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コロさん日記(1)〜私はコロさん〜

私の書斎にまた、猫の客がやって来た。

名前をコロさんという。ふだんはコロちゃんと呼ばれているらしいが、私としては十六年という、人間だったら八十歳に相当する長い歳月を生き抜いてきた彼女に敬意を表して、コロさんと呼びたい。

コロさんは最近、ちょっと調子がよくない。

こうやって私の書斎で病気の療養をする猫は、別にコロさんが初めてではない。家人が猫の保護活動をやっていて(ラブコという。コロさんの詳細はこちらを読まれたし)、そのオフィスからそういった猫たちが、どういうわけか私の書斎に送り込まれてくるのだ。

まあ、私はフリーランスでほとんど家にこもって仕事をしているから、ラブコ的には何かと都合のよい要件が揃っているのだろう。

コロさんは元々あれこれ持病があったそうだが、加えて急に食が細くなってしまった。ここ数日は何も食べていない。かかりつけの獣医さんにも診てもらったが、原因はよくわからないらしい。とにかく食べない。大好きなチュールも。そのため、このまま食が戻らなければ、徐々に衰弱して死んでしまう公算が高いということだった。

とはいえ、人間に換算したら八十歳の立派な婆ちゃんである。いわゆる老衰で、単純に身体中にがたが来ていて、天寿をまっとうする順番が回ってきただけなのかもしれない。

そうなふうに聞いていたコロさんだけれど、私の書斎で過ごしている姿からは、とても死へのカウントダウンが始まっているようには思えない。心配された食欲も戻ってきて、ちょっとご飯も口にした。私が仕事をしていると、「なーお」と鳴いて膝に飛び乗ってくる。はっきり言ってタイピングがしづらいのだが、婆ちゃんなのであまり動かないのが幸いだ。しばらくすると膝の上で、穏やかな寝息を立てている。

ほんとうに死期が近いのかね、君は。実際は天寿をまっとうする気なんてさらさらなく、まだまだ生きる意欲に溢れているんじゃないかい?

そう訊いても、コロさんは形容しがたい愛嬌のある顔をじっと向けてきて、「なーお」とひとつ鳴くだけなのである。(第二話へ

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