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音声ガイドモニターとして係わった映画『サバカン SABAKAN』

8月19日公開の映画『サバカン SABAKAN』の音声ガイドモニターの一人として関わらせていただきました。とても素敵な作品だったこと、最近知り合って私と親しくしてくれているドラマ・映画好きの見える方々に音声ガイドを知ってもらいたくて書きました。作品のネタバレ無しで紹介しています。

作品紹介

1986年の長崎。夫婦喧嘩は多いが愛情深い両親と弟と暮らす久田は、斉藤由貴とキン肉マン消しゴムが大好きな小学5年生。そんな久田は、家が貧しくクラスメートから避けられている竹本と、ひょんなことから“イルカを見るため”にブーメラン島を目指すことに。海で溺れかけ、ヤンキーに絡まれ、散々な目に遭う。この冒険をきっかけに二人の 友情が深まる中、別れを予感させる悲しい事件が起こってしまう・・・。



(映画公式サイトより)

音声ガイドとは

映像で話が進む部分を言葉で説明しているのが「音声ガイド」です。
たとえば、BGMをバックに景色が移り変わっていくシーンでは、見える景色の移り変わりを言葉で描写します。視覚情報がない状態で映画を観ていると、「BGMが鳴っているだけのシーン」でも、音声ガイドが入ることで「生きたシーン」になります。景色以外にも「見えないと気が付かない物」も言葉で描写されます。例えば、今回の作品では、壁に貼られているポスターが映るシーンがあります。言葉での説明がないと、そこに「ポスターが貼られていること」にも気がつきません。ポスターの存在に気がつくことによって、見える人と同じ条件で作品を楽しむことができます。音声ガイドは映画が始まるとスマホのアプリから聞こえてきます。

音声ガイドモニターとは

音声ガイドモニターは視覚障害の当事者が行います。見える人が書いた原稿を聞いて、言葉から映像がイメージしにくいシーンを伝えます。複数の視覚障害当事者がモニターし、検討会には作品関係者も参加します。作品に合わせて読み上げられる音声ガイドを聞きながら、気になったところはイアホンでスマホの音声を聞いてメモを書いていきます。メモを書くスタイルはそれぞれです。私はiPhoneでメモをしていますが、点字で書く人、大きな文字で手書きする方もいると思います。きれいな海、田舎の風景、家族団らんのシーン。台詞と台詞の間にすっと言葉で映像が補えているか、そうでない場合はどんな風に説明してもらいたいかを考えながら作品を追っていきます。モニターが複数いれば、引っかかる部分もそれぞれです。見事に同じシーンで同じ表現が引っかかることもあれば、私とは全く違う視点での意見があり面白いなと思うところです。私は昔から台詞や音だけでドラマや映画を見てきました。役名と役者名の声を憶え、台詞に集中しながら、音に注目して見るのが当たり前でした。話の筋は分かっていたし、十分楽しめていました。でも、音声ガイドを初めて利用したときにこんなにも映像で話が進んでいるのかと驚いたことを今でもよく憶えています。音声ガイドモニターとしてたくさんの作品に関わらせてもらいながら、自然と身についている「音だけで作品を見る」方法がモニターとして役立っているなと感じています。これまでの感覚に音声ガイドという「言葉での映像」が加わって深く作品を楽しめるようになりました。

私が感じた作品の魅力

この作品は、少年二人の夏の冒険を中心に話が進みます。声に子供っぽさとハスキーな部分が入り混じっている久田。久田よりは少し低めの声ながらも、まだまだ子供らしい声の竹本。声と同じように心も子供から大人へと移り変わっていく様子が、二人の会話から伝わってきました。また、豊かな自然が作品の魅力を引き立てていました。二人が冒険する山道を走る自転車の音、波の音を聞きながら話す海辺の場面など、大切なシーンに豊かな自然の風景と音が彩られていました。主人公二人の心の繋がり、それぞれの立場で見守る大人たちも魅力的でした。

モニターを終えての感想

「長崎に、二人が冒険したこの場所に行ってみたくなりました」

私が監督に伝えた感想です。それを聞いて、監督はとても喜んでくださいました。駅のホーム、海、自然豊かな山、夕日が沈む街並み。主人公二人にとっての大切な場所が、音声ガイドでしっかりイメージできたから持てた感想です。音声ガイドがなければ「景色」は全盲の私には知ることができません。尾野真千子さんのファンだと伝えると、撮影の裏話を教えてもらいました。ご主人役の竹原ピストルさんや子供たちとのシーン。どこかの家庭を覗いているような気持ちになったことも、監督に直接伝えることができました。

嬉しかった監督からの言葉

私ともう一人のモニターさんのやり取りや、音声ガイド執筆者とのやりとりを聞きながら、監督がすごく感動してくださったのが印象的でした。何度も

「こんな風に映画を見てるんですね」
「こうやって言葉で伝えれば景色も伝わるんですね」

と言ってくださっていました。見えなくても映画が楽しめること、作り手の方に届けられてよかったです。

これから作品をご覧になる方へ

二人の少年に感情移入したり、母親の視点で子供たちを応援したりと心が忙しく動いた作品でした。時代背景も作品を楽しむ一つになりました。
主人公二人を繋ぐ「鯖缶」。ぜひ劇場で楽しんでください。音声ガイドはアプリUDCastで聞く事ができます。

※この記事は関係者の承諾をいただき掲載しています。
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