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【猫暮らし記】またな、コロ沢

コロ沢が逝ってしまった。

ニンゲンの仕事がようやくひと段落つき、全国の熱烈なコロ沢(通称“コロちゃん”)ファンへ向けてノートでも書こうかと、あれこれネタを準備している矢先、あっという間に死んでしまった。

私がコンビニへ行っている間に。15分前まではしっかり息をしていたひとつの命が、15分後にはもうこの世界から消えていた。

コンビニから帰宅してホスピス(私の書斎)へ戻り、その事実に気づいたとき、コロ沢の周りに置かれたいくつかのものたち──腎臓ケア用の点滴セット、猫トイレ、ペットシーツの袋など──も、与えられた役割を突然に失ってしまい、なんだか戸惑っているように見えた。

すぐさま、休日出勤から戻ったリビングの家人に伝える。大学時代、その活気のなさから“死にかけ”の異名を取っていた家人が、今まで聞いたことのないようなトーンで驚きの声を上げた。当たり前だよな。私だって驚いたもの。

そりゃないよ、コロ沢。君のために奮発して買った、例のドーム型トイレの話の続きだって、まだノートに書いていないのに。結局のところ、あれをちゃんと使ってくれたのは、設置して最初の数日だけだった。ドーム内の通路を歩いて砂場まで行くのがだんだん億劫になってきた君は、日に日にドームの入口に近い場所でトイレをするようになり、外に染み出したおしっこがフローリングを傷めつけるもんで、ニンゲン的にちょいとショックを受けたんだぜ。

おれ、思ったよ。納税と猫のおしっこだけは、誰にも止められないんだなって。

ドーム型トイレで失敗してからはもう、ふつうの猫トイレはあきらめて、段差のない犬用のトイレを設置し、そこにペットシーツを敷くというスタイルを取った。ちなみにコロ沢には猫砂のにおいをしばらく嗅いだのち、その場で用を足すという妙な習性があるため、トイレの隅には清めの塩みたいに猫砂が盛ってある。

このシステムもトイレが少し小ぶりなせいか、コロ沢が猫砂のにおいを嗅いでいるときに、お尻が外にはみ出してしまい、さらにフローリングを傷めつける結果となった。おれもう、途方に暮れたよね。猫との知恵比べに負けたと思ったよ。

最近では犬用トイレの前にさらに犬用の大きなトイレマットを敷いて、これがようやく意図したとおり機能し始めていたところだったのに。

そういったことを、もっともっと文字にして残しておきたかったんだけどな。こうやって後から振り返るんじゃなく、そのときに感じた言葉がみずみずしいうちにさ。

とはいえ、ここ数週間のコロ沢は元々婆さんではあったけれど、明らかにやつれが見え、食もめっきり細くなって、私の膝に乗ってくると鳥の羽みたいに重さを感じなかった。間もなくだろうとは思っていた。だから覚悟はしていたけれど、ここまで唐突な幕切れは予想していなかったよ。

コロ沢はファンの多い猫だった。つい先日も、家人の運営するラブコという保護猫会社(コロ沢の元拠点)で“コロ沢フェア”が開催され、コロ沢をモデルにしたグッズの数々が飛ぶように売れたそうだ。

ラブコは非営利法人なので、こうした売上は猫たちにのみ還元される。つまりコロ沢はホスピスで人生最期の時間を過ごしながら、後輩の猫たちの暮らしをも支えていたのである。

そんなことできる猫、なかなかいないぜ。

これまで多くの猫たちを看取ってきたせいか、悲しい、という感情は正直あまりない。ひとつの映画が終わったときのような空虚を感じているだけで。見慣れた命がひとつ減った空間を、今また生きているだけで。

またな、コロ沢。楽しかったよ。

しばらくは床のフローリングの黒ずみを見るたび、君のことを思い出しそうだ。

これもう猫めっちゃ喜びます!