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2020年ピルロユーヴェ分析

コロナ禍で変則的なシーズンとなった2020年も残り数日、今回は2020年ピルロユーヴェの分析記事を書いていこうと思います。

各ポジションの役割、各選手のプレーについては年始辺りに書く予定です。

シーズン前のピルロユーヴェの考察記事、来期の展望はこちら https://note.com/azurijeho/n/nf2df5c35dcab

就任当初から志向するサッカーは変わらず、後はどれだけ成熟、完成させられるか。

レナートバルディの「モダンサッカーの教科書」の分析フレームワークを使っていきます。

HV=3バックの両脇の選手、HS=大外と中央に挟まれたレーン

ネガトラ:ネガティブトランジション(攻撃→守備の切り替え)

ポジトラ:ポジティブトランジション(守備→攻撃の切り替え)

自分の中での11人を配置しています。

ビルドアップー中盤空洞化の意図

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ユベントスのビルドアップの形は3バック+アンカー

ダニーロ、ボヌッチ、デリフト、ベンタンクール(アルトゥール)の4枚で組み立てる。ラビオ、クアドラード以外の選手は組み立てに関わらず、中盤の良い位置でボールを受けようとする。

ビルドアップの狙いは二つ。一つ目はボールを回しながら前進する二つ目は相手を引き付けて前後分断を狙う

両HVの選手は前線へのフィード、ボールを運ぶ能力が求められている、HVからWBへボールを渡してサイドを起点にビルドアップを行う。

3バックの中央のボヌッチは自慢のロングフィードが武器の選手。

ボヌッチの武器を活かすためにアンカーは相手を引き付けるプレー、アルトゥールのようにペナルティエリアの前でボールを持って、相手のプレッシング部隊を引き付ける。

相手の前線の選手が引き付けられて守備陣との間にスペースができる、そのスペースを下がってきたモラタがボヌッチからのフィードを受けて攻撃のスイッチが入る。

後ろの4,5枚と前の5枚で分断された陣形を作っているので、FWのプレスを交わして中盤でボールを回さず一気に2ライン間にボールを送りこむ。

相手の最終ラインの手前、裏のスペースが生じるので中央のモラタやロナウド、マッケニー達がポスト、裏抜けを狙う。収まらなかった場合も5レーンを埋めているのでセカンドボールを拾える確率が高い。これが中盤空洞化の狙い。

自陣4、5枚で組み立てて相手を引き付け、中盤を飛ばしてハーフライン付近で起点を作りそこからゴールを狙う。

しかし大きなリスクを伴う形でもある、中盤を飛ばして前線に供給する間で引っかかったり、ゴール前のミスからカウンターを食らう危険性もある。

基本3バックとアンカーで組み立てるが左IHのラビオが下がってくる形もあった、この時は3+2枚で組み立てる。

ビルドアップの出口となったのは右WBのクアドラードとモラタ。

クアドラードは自分で展開、剥がすことができるピルロユーヴェに欠かせない存在、迷ったらクアドラードに渡す場面がよく見れた。

最前線のモラタの調子で試合が左右された、中央でボールが収まればいい展開で攻撃が出来たので後半戦も期待。

ポジショナルな攻撃ーポジショナルプレー×ロナウド

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ピルロユーヴェのゴール前での崩しはどれだけロナウドにいい形で得点させられるか

ポジショナルな攻撃の布陣は変則的な3-2-5、後の3枚とアンカーは変わらず左IHのラビオはロナウドの動きに合わせてプレーをする。

左:キエーザ 左HS:ラビオ 中央:モラタ 右HS:マッケニー 右:クアドラード、ロナウドは自由にレーンを移動し周りの選手が合わせる。

ユベントスは大外から攻撃を組み立て、ここから個人技、クロス、HS攻略を狙っていく。

右サイドの攻めはクアドラードとマッケニーのコンビで崩す。

右サイドのクアドラードは大外で幅を取り高精度のクロスを送る、クロスに対してモラタとロナウドが合わせる得点パターンの一つ。今年もモラタークアドラード間のホットラインに期待が高まる。

マッケニーは右HSでプレーし相手CB-SB間を狙う飛び出しを見せる。

相手が大外のクアドラードを警戒した場合はHSが空き、マッケニーを警戒した場合はクアドラードが空き高精度のクロスを供給する。

左サイドの攻めはロナウド、キエーザ、ラビオの3人で構成される。

大外のキエーザは利き足と異なる左サイドに配置されている。右サイドにボールを集めて相手の守備陣を寄せ、サイドチェンジで大外で張っているキエーザに渡し仕掛けやすい状況を作り出す。

ラビオは3-2-5の中盤2枚の一人。基本はベンタンクールと共に試合を組み立てるが、ロナウドが流れるのに合わせて左HSに飛び出し攻撃に迫力をもたらす。

チームの王様であるロナウドは自由に動いてフィニッシュに絡む、左右のクロスに合わせた得点パターンと中央のモラタとの連携からゴールを決める。

ロナウドはサイドに開いたらラビオが飛び出す、ロナウドが中央に入るとキエーザのカットイン、モラタがサイドに流れる動きを見せる。

中央のモラタはクロスターゲット、攻撃の起点として得点、アシスト両方でチームに貢献する。

14-15、15-16在籍時に得意な裏抜けやクロスに合わせるプレーに加えて、攻撃の起点となるポストプレー、スルーパスやクロスなど万能型FWとして帰ってきた。

加入前はロナウドと似たタイプなので共存は厳しいかと思われていたが、実際はベンゼマのようなタイプの選手になっていた。

モラタがいない時はディバラがロナウドとコンビを組むが、ディバラはボールに触れてリズムを作っていくタイプの選手。右HSで縦パスを受け反転から仕掛け、シュート、サイドチェンジが持ち味。

ディバラが下がってくる形は序盤はディバラの独断のように感じられたが、ここ最近はデザインされているように思われる。ディバラが空けるスペースに飛び出すのはマッケニーとラムジーの二人、ディバラを使う時には前線に飛び出せるこの2枚が両IHを担う。

ロナウドとディバラの併用に関しては中央でポストプレーでできる選手が必須となる、ロナウドとディバラという歪みを整えられる選手が現れるのか・・・

プレッシングーアッレグリを彷彿させるマンマークプレッシング

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ユベントスのプレッシングの形は攻撃的プレッシング。最終ラインのパス回しがスイッチになる。相手を狙ったところに制限して追い込み中盤、守備陣でボールを奪い取る狙いをもっている。

プレッシングの陣形は可変4-4-2。2トップは両CBのパスコースを制限する動き、両SHは相手中盤とSBの間に位置する、サイドに追い込むような守備を見せる。

組み立てに参加するために下がってくる選手には中盤が飛び出して対応、相手のビルドアップで数的有利を作らせない。アッレグリ時代にピアニッチがよく飛び出していた形。

アッレグリ時代を思い出させるマンマークプレッシングで空いた選手にはCBが飛び出して対応、この時対人型のデリフトがボールを奪いに行き、カバー型のボヌッチは飛び出さない傾向。

前線からパスコースを制限してプレッシングをかけ、焦った相手に蹴らせてこぼれ球を拾う狙い。

今季のユベントスは前線からのハイプレスからショートカウンターを狙うサッカー、ベンタンクールやマッケニーが重用されている理由。このハイプレスとリスクマネージメントを両立させられるか。

組織的守備ー4-4-1-ロナウド

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ゴール前の組織的守備は可変4-4ブロック。右IHは右SHにスライドし右WBは一列下がりSBに入る、左WBはSHに入り左HVが左SBにスライドする。

可変4-4ブロックに関しては形は違うが、前監督のサッリ時代から引き継がれている。しかし決定的な違いが一つある。

それは前線の選手の守備参加、サッリ時代には4-4-0-2と揶揄されるように2トップが下がってこないので、4-4ブロックとの間のスペースを自由に使われ後ろの選手が釣りだされた。

しかしピルロユーヴェではロナウドの相棒の選手が一列下がり4-4-1-1のように振る舞う、相手の中盤の底の選手を見ることで後ろの強度が保証され、ボールの奪いどころが分からなくなる事態にならなくなった。

両SHの選手はHSをカバーする役割が求められているのでフィジカルに優れたマッケニーが起用された、両SHがHSをカバーするので自然と中盤2枚の守備範囲が広くなってしまう。

中盤2枚は守備強度と身体能力を求められる、ベンタンクールとラビオがコンビを組むのは納得の人選。アルトゥールは守備でのポジショニングミスなど不安が残る。

CLアウェイバルサ戦では両SHがHSを封鎖、中央を2枚+モラタでカバーしクリーンシートで試合を終わらせた。

ネガティブトランジションーベンタンクールの強さと弱み

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ユベントスのネガトラはチャンスであり、ピンチでもある。ボールを奪われた瞬間周りの選手がプレスをかけて即時奪取を狙うが、ここで奪いきれなかったときにカウンターを許してしまう。

ネガトラ時のリスクマネージメントに関しては、攻撃時の可変3バックで対応する。一番危険な中央、左右のHSをあらかじめ埋め、被カウンターが失点に直結する状況を避けたい狙い。

ここでカウンターを止める担当はベンタンクールだが彼の強さは「前に強いところ」彼が飛び出してボールを奪いカウンターを防ぐ局面もよく見れるが、交わされて広大なスペースを相手に与えてしまう欠点もある。

前に強いが相手を遅らせるプレーなどが苦手なのと、よくイエローカードを貰ってしまうのも気になるところ。まだ若いのでこれからどう育てていくか楽しみ。

ハイプレス、ポジショナルプレーという組み合わせでカウンターに弱いのは想定内だと思うが、CBの個人守備、身体能力で解決する方法もある。対人型のデリフト、デミラルなどはこの場面で輝けるが、ボヌッチなどカバー型は対応に苦しんでいる。

よく見られる尻プリ守備もカウンター対応の時が多い。これに関しては10年前から変わっていらず癖か知らないが、好きな選手なので直してほしい。

ポジティブトランジションー迷ったらモラタかクアドラード

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ユベントスのポジトラは奪った後にまず見るのはモラタ、自分で走れてシュートまで持っていけて、ポストで時間を作ることもできる。モラタがここでキープしてくれる試合は良い流れで進んでいる傾向が高い。

オフサイドになることも多いが去年にはないカウンターという武器が増えた。

ポジトラからカウンターを狙う時に重要となるのはキエーザ、ベルナルデスキなどWB兼SHの選手達、一人で長い距離を走れてゴール前まで運べる貴重な存在。

逆にポゼッションをする場合はクアドラードに任せることが多い、サイドという比較的プレッシャーが緩い場所で足元に優れたクアドラードに試合を落ち着かせる。

エピローグ

書こう書こうと思っていたら1月3日、修正版は1月6日になってしまいました。ポジション論に関してもおこたんさんに後れを取ってしまって、新年は頑張りたいと思います。

これからミラン、インテル、ナポリ戦が続く勝負の一月、サンドロやクアドラードがコロナ陽性になりましたがチームが一体となって戦っていきたい。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

参考文献

(1)結城康平、欧州サッカーの新解釈。ポジショナルフットボールのプレーのすべて(2019)

(2)schumpeter、footballista 2020年9月号「目指すのはポジショナルプレー。論文から読み解くピルロのサッカー観。

(3)レナートバルディ、モダンサッカーの教科書(2018)

(4)footballista2016年4月号「戦術パラダイムシフト」





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