抗不安薬について(メンタルステータスイグザミネーションより引用)
・概要
抗不安薬とは病的な不安や緊張、焦燥感を軽減させる薬理作用を持つ薬を抗不安薬といいます。
非常に汎用性が高く、各薬剤の適応が非常に幅広くさまざまな疾患う亜症状に対して処方されています。
・抗不安薬の適応
神経症における不安・緊張・抑うつ
うつ病における不安・緊張
心身症(胃・十二指腸潰瘍などの消化器疾患、高血圧などの循環器疾患、自律神経失調症、更年期障害、腰痛症、頸肩腕症候群)におけるめまい・肩こり・食欲不振といった身体症候・不安・緊張・抑うつ・胃疲労性・睡眠障害
頚椎症・腰痛症・筋収縮性頭痛における不安・緊張・抑うつおよび筋緊張
統合失調症における睡眠障害
アルコール依存症の離脱症状
強迫
恐怖
術前の不安除去
など
・抗不安薬の作用
抗不安薬の作用はおよそ8つに分けられています。
①抗コンフリクト作用(抗不安作用)
抗不安薬の強さはこの抗コンフリクト作用の強さで決められています。
コンフリクトとは葛藤を意味し、この「どうしたらいいかわからない」という状況を迷わずに決めることをサポートする作用ともいえます。
②馴化作用(静穏化作用)
闘争行動や攻撃性、情動過多、刺激性を抑制する作用のことを言います。
③自発運動抑制作用
運動量を減少させ活動量と低下させる作用のことを言います。
臨床的には鎮静作用と関連しています。
④抗けいれん作用
けいれんの閾値を高めてけいれん発作を起こしにくくする作用のことを言います。
主にランドセン、リボトリール、ベンザリン、ネルボンなどは抗てんかん薬として用いられています。
注意することは、抗精神病薬によりけいれん閾値は低下するため、抗精神病薬を内服しているてんかん既往の方の症状観察には注意が必要です。
⑤多シナプス脊髄反射抑制作用(筋弛緩作用)
多シナプス脊髄反射抑制は、中枢神経系において複数のシナプスを介して伝達される反射の制御を指します。この概念は、神経系の複雑な制御機構として理解されています。特に抗不安薬などの薬物が、この多シナプス脊髄反射抑制作用を通じて影響を及ぼすことがあります。
1.神経系の興奮性の調節: 複数のシナプスを介して伝達される反射経路は、神経系の興奮性を調節する役割を果たします。抗不安薬は、中枢神経系の活動を抑制することで、過剰な興奮性を和らげる効果があります。これにより、不安や緊張などの精神的な症状が緩和される可能性があります。
2.筋肉の緊張の緩和: 多シナプス脊髄反射抑制作用は、筋肉の緊張を制御する神経経路にも関与します。神経系の調節により、筋肉の過度な緊張やこわばりが緩和されることで、不安や緊張に関連する身体的な症状が軽減される可能性があります。
3.痛みの軽減: 多シナプス脊髄反射抑制作用は、痛み伝達の経路にも関与します。抗不安薬が神経系の活動を調整することで、痛みの感じ方や痛みに対する感受性が変化することがあります。
以上のように、抗不安薬が多シナプス脊髄反射抑制作用を介して神経系に影響を及ぼすことで、不安や緊張に関連する身体的な症状の軽減が期待されます。
筋弛緩作用の強い抗不安薬や睡眠薬はふらつきや転倒などの危険性を高めるため特に高齢者への処方は筋弛緩作用の弱い薬剤か、筋弛緩作用のない薬剤が選ばれています。
⑥睡眠・麻酔・鎮痛増強作用
眠気を催す作用で、睡眠導入作用があるといわれています。
⑦アルコール離脱せん妄の予防作用
アルコール受容体とベンゾジアゼピン受容体が似たような構造をしているため、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を内服することで、薬がアルコールのようにアルコール受容体を刺激し、偽飲酒状態を作ってアルコール離脱せん妄症状を軽減させるために用いられます。
すでにせん妄がおきている患者に対しては、リスペリドンやセレネースなどの抗精神病薬との併用処方がされることが多くあります。
基本的に、内服できるのであれば、セルシン(ジアゼパム)、コントールなどの処方がされ、肝機能の障害がる場合には肝代謝ではないワイパックスが処方されます。内服ができない場合にはセルシン(ジアゼパム)の筋注がされます。
⑧健忘作用
この健忘は服薬前の記憶は覚えているのに吹く訳語の記憶が傷害される前向性健忘であり、ベンゾジアゼピン系薬剤の副作用として紹介されています。
不安や恐怖を伴う手術前の外科的処置前に内服することで不安や恐怖を伴う不快な出来事の記憶そのものを消失させる作用があります。
術前に内服指示がでるのは鎮静作用だけではなく、健忘作用も期待しての処方であるといわれています。
・副作用
すべてのベンゾジアゼピン系抗不安薬には5つ副作用があります。
①眠気、ふらつき、転倒
眠気やふらつきは比較的多く見られる副作用です。
眠気は催眠・鎮静作用によるものであり、ふらつきは筋弛緩作用から来ています。
高齢者では眠気やふらつきなどによる転倒、骨折の危険性があるためベンゾジアゼピン系の抗不安薬の使用には注意をする必要がありますが、急激に減量すると離脱症状が起きる場合があるため、漸減していく必要があります。
②依存・耐性
ベンゾジアゼピン系抗不安薬(睡眠薬も含む)には、基本的にすべて依存性のある薬剤であり、大量連用により薬物依存を生じることもあります。
依存性は薬効が切れると一気に不安や焦燥感が高まってしまうため、薬剤が手放せなくなります。
耐性は効いた感じが薄れてきたり、弱くなってしまい、容量がだんだんと増えていく状態です。
一般的に①効果が強力で、②効果発現が早く、③血中濃度半減期が短い薬剤のほうが、そうでない薬剤よりも依存や耐性が形成されやすいとされています。
このような特徴を持った薬剤を使用すると「すぐに効いた、気持ちいい」といった快感や快楽、安堵感、効いている実感を得やすく薬効が切れたときにすぐに不安や焦燥感がぶり返し「薬がないとダメだ」と思い込みやすく、心理的依存形成が始まります。
常用量でも数週間から数ヶ月の連用により、依存や耐性が生じるとされているため、理想的には4週間以下の短期間の使用に限定されるべきといわれています。
③離脱症状
身体依存の形成された状態から急激な減量や中止を行った際の離脱症状として頻度の高いものは、焦燥感、けいれん発作、せん妄、不眠、不安、幻覚、妄想、恐怖、消化器症状、新鮮、激越などがあります。
一般的に血中濃度半減期の5~6倍の時間を経過したころに離脱症状が出始め発症後数日で症状のピークを向かえ、数日kら数週間をかけて徐々に症状が消失していきます。
一般的にデパス(エチゾラム)やリーゼ(クロチアゼパム)など短時間型で力価が高いほど離脱症状の頻度が高く重症度も高いとされています。
離脱症状を回避するためには、原料は1週間に想容量の10%以下にとどめることが推奨されています。
以下に詳細な離脱症状についての解説をしていきます。
1.急性不安症状
抗不安薬を中断すると抗不安作用の裏返しで急性不安状態に陥ります。
薬剤によって抑えられていた緊急事態に対する恐怖反応や、闘争・逃避反応などに関連する中枢・末梢神経系が薬剤が抜けることにより反跳的に過剰反応を起こしていると考えられています。
「のどが詰まりそうで呼吸ができない感じ」「がたがたと足が震える(戦慄)」などの訴えをすることがあります。
2.不眠・悪夢
効果の裏返しで不眠や悪夢が現れます。
ベンゾジアゼピン系の薬剤による睡眠は夢を見るレム睡眠と徐波睡眠(熟睡間の得られる深い睡眠)を減らし、浅い睡眠を増やします。
薬剤を中断すると不眠になるだけではなく、レム睡眠が増加することで夢がより鮮明になり、悪夢を見るようになり何度もやかん中途覚醒してしまうことがおきます。
3.侵入的記憶
何年もの間考えたり思い出しあり、あったりしたこともない人物や情景などの記憶が突然鮮明に思い出される侵入的記憶が起きることもあります。
単に思い出すだけではなく、フラッシュバックや強迫観念のように繰り返し現れ思考を妨げることがあります。
4.感覚過敏・幻覚
あらゆる感覚器官の知覚(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)の感度の増大や幻覚や錯覚の起こしやすさがあります。
近く刺激に対する過敏性では、小さな物音がうるさく感じたり、耳の中で「スー」「ジー」などの摩擦音や機械音、耳鳴り音が聞こえることがあります。
また、軽く触っただけなのに強い痛みを感じたり、普通の食品がまずく感じたり、金属の味を感じる、皮膚に虫が這っているなど感覚に異常が現れます。
また、感覚変容では床がうねる、天井が低く迫ってくる、壁やや床が傾くなどの感覚変容が起きます。
身体感覚の変容をして、頭を風船のように感じたり、足を鉄骨が入った棒のように感じえうなどの身体感覚に異常が生じます。
幻覚・錯覚としては幻聴や錯聴、小動物幻視などがあります。
5.離人症・現実感の消失
「幽体離脱したような感じ」「自分が自分じゃないような感じ」「見たり聞こえたりするものがすべて膜に包まれている感じ」といった離人感や現実感の消失といったことを訴えることがあります。
6.抑うつ・攻撃性
7.筋肉症状
ベンゾジアゼピン系薬剤には筋弛緩作用があるため、中断するとその反跳として筋緊張が見られます。頭痛や、仮面溶岩棒、無表情、霧視、複視などを引き起こし無意識の歯の食いしばりなどであごや歯の痛みを訴えることがあります。
8.身体感覚の異常
ちくちく、ピリピリ、ぞわぞわといった感覚や電気ショックのようなピリッとした感覚、冷感や熱感、掻痒感などの身体感覚の異常も起こります。
9.てんかん発作・けいれん
ベンゾジアゼピン系薬剤には抗けいれん作用もあるため、中断するとてんかん発作を起こすこともあります。
④奇異反応(精神興奮、錯乱など)
特に高齢者や子どもなどに多く見られ、不安、不眠、悪夢、入眠時幻覚、過活動、攻撃性の更新が見られることがあります。これらは奇異反応と呼ばれています。
⑤呼吸抑制
慢性気管支炎などの呼吸器疾患や全身状態が低下した高齢者などに用いた場合、呼吸抑制が現れることがあります。
呼吸抑制は脳幹の橋‐延髄‐網様体にある呼吸調整中枢と呼吸中枢(呼気時に興奮する呼気ニューロンと吸気時に興奮する吸気ニューロン)が直接的に抑制されるために起こります。
呼吸抑制が深刻な場合は拮抗薬のアキネセートをIVすることで改善させることができます。