在り続けたことから、その影響性は計り知れない所がある。
何はともあれ2014年を通じて「乙女ゲーム」と「悪役令嬢」は完全に結合、恋愛ジャンルにおける強力なテンプレとして定着を見せた。
また非転生系での利用が多いものとして、「婚約破棄」タグに関しては2015年後半頃から継続的にランキングに顔を出すようになっていく。
「異世界転生/転移」のランキング除外
2016年05月24日に実施されたのが「ジャンル再編」であり、それまでの「総合ランキング」に代わり、「ジャンル別ランキング」がランキングトップへ移動。
また必須タグ「異世界転生」「異世界転移」が設置され、このタグを持つ作品はランキングから除外されることとなった。
有力テンプレだった「異世界転移」が大きく後退していく一方、漫画「転スラ」の成功や、「陰の実力者」「ヘルモード」など新しい人気作品の登場もあってか、「異世界転生」側は比較的数字を維持。
以下ではこの環境変化を埋めるように展開した、各種テンプレ要素についてを見ていきたい。
迷宮 / ダンジョン
転生
ランキング除外から1年程度までは、余り目新しい感じは無い。
それまでも人気だったテンプレを流用しつつ、現代日本人を送り込んでいたのを、現地人にやらせるようになったという傾向。
VRゲーム
ジャンル再編によって「VRゲーム」というカテゴリが設置。
2012年前後ほどの存在感は無いものの、異世界転生/転移が排除される中にあって相対的に浮上した存在と言える。
追放
勇者召喚系の変形と見れなくもないか。
2018年頃から顕著に流行、ランキング除外後のなろうハイファンタジーにおいて最も有力なテンプレとなった。
現実世界〔恋愛〕
なろう史上このカテゴリで年間ランキング10位内に付けたのは、後にも先にも「お隣の天使様」1作のみ。(「謙虚」の頃は区分が違うので)
この作品を境として現実世界〔恋愛〕の日間総合ランキング入りが増加したほどに、多くの読者を引き込んだこと疑いなく、特定の単独作品が主導する形でジャンルそのもののパイを押し広げたという稀有な例。
2020年以降
「なろうテンプレ」の根幹にあったはずの、ランキングというシステムそのものが破綻。
2020年03月「評価フォームの機能改修」以後、「短編」及びごく短期の「完結済」作品は異常膨張を遂げた。
長編作者のなろう脱出は顕著なものとなっており、「連載中」作品投稿数は2022年夏以降、カクヨム優位という状況にある。
毎期大量のアニメ化作品を抱えつつも、PV面では最盛期比7割程度まで減少、今後もしばらく大手ではあり続けるだろうものの、最早なろうのみをランキング分析した所で、何かを語れる時代では無いのだろう。
制度史
書籍化考
年表
二次創作