落日飛車「Soft Storm」 Bandcampのアルバム紹介テキスト和訳

2020年10月30日にリリースされたSunset Rollercoaster 落日飛車の最新3rdフルアルバム「Soft Storm」は、今のところデジタルのみで配信中だ。(2020年10月31日現在)

Bandcampのアルバム配信ページ内の解説英文テキストの拙訳を掲載する。かなりアクロバティックな意訳も多く含むので、あくまで参考程度にシェアしたい。興味のある方はぜひ原文にあたってもらいたいと思う。

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落日飛車の3rd full album「Soft Storm」は大胆でありつつも、内省的かつファンキーな一作だ。

R&Bの中でも特にソフトでメロウな“Quiet Storm”と呼ばれるジャンルがあるが、このタイトルはそれに対する控えめなオマージュであり、本作の方向性をよく表している:ソフトロック風のクールで小気味よいグルーヴ、ある種のエレクトロソウルとしての風変わりな魅力、東アジアのペンタトニックスケールを用いたキーボードの煌めくウォールオブサウンドによって巧みに強度を増していく、音楽の物語なのだ。

このアルバムは暴風雨が都市を襲うその過程をおおよそ辿っており、その進路の行く先に捕らわれた都市に住む人々の物語へと連なっていく。賢明なリスナーの中にはバンドの本拠地である台北が頻繁に台風被害に見舞われることとの関連性を見出す人もいるだろうが、この物語の舞台は特に限定されておらず、そのテーマも広範である:地平線に雲が立ち込め、一瞬のうちに激烈な勢いで雷鳴と光が炸裂し、そののち、台風一過の妙に不気味な穏やかさが訪れる―それはまるで、ボーカル・ギタリストの國國がごく自然に呼応させる、ロマンスのあらゆる局面のようである―盲目的な情熱、激情の高まり、充足、葛藤、そしてほろ苦い追憶。

都市の中をビルからビルへと飛び回るように、これまで彼らが取り入れていたよりも外の世界に向けた叙情的なアプローチをとっており、さらに自覚的で物憂げな雰囲気さえある。

;とある曲の主人公は「過剰な愛」である。(訳注”Overlove”)

;また別の場所では、「愛は必ず壊れる」―必然的に別れる可能性が高い。(訳注”Love was bound to break”)

;そして、停電が恋人たちを「キャンドルライト」(韓国のバンドHYUKOHのボーカルOHHYUKをフィーチャーしている)のきらめきの中に閉じ込めたとしても、二人が分かち合う束の間の幸福は「ろうそくの火を吹き消すかのように」儚く失われることを彼らは知っている。(訳注”all snuffed out like those candlelights”)

現在の世界情勢、そしてそれに影響を受けたアルバムの制作環境を考えると、アルバム全編に不穏なムードが漂っていることも不思議ではない。数年にわたった長いツアーの後、2020年の初めに國國は新鮮なアプローチを求めてロサンジェルスに渡った。そこで彼はソングライティングにおける新たなパートナーたちと試行錯誤を重ね、ウェストコーストサウンドのレジェンドであるネッド・ドヒニーの手ほどきのもとレコーディングを行った。コロナウイルスの蔓延のため台湾に急遽帰国することになった時、國國は両手いっぱいのデモを持ち帰ることとなった。彼はいつものバンドメンバーを再度呼び寄せ、それらのデモを一枚のアルバムへと昇華させた。そのアルバムは未知への第一歩であり、かつ懐かしくもある作品となった。

「Soft Storm」は近年の彼らの作品と比べてよりエレクトロな音でありながら、かつ有機的である点で興味深い。歯切れのよい電子ドラムとシンセベースの土台に沿ってうねるピアノの旋律と、複雑なフィンガーピッキングで網を張り巡らせるような、あるいは疼くソロを炸裂させるクリーンな音色のギターが特徴的である。

例えるならばネッド・ドヒニーや後期YMOもしくは高橋幸宏氏のソロワークのように、贅沢でゆったりとしたムードの中にほんの少しだけ厭世的な雰囲気を湛えている―國國は周囲の世界を観察しながら、ほとんど飽き飽きしているロマンチックな役目を演じている。若い恋人たちに向かってしたり顔で微笑む彼だが、実はあなたが思うより多くの失恋を経験している。「Soft Storm」の中では、風と雨が街を吹き抜けていくとしても、そこにはわずかな優しさが見いだされるのだ。

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文中のロサンジェルスでの共同作業パートナーとは、恐らく、Paul CherryとMichael Seyerを指している。また本作はレイモンド・カーヴァ―、カズオ・イシグロそしてガルシア・マルケスの小説からも影響を受けているそうだ。

署名がないので誰がどの立場から書いた文章なのかちょっと分からないのだが、なかなか興味深い内容である。






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