スピノザの『エチカ』を読むと起こること
『エチカ』という書は私(読み手)が論証の中で、一切の否定なしに自らのうちに開かれた〈力能〉を全肯定する装置のようなものである。
〈神あるいは自然〉に満ち足りている〈力能〉の産出的な必然的活動として私自身の存在を含めたこの世界が今、ありありと実在していて、その有・実在性は一切の否定を含まない絶対的な肯定によって充足されている。
私という個別的存在について、その精神は観念(肯定性)そのものであり、身体はその観念対象である。そして、コナトゥスという生物的秩序に従い、自らの活動の抗力を高めようとする本性が備わっている。したがって、私の活力の増大を促すものについて能動的になり、減少を促すものについて受動的になる。このように個別的存在者たちは自然的な(因果)法則に従って互いに影響を及ぼし合っていて、諸々の感情の作用因もそのような相互作用から説明がなされる。
「永遠の相のもとに」自らの〈力能〉を理解することは本書の到達点になっている。それは様態=「他のものにおいてあり、かつ他のものによって考えられるようなもの」における関係構造として自らの個別的コナトゥスを理解することではなく、むしろそれを実現している実体=「それ自身においてあり、かつそれ自身で考えられるもの」の〈力能〉の活動現場として〈神あるいは自然〉の産出的自己展開を把握し、自らの存在がその〈力能〉のうちに展開されていることを実感するということである。そこでは無条件的に「存在する」ということが全肯定され、且つ「存在する」ということがこの上なくエネルギーに満ち溢れた動的なものとして理解されるはずである。
参考文献
・上野修(2024)『スピノザ考—人間ならざる思考へ』青土社
・上野修、鈴木泉編(2022)『スピノザ全集第Ⅲ巻 エチカ』岩波書店
・秋保亘(2019)『スピノザ—力の存在論と生の哲学』法政大学出版局