悲しい3つのトピック(子どもの虐待・児童ポルノ・危険ドラッグ)と“おもいやり”を考える

最近の新聞を賑わす3つの悲しいトピックである。いずれのものにも共通している要素は、“人間性の喪失”ではないか。平成14年度の警察庁の発表では、全国で2.8万人の虐待通告が児童相談所に通告され、傷害や暴行など身体的虐待が75.4%、性的虐待が21.5%、心理的虐待は1.6%,となっている。この数字は年々増加しており、何故にこのような状況が作られたのか、我々は真摯に反省すべき時期に来ている。
一方、全国の警察が昨年1年間に摘発した児童ポルノの製造や流通による子どもの被害者は746人で、摘発された件数は1,828件と毎年増加傾向にある。ただし、この数字は氷山の一角とされ、実数は更に大きいとされる。約7割に当たる97人が強姦や強制わいせつの被害を受けており、その様子をビデオカメラで撮影され、悪徳ビジネスに利用されている。
危険ドラッグは法の網の目を巧みにくぐり抜け、次第に青少年の間でも浸潤し心身の破滅を招来させている。2,012年の1,069関連施設の報告では、主たる乱用薬物の種類で分類すると、多い順に覚せい剤(42.0%)、危険ドラッグ(16.3%)、睡眠薬・抗不安薬(15.1%)、有機溶剤(7.7%)となっている。危険ドラッグの特徴は幻覚・妄想の急性精神病が出現するとされているが、覚せい剤同様他人に被害を及ぼすきっかけを生じている。
私は、これらの事象に共通している点を、前述の“人間性の喪失”としているが、幼少時からの“自他に対する思いやりの欠如”に帰結しているように思われてならない。これは個人のみで形成されることはありえない。ルイセンコ学派ではないが、遺伝的性質以外の環境条件で次第に作られていくと思っている。子どもたちに“おもいやり”が自然発生的に生じる状態ができたら理想的であるのだが。電車で老人が立っていたら条件反射的に席を譲る行動がとれるような子ども。タバコのポイ捨てを恥じる気持ちを持つ大人が育てばこの国は変化する。
井上ひさしの作品の中に、要約すると次のような文がある。「この宇宙には約4兆の惑星があります。4兆の惑星の中に地球があります。まさに地球は奇蹟の星です。奇蹟の地球に生命が生まれたのも奇蹟です。何億年もかかって命が人間にまで進化したのも奇蹟です。何億何兆もの奇蹟が積み重なった結果、あなたも私も今こうして生きているのです。今生きているということだけで、それはもう奇蹟の中の奇蹟なのです。」このフレーズは、私が思春期教育(性教育)講話を行う時に引用している有り難い言葉だ。まさに井上氏は自然と人間の営みの在り方に早期から警告を与えていたように思える。“おもいやり”は奇蹟的存在である人と自然に対しても同次元に位置しなくてはならない。最近は、お互いが奇蹟的存在であることを忘れ“おもいやり”の心を忘れ、環境破壊をはじめ、幼小児、身障者、認知症患者、同性愛者、外国人、貧困家庭等に対しても差別と排外を無意識のうちに作っているように見える。
“おもいやり”の行動はそれほど難しいものではないが時に勇気もいる。過日、ブラジルでのサッカーワールドカップで日本は敗北したが、試合後に辛い気持ちを持ちながらもスタンドのゴミ拾いを行い世界の賞賛を浴びた。“おもいやりは”身近にあるし、その否定も身近にある。電車の携帯通話、酔っぱらいの嘔吐、タバコのポイ捨て、電車内での化粧、駅前の違法駐輪等。ほとんど毎日“おもいやり”が欠如した目を覆いたくなるような、耳をふさぎたくなるような事件の発生に心が痛くなる。
人間性の根幹をなす“おもいやり”を育む環境と教育こそ3つの悲しいトピックを改善できる方法ではなかろうか。“おもいやり”と同情は根底から異なる。弱者に対する同情ではなく、知識と寛容こそが必要であろう。今こそ地球と人は“おもいやり”の熟成を待っている。

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渋谷区笹塚で産婦人科「東クリニック」を開業している医師です。「思いやり」をモットーとしています。